アレナ共和国到着
父は理想の高い、本当にこの国を憂う立派な人だ。
この国は資源も乏しいのに人々は戦い続きで滅びの一途を辿っている。
権力者は己の欲の為だけに動いていた。今は本当に酷い時代なのだと父はいう。そして自分がそれを変えてみせると。
父は精力的に民の味方になり民のためになる政策を行った。
民も多くが私たちの味方をしてくれるようになった。
だが、この国は力を持たない者は何をしても勝てない構造が出来上がってしまっている。
武力も財力も一般市民が全員集まってもどうにもならない程の差が存在しているのだ。
しかし、私たちを邪魔だと思ってはいたようだった。
なんと、一人の王を決めようと言い出したのだ。 言ったのは一番の武闘派であるヘイアス。
彼は強者を集め、恐怖でこの国を支配しようとしている派閥だ。彼に迎合して2つの派閥が彼の元についた。
彼らは王を決める方法を闘技大会で決めると言い出したのだ。
汚いにも程がある。これは確実に父を潰す作戦だ。
もう一つの派閥であるテイニーは昔の権力にしがみつくだけのどっち付かずの優柔不断な男なので、恐らくヘイアスの味方をするのだろう…
結局父は拒否できないままこの闘技大会による王の選定を受け入れた。
父は相応しい実力をもつ者を探していた。全てをひっくり返すような強大な力を持った者。
そんな者は存在しないと思いつつも探しまわった。
そこで出会ったのがホウガンという人間の街からきたAランク冒険者だった。
父は彼に闘技大会に出てくれないかと頼んだが、断られてしまった。
自分はとある強者に出会い自身を無くして修行をしているのだと彼は言った。
彼に自信を失わせるなど、Sランク冒険者にでも会ったのだろうか。
でも、Sランク冒険者なら元から実力差は分かっているはずなので自信をなくすってことも無いと思うのだが…
私も父の手伝いをするため市民に協力してもらうよう活動していた。
そして、その最中私は攫われてしまったのである。
私は犯されたりはしなかったがこれからお前は売られる、馬鹿な父を持ったことを恨め、など様々な罵声を浴びせられた。私は毎日悔しくて涙を流していたが、冒険者と名乗る私よりも幼い男女に救われた。
今私は私を攫ったサソリのアジトで呆然としていた。
彼らの実力は圧倒的だ。それこそ、全てをひっくり返す実力であった。
今彼らが簡単に倒した人たちは紛れも無くアレナで最も有名な犯罪集団のサソリだった。
ヘイアスと協力関係にある強者の集まる集団。
ヘイアスが王になればサソリがもっと傍若無人な行いをするようになると恐れていた。
彼らはその半数をあっという間に殺し尽くした。
(彼らが私の救世主だ)
私はそう思い、アジトの宝を漁っている彼らに近づく。
「あの…」
「おう、吐き終わったか? 手を出しな」
そう言って手を出した私に彼は魔法で水を出した。
「顔を洗って口を濯ぎなさい」
「は、はい。みっともない所を…」
「しょうがないさ。でも、これから君が戦うつもりがあるなら、こういうことは起きていくぞ?」
「それは、覚悟しました。 今」
「それは素晴らしい」
「あの! 貴方との契約は私を父の元に届けることでしたが、延長して頂けませんか?!」
「僕たちに何を頼みたいんです?」
「私の父の戦士として闘技大会に出て欲しいんです! 無理を言っているのは承知しています…
でも、国の為に…」
「いいよ」
「え? っえ!? 本当ですか!?」
「うん。アレナには僕も一つに纏まって欲しいからな。 僕が味方についたなら勝ちは確実だ。報酬弾めよ」
「は、はい!」
「とりあえず、これを」
そう言って彼は外套を渡してきた
「これは?」
「<隠蔽のローブ>というらしい。今見つけた。これを着けると他人から注目されなくなるんだって」
「なるほど… ありがとうございます」
「後で返してね」
そして彼はよくわからない空間に様々な物を放り込んでいく。
「あの、この空間は何なんですか?」
「秘密だ」
「あ、はい」
「よーし、こんなもんでいいだろう! 儲かった儲かった! 最後にプレゼントを残してアレナに入ろう!」
そう言って洞窟を出る。
出た後で彼は小さな石をポケットから出し、洞窟の中に投げ込んだ。
そのまま背を向け歩き出す。
少し歩くと、ものすごい轟音が響いた。 驚いて後ろを振り返ると洞窟がつぶれている。
「はっはっは! ザマーミロー!」
「世直しは本当に気持ちがいいですね!」
「あいつらの協力者殺そう。絶対罪溜め込んでるわ」
「じゃんけんですよ!」
「ねぇ、シェリル。アレナってさ、殺人ってどの程度許されんの?」
「えっと、相手が武器を向けてきたら殺しても罪になりません。
そもそもまともな法が無いので。殺した仲間の報復に気をつける程度ですね」
「じゃあ、間引くか! 名を挙げるまでに何人狩れるかだな…
でも、権力者は見せしめだから、最後に派手に殺ろう」
「退屈しなさそうですね!」
「宿も確保したし、飯も3食出る… 暴れて金と名声と力を手に入れるなんて…
やっぱQTはヌルゲーになってしまった!いや、これこそQTの世界らしい行動か? 取りあえず、ホウガンのような暗躍はもう必要ない!」
なんか、ヤバそうな会話をしている…
「あの、宿って?」
「え? 君の家に泊まるんだよ! 護衛としてね!」
「…… まぁ、そっちの方が安全ですか」
「何かして欲しいことが会ったら事前に言ってね。基本俺たちは悪人殺しまくってるから」
「…は?」
こうして馬に揺られて数時間。私たちはアレナ共和国のはずれの街についた。
当然身分証など提示する必要は無い。ここからは慎重に動かねば。いくら身元を隠せる装備を身につけているからといってもヘイアスの手先はどこにでもいるのだ。
何とかトラブルに巻き込まれる事無く首都につかなければならない。
人相の悪い男が闊歩する中を歩く。すると一人の大男が私たちに向かって歩いてきた。
すれ違う直前、男はゼロさんに肩をぶつけてきた。
(あぁ、早速こんなベタな展開に引っかかるなんて! なんで避けないの!)
そう思ったが、彼は予想外の行動を取った。
「痛っ…」
「痛ってぇぇぇ! おい! おっさん! どこに目つけて歩いてんだ!? あ?」
「おいおい! ご主人様が怪我しちまったじゃねぇか! どう責任取ってくれんだ、おっさん!
骨折れてるんじゃないっすか?」
(お前らが絡むんかーーーい!!)
自分がやろうとしていた事を先にやられた男はすぐに体勢を立て直し絡んできた。
「んだと? ガキ! てめぇが避けねぇからだろ! 怪我したのはこっちの方だ!」
「ナマ言ってんじゃねぇぞ、ゴラ! 礼儀ってモン知らねぇのか!? その年まで何して生きてきたんだよ!」
「そーだ!取りあえず土下座しろや!頭が高いんだよ!」
フェリスもノリノリで男にガンを飛ばす。勘弁してくれ。なんでコイツら慣れてんだ?
「おいおい、ガキ。俺の連れに難癖着けてんじゃねぇぞ!詫びに女と持ってるもん全部置いてけ!」
数人の男が私たちを囲む。まぁそうですよね。
「あぁ?! 大の大人が寄って集って子ども虐めてんじゃねぇよ!? そんなんだからずっと底辺這いつくばってるってわかんねぇのか?」
「んだと、ゴラァ!」「おい! このガキ殺せ!」
そう叫んで武器を抜く男達。 ゼロさんがメチャクチャ楽しそうです。
まず掴み掛かってきた男の腕をゼロさんは小太刀で切り落とした。
「ぎゃあああああ!!」
「殺すだぁ? それはこっちのセリフなんだよ… こっちは観光で来てるってのに。
この国に詳しいヤツから、絡まれたら取りあえず殺せって言われたんだ。
こっちじゃこれが挨拶なんだろ?あ?」
(言ってないよ!)
「ゼロさん! アレナに入った瞬間敵作ってどうするんです!?」
「え?! こんな感じでいくのが一番手っ取り早いんじゃないの?」
「早くフェリスさん止めてください! 笑いながら自分よりずっと大きい男にマウント取ってますよ!」
ゼロは想像と違ったのか凄くショックを受けた顔をしている。この国を何だと思っているんだ。
「フェリスー。 怒られちゃったよー。 正当防衛なのになー」
「えー? やめるんですか? おい、おっさん! 逃げようとしてんじゃないですよ」
そう言って、最初に絡んできたなんだかんだ無傷の男を足蹴にするフェリス。
「よし! ガイドもゲットしたぜ! 幸先がいいな!」
(こいつら、悪い意味で適応し過ぎだ!)
私は遠い目で街を見た。
(あぁ、この人はこの国を良くする救世主じゃない… この街の悪人を狩り尽くす死神だ…
まぁ、悪人ならいいの…か?
そう!これは国をよくする為なの! 今悪い人も彼らを見れば更生してくれるわ!
あれ?やってることヘイアスとそんな変わらない?)
こうして、荒れ果てたアレナ共和国を他国より優れた国民に優しい国に作り替えた伝説の冒険者がこの街に入ったのだった。




