さらば、ホウガン
悪くない人も殺してるんだから贖罪値が減ってまた武器が使えなくなったりしないのか、と思う方もいるかも知れませんので説明させて頂きます。
罪の無い者を殺すと贖罪値は減ります。
しかし、主人公は基本的に罪の無い者は殺さず罪のある者は積極的に殺しています。
罪の無い者を殺すと大幅に贖罪値が減らされるという事はないのでまた封印されちゃうってことは起きないです。
安全マージンが沢山あるので。
夕方街に着いた。
俺は予想通り、ハウンドに連れられて詰め所に行った。
そこにはイグノーとあと3人の男女がいる。この街の管理者なのかな。
「ただいま戻りました。僕の方でもトラブルがあったんですが、街でも何か起こったようですね?」
「組合長の家が襲撃されたんだ… しかも、組合長の死体が発見されていない。それらしい物は見つかったんだが」
「それらしいもの?」
「あぁ、組合長の部屋が血と肉片で真っ赤に染まっていたんだ。まるで人間を内側から破裂させたように… だが、あんなのは人間にできることではない…
君を呼んだのは君が組合長から極秘依頼を受けていたと聞いたからなんだが」
「はい。受けていました。僕もそのことについてお話したかったんです。
今回の依頼は、僕以外の8人パーティーの冒険者と森の調査をして欲しいという内容だったんです。 その8人は初対面で名前も聞いたことが無かったんですが、出発前に顔合わせをして良い人そうだったんで受けたんです。
でも、戦闘中に少し違和感を感じまして…」
「違和感?」
「えぇ。 戦い方が冒険者っぽく無いと言いますか、人間相手に戦うことになれている感じだったんです。ようは、騎士のようだなと」
「!」
「僕はその後少しカマを掛けてみたんです。戦い方が騎士のようですねって。
そうしたら、いきなり襲われました…」
「襲われた!?」
「えぇ。森の中で戦ったので、僕に有利でした。皆殺してしまいましたが、実力はDランクくらいでしたね」
「まさか、本当に騎士が何かを企んでいるのか…?」
「え?」
「いや、実は組合長を襲撃した者が騎士なのではという噂が流れているのだ。
昨日の夜一人の騎士が街に入り、組合長の家の方角に向かったのを見た住人が何人もいてね。
そいつの行方が今分からないんだ… 使用人などは騎士がよく使うような大きさの剣で切られていてね」
「そんなことがあったんですか?! でも、そんなあからさまに騎士が疑われるようなことをしますか?」
「この国では騎士は大きな権力を持っている。騎士を疑うなんてこの街くらいだよ」
「国が絡んでいる可能性を否定出来ませんね… 僕は組合長さんから遠ざけられたのでしょうか?」
「その可能性は高いな。君は戦闘力だけでなく気配の察知も優れている。
今やこの街で一番の冒険者と言っても良い程だ。 隙を見て殺そうとしていた所を君が先手を打った、というところだろう」
「なぜ組合長は殺されたんでしょう?」
「分からん。だが、この街は冒険者の街として殆ど国の言うことを聞いていないのだ。それを厄介に思った貴族の仕業かもしれん」
「国のトップの仕業ということも考えられませんか?」
「それは分からないが、いきなりこんな強硬手段を取ってくるとは思えないな」
「まぁ、とりあえず、僕は完全に狙われているみたいなので、当初の予定より早いですが速やかにこの国から出させて頂きます」
「そうだな… その方が良いだろう」
「残念だ。最後は盛大に見送りをしたかったのだが。そうすると危険だな。
皆には私から言っておく。 落ち着いたら戻ってきてくれ」
「はい。皆さんも気をつけて。最悪クーデターなんてこともあるかも知れません」
「まさか! そんな!」
「貴族の命令なのか、騎士の独断なのか分かっていない段階では全ての可能性を疑うべきです。
僕は出れば済みますが、危険なのは抵抗する力を持たない住民の皆さんですから…」
「そうだな。情報収集を急がなければ。と言っても中々尻尾は出さないだろうが…」
「では、僕は出立の準備をしてきます」
「ゼロ君! 後で私の店に寄ってくれないかね?」
「分かりました。 夜に必ず行きます」
俺は街に入って宿に向かう。
これでこの街の権力者に騎士に対する猜疑心を植え付けられた。
戦争のときはこっちに有利に働くんじゃないか?実のところ、この街は愛着が湧いたので戦火に包むようなことは避けたかった。
宿に戻ると
「ゼロさん! おかえりなさい。大丈夫ですか?! 組合長さんが何者かに殺されてしまったそうで…」
「えぇ。レオナさん。聞きました。詳しくは話せないんですが、僕にとってこの国が安全でなくなったので、明日の朝早くこの街を出ることになりました」
「そんな! 一体何が起こっているんですか…」
「首都の方でなにやらあったようですが…
突然ですが、今日がここでの最後の食事になってしまいました。これからイグノーさんの所に寄りますのでまた出てきます」
「は、はい。 とびきり手を掛けたお料理にしますね!」
「ありがとうございます」
俺は階段を上って部屋に戻った。
フェリスが暢気に寝ている。
「戻りました…」
「んにゅ? ご主人様〜? ふわぁぁぁ。 お帰りなさーい 寂しかったですよー」
「はい、ダウト。 昨日は楽しかったか?」
「ニーナさんと美味しいご飯を食べましたー。 あ、ご主人様にお土産ですよー」
そう言ってブレスレットを渡してくる。
「おぉー。これの石を魔蓄石に変えたら面白そうだ」
「普通にお洒落として着けてくださいよー」
「そうそう、昨日の仕事のおかげで明日の朝にはここを出ることになったから」
「えぇ〜! 早いですよ!」
「一応、昨日お前に自由行動させたのはこの街を最後に楽しませる意味もあったんだよ」
「なるほど。身内には優しいですね。 で、結局作戦はうまくいったんですか?」
「十分にな」
「良かったですね!」
「あぁ、手伝ってくれてありがとな。これからイグノーの所に行くんだが、一緒に来るか?」
「はい!お供します! 」
「そう言えば今日の夕飯は豪華にしてくれるらしいぞ」
「ホントですか! やったー!」
そんなことを話しながらイグノーの店に向かう。
「こんばんはー。 来ましたー」
「おぉ! ゼロ君! 待っていたよ。さぁ、こっちに!」
「はーい」
そういって店の奥に通された。
そこにはイグノーが色々なアイテムを床やテーブルに並べているところだった
「旅に出るのに必要な物を揃えさせてもらった。 さぁ、必要な物を持って行きなさい!」
「ありがとうございます! ちょっとそれを予想していたんですが、やっぱり驚いています」
「まぁ、これくらいしか出来ないからね。この国は大丈夫なんだろうか」
「心配ですね。何かあったらこの街は守ってみせます!」
「ありがとう。では、早速何か必要な物はあるかい?」
「えっと、頑丈で使いやすいテントをお願いします。武器は別の少しいいヤツが欲しいですね。
あと、旅にあると便利な物を色々と…」
「そうだね。それがいいだろう」
そう言ってイグノーはいくつかの物を手に取った。
「まずはこれ。冒険者が自分の家として使えるアイテムだ。中に空間魔法が籠められていて見た目よりずっと広いんだ」
「そういうのが欲しかったんです!」
「あと、武器だがこの<魔断ち>という魔剣を渡そう。これは特に魔物に良く利くんだ。
もちろんモンスターや人間にも十分強い武器として使えるよ。君には少し長いかな?」
「そんなこと無いです。これにします」
そう言って1m30cmほどの太刀と50cm程の小太刀を受け取る。
「あと、使える物だが… この<心送り>という指輪を渡そう。これは、身につけた者同士がある一定以内の距離にいると会話をしなくても意思の疎通が出来るアイテムだ。4個セットで売られている。君は仲間を増やすだろうから、持っておきなさい」
「それは凄い! ありがとうございます!」
その他に、回復アイテムや使い捨ての武器などを選ぶ。
「では、長い間お世話になりました。またお会いしましょう」
「あぁ、気をつけるんだよ」
「武封国で有名になってやります! この国がヤバくなったら逃げてくださいね」
「あぁ。分かっているよ。私は商人だ。そこまで国に強い依存心は持っていない」
「じゃあ、これがお金です」
「受け取るつもりは無いんだが… 君もタダで受け取るつもりはないんだろ?」
「もちろん。絶対におしつけます!」
「まったく。ゲイルに似てきたんじゃないか?」
「僕はゲイルさん程紳士じゃありませんよ」
「ははは! アイツが紳士なら私は神になれるよ!」
「では、また。どこかで!」
「あぁ。君の活躍が聞こえてくるのを楽しみにしている」
俺たちは握手を交わして別れた。
宿では本当に豪華な食事を出してくれた。せっかくだからとレオナも誘って一緒に食べる。
宿のお金は夜のうちに清算した。
「ご主人様ー。これからどうするんです?」
「俺のギルドを探しながらアレナ共和国に向かう。そこで権力者と仲良くしておきたい。出来れば国王とな」
「王様とですか?」
「あぁ。恐らくこの国は壊れていく。他国にマークスを拉致したとかいって戦争を仕掛けるかもしれない。それより早く、血を流さずに俺を認めさせたいんだ。アレナと武封国はここ程デカくないらしいからな」
「武封国! 行きたいですね! あそこは力が全てですから!」
「俺も思いっきり戦いたいわー」
「ソウデスネ…」
「明日は早いからもう寝るぞー」
「はーい。結局一度も甘い夜を過ごせませんでした… ぐすん」
朝早く俺達は門を出る。
ハウンドが見送りにきてくれた。何も言わず俺と握手を交わす。
「この街をお願いします」
「あぁ。今回のことは騎士として複雑な気持ちで整理が出来ていないが、なにが起こったとしてもこの街の敵とは戦ってみせるよ」
「では、また」
「あぁ、またな」
こうして俺は始まりの街であったホウガンを後にしたのだった。
これで一つの章が終わったという感じです。
今後は姑息な手段で人を殺すのではなく、真正面から己の力を見せつける感じに変わっていくと思います。




