最初が肝心なんだよ
予約投稿です。
今頃僕は可愛い女の子と街を歩いている… といいな。
武封国は何と言うか、活気に溢れた良い意味でごちゃごちゃした街だ。
大きな声で食べ物を売っているおっさん。素材の様な物を売っている店で値引き交渉をしている冒険者、掘り出し物の装備を探そうと真剣な目をしている者もいる。
「ほぇ〜 賑やかですねぇ」
フェリスも驚いたようでそんな声を上げた。
「今は夕食前の時間だからね。冒険者も戻ってくる時間だから一番賑やかなのよ」
「ほー」
「で?まずはどこに行きたいの?」
「宿かなー。休める場所は早いうちに確保したい。ランクが上がればすぐ変えるからそんなに気にしないでいいや」
「分かったわ。3人が入れる部屋ね?」
「そうだな。 あ、おっさん!おつかれさま。コレで仕事は終わりだけどこれからどうするんだ?」
アレナから俺たちを運んでくれたおっさんに声をかける。
「そうだな。せっかく武封国に来たんだから観光するさ!あと、珍しい物を買い付けてアレナで新しい商売も始める!」
「そうか、気をつけろよ」
「早くアンタが有名になれば俺に手を出してくる奴はいないはずだ。さっさと名を挙げろよ!まぁ、アンタならすぐか!」
「努力するよ。暫くいるなら宿を教えてくれ。時間が出来たら飯でも食おうぜ」
「おう!またな」
おっさんは馬車に乗って雑踏に消えていった。
「で、貴方の宿ね。お勧めしたい宿があるんだけど、その通り道に冒険者組合があるの。先にそっちに寄ってみない?」
「うーん。なんかトラブルに巻き込まれる気がするんだよなー。その前に宿くらい確保したいんだが… 二人はどう思う?」
「トラブルに巻き込まれるなんて遅いか早いかの違いです!」
「早く冒険者になりたい!」
「じゃあ、組合にいくか…」
「そう?良かった!私たちも依頼達成の報告に行かなきゃいけないから。悪いわね」
「別にいいよ」
目的地が決まったので歩き出す一行。そんな中俺たちは後ろでコソコソ作戦会議だ。
「いいか?最初が肝心だぞ?」
「何がですか?」
「想像してみろ。ガキ二人とそれよりも幼いガキ一人が冒険者組合に入ってきて一番ちっこいのが冒険者になりたい!って言ったら周りはどう反応すると思う?」
「冒険者はままごとじゃねぇんだよ!ですか?」
「勇敢な冒険者様だぁー。俺の宿の雑草退治でもお願いするかぁー!じゃない?」
「ま、まぁそんな感じだ。ようは馬鹿にして絡んでくる馬鹿が絶対いるってこと。それは面倒だろ?最初に俺たちに喧嘩を売っちゃいけないと分からせなきゃダメなんだ。さて、どうすればいいだろう」
「「近くにいる奴を殺す?」」
「違うわ!いつの間にか俺が止める側になってる!フェリス!昔のお前はどこに行ったんだ!」
「ご主人様に汚されちゃいました。キャハッ!」
「……エストリーさん。貴方確か吸血鬼である事を隠す気無いんだよね?」
「うん」
「じゃあさ。吸血鬼である事を全面にアピールしようぜ。むしろ、例の伝説の人物である事をアピールするんだ!」
「お兄ちゃんと姐さんは?」
「殺気を振りまく」
「そんな事したら組合にいる冒険者が武器を抜くんじゃない?」
「いや、Aランクの奴が絶対に敵わないと思う程度の殺気を叩き付けてやる」
「おぉう…」
「で、我に返ったロッソたちが俺達を止めに入るってわけだ。見てみろアイツら街の人間に慕われている。結構有名なパーティーみたいだぜ?そんな奴らが下手に出るんだ。俺たちを侮る奴は最初から存在しなくなるって寸法だ!」
「そう言えばそうだね!組合でも顔が広そう!」
「完璧な作戦ではないかね!!」
「「確かに!」」
「じゃあ、それで行こう」
「何を話しているんです?」 そうカルミーが聞いてきた。
「いや、この街での身の振る舞い方を確認していたんですよー」
「確かに、いかに大きな力を持っていてもそのような心構えをする事は大切ですね!」
「えぇ。くだらないことで敵を作りたくないですから…」
歩く事15分程。レンガ作りのしっかりした大きな建物の前でロッソが止まった。
「ようこそ!ここが武封国の冒険者組合よ!ちょっと私たちが話通してくるから待ってて!」
そう言って入っていった。 さっさと自己紹介したいのに…
「どうします?」
「計画に変更はない。エストリー、見せつけてやれよ」
「んふふっ! 分かった〜!」
二分程でロッソが戻ってきた。
「お待たせ!中にいる奴らには事情を説明したわ!でも暫くは絡まれるかもしれないけど我慢してくれる?」
「えぇ。そんな心配はしてませんよ」
そう言って扉を開けた。
中には100人を超える冒険者がいる。仕事終わりで清算をしている奴、仲間と報酬のやり取りをしている奴、酒を飲んでいる奴など色々だ。受付にも10人を超える職員が座って仕事をこなしていた。
依頼の報酬を貰うために職員の前にそこそこ長い列が出来ている。
(おぉ!凄い広いな!)
俺たちが入ってきて多くの奴らがこっちを見てきた。予想通りどいつもこいつもこっちを舐めた目で見ているのが分かる。
「よし、挨拶だ」
そう二人に聞こえる音量で言う。
開いた扉からエストリーが浮いたまま入っていった。
こちらを見る冒険者の頭にクエスチョンマークが浮かんでいるのがわかる。
大量フリルの服を着た金髪幼女が浮いているのだ。そりゃ不思議な気持ちを抱く。
そして俺とフェリスは一歩踏み出すと同時に殺気を解放した。
組合の空気が一気に凍る。誰も武器は抜かない。抜いたら殺されると思っているのだろう。
何人か気絶してるな。武封国は強者の集まりと聞いていたが初心者もいるらしい。
絡もうとしていた連中を見ながら部屋の中央までゆっくり歩く。目を逸らす事も出来ずに震える連中をしっかりと見た後に殺気を解除した。皆張りつめた息を大きく吐きぐったりしている。
そんな中最初に声をかけてきたのは筋肉担当のタームだった。
「旦那!何やってんだ!とんでもねぇ殺気発しやがって!死ぬかと思ったぞ」
「俺を下に見る視線がうっとうしくてな。絡まれる前に牽制しといたんだ」
「おいおい… 勘弁してくれよ。それと、このお嬢ちゃん浮いてるけど一体何をやってやがるんだ?」
「コイツは吸血鬼だ。吸血鬼のエストリー。名前くらい聞いた事あるだろ?」
またしても組合の空気が凍る。 最早お伽噺レベルなんだろうが気付いたか。
そのまま他の奴らを無視して受付のお姉さんの前に立つ。なんか死を覚悟した顔をしているな。
「あの、こんな事しといて説得力ないと思うんですが、我々はここで暴れるつもりはありません。彼女の冒険者登録をしにきたんです」
「ぅえ? 幻想の魔女の…?」
「幻想の魔女?」
「彼女が伝説通りのラヴァルの血統である吸血鬼エストリーなら二つ名は幻想の魔女なはずです」
お姉さんの声がどんどん小さくなっていく。
「おい、エストリー。お前そんな痛い二つ名持ってんの?」
「懐かしいねー。でも、自分で名乗ったわけじゃないよ?」
「幻想ねぇ… 物理攻撃くらわねぇからそんな名前になったのか。コイツは本人なんで、その幻想の魔女です」
「幻想の魔女が冒険者になるんですか?なれない事はありませんが、ランクが難しいですね」
「いや、Gからでしょ」
「えっ!?そんな!伝説級の化け物をGランクになんか出来ませんよ!」
「俺、Cランク。この子Eランク OK? ちなみにインペラ皇国で冒険者になった」
「あの国は… こんな危険な人物をそんな低ランクに置くなんて… いつか己の愚かさで滅びますね…」
「まぁ、とりあえず、ここには暫くいるんで。まずはコイツにGランクの冒険者証を発行して下さい」
「は、はい!」
数分後、エストリーは冒険者になった。
冒険者証を貰いテンションが超上がっている。冒険者証を持ち近くの冒険者に見て見てーと絡んで見せつけていた。
おっさん達がなれない気持ち悪い笑みを浮かべて凄いですねーとか言ってる。哀れだ。
「しばらくはこのロッソにこの街のアレコレ教えてもらいますので。なにかあったらこの人達に言って下さい!」
「分かりました!」
元気よく返事をするお姉さん。俺達と関わりたくないんだろうな…
「じゃあ、最初の目的地だった宿に向かおう。お騒がせしました。皆さんこれからお世話になります」
「「なりまーす」」
扉の前で三人深々と頭を下げ冒険者組合を出た。
「よし!完璧だ!」
「どこがよ!! 何考えてるのよ!私たちの株下がったわ!」
「大丈夫だ!いざとなったら被害者面して俺たちに出来るだけ関わらなければいいんだ!」
「命の恩人に失礼な態度取れるわけ無いでしょ! まったく、何で穏便に済まそうとしないの」
「長い目で見た時これが一番傷つく者が少ない方法だと判断した為だ」
「まぁ、そうなのかもしれないけど… それにしたってやり過ぎじゃない?」
「中途半端だと武器を抜く奴が出てくるだろ?」
「そ、それも確かに… でも、アンタらが常識外れのアンポンタンってのはよくわかったわ… あぁ〜、宿紹介したくないよぉ〜 絶対何日か後におかみさんから文句言われるぅ」
「大丈夫!こっからは紳士で行くから!」
「信じられるか!」
なんだかんだ言って宿に連れてってくれるロッソ。優しいね。
冒険者組合から10分程の木造の建物についた。
「こんばんはー。カノンさん」
「あら!ロッソ。珍しいわね!お客さん連れてきてくれたの」
「う、うん。この三人」
「あらあら、可愛らしい冒険者さんだこと!ロッソの荷物持ちなの?」
「違うわ。今日私たちの命を助けてくれた超強い冒険者よ」
「え?!こんな可愛い顔してるのにそんなに強いの?」
「こんばんは。おかみさん。ロッソさんに紹介して頂いて暫くここにご厄介になります。ゼロです。こっちは僕の従者のフェリス。こっちの幼女はエストリー」
「よろしくお願いしまーす!」 「よろしくね!おばちゃん」
「ご丁寧にどうも。私はおかみのカノンよ。Cランクの宿をやってるわー。
ここに来たって事は貴方達Cランクなの?」
「僕がCランクです」
「まぁ!凄い! 取りあえず色々お話する前に宿泊についての話ね!」
「えっと、取りあえず1週間くらいでお願い。すぐにこの子達はランクが上がるから長居はしないわ。というか、させない」
「え?」
「部屋は三人が十分寝れる広さでお願い。快適な場所を用意してあげて。お願い!」
「わ、分かったわ… 相当この子達に感謝しているのね。いい部屋案内するわ!」
「わーい!ありがとうございます!カノンさん!」
こうして俺たちは宿をゲットした。




