閑話4;フェリスの初依頼
私の名前はフェリス。奴隷だ。
以前はグラシアという名で、この世界のすべてを恨み、死にたいと思って日々生きていた。
そんな私の人生はある少年にあって一変した。
彼は私の不幸の象徴である白い髪を獣人の憧れである黒髪に変え、私を蝕む化け物を服従させてしまった。
そして見たことも無い奇麗な服と美味しい食事を与えてくれた。
ご主人様は私にとって神様のような人だ。
裏表があり、私をからかうので私は素直に感謝を表現出来ないが、それでも私は彼に私のすべてを捧げるのだ。
出会って1日だが私は彼を崇拝していた。
今日は街を回って私の為に色々な装備を与えてくれた。そして美味しくて可愛いお昼ご飯をご主人様と一緒に食べる。
彼は興味深そうにで奴隷契約について質問してくる。
何でも望んでください! あんなことやこんなことも喜んでやります!
食事が終わり私にしたいことを聞いてくれたご主人様。
早くお役に立ちたくて私は依頼を受けてみたいと言った。
彼は承諾してくれた。私の初めての依頼は薬草20個の納品。
俺も最初はこれだったんだ。そんなことを笑いながら言うご主人様。
楽しかったのはそこまでだった。
『避けろ!!』そう頭の中で声が響く。今さっき私がいた場所に小さな石のような物が高速で降ってきた。
今私は森の中で必死に逃げている。
そう、最愛のご主人様から…
森に入ると私はご主人様の後をついて黙々と走った。
獣人の私は人間なんかより早く走れるし、今は中の化け物の力を貰っているので異常な速さで走れるようになっている。ご主人様は言わずもがな。
普通の人間には目で追うこともできない速さで1時間も奥に走って行った。
薬草採取は全くしていない。
「よし、こんなもんでいっか」
そうご主人様が止まって言う。
「フェリス。これからガルーに合うぞ」
そう言って私の目を見たご主人様は私の中に入ってきた。
気がつくとあの空間にいる。
目の前にはどこから出したのか奇麗な椅子に座ったご主人様と近くで伏せているガルー。
そしてご主人様は言った。
「これから僕と鬼ごっこをしてもらいます。君たちはコミュニケーションをとって僕の攻撃を避けながら街に行くのです。薬草は集めなくていい。」
「え? いきなりなんですか?」
「君が依頼を受けたいなんて嬉しいことを言ってくれるから、今日から修行を開始することにしたんだよ。 君はガルーから力だけは受け取ったけど、使い方を知らないし、コミュニケーションも取れていない。 ガルーは気配を読むのが得意なはずだ。 こいつとうまくコミュニケーションが取れれば君は高性能なレーダーをその身に宿したのと同じになる。
修行の攻撃は君には感知出来ないけどガルーには感知出来るくらいのモノを放って行く。
だから、ガルーの言葉を無視したら死ぬからそのつもりで!
ガルーはどんどん戦いのことを教えてやってくれ。
いやー、基礎体力もつけ、危機察知能力も向上し、ガルーとの連携の練習にもなるし、なおかつ殺気を当てられても動ける体を作れるようになる。
完璧な基礎トレーニングだ!」
そう言うご主人様。 こいつ、やっぱヤベェ。
そして私の意識は森に戻る。
「じゃあ、始めるねー。 この砂時計の砂が落ちきったら俺が動き出すから。5分ねー
あと、ここに来る途中に色々トラップ仕掛けてるんで。それも気をつけろよー。
では、Move!!」
ご主人様からヤバい殺気が放たれ私は反射的に逃げた。
『ではフェリスよ。よろしく頼むぞ』
そう化け物から言われた。
「何なのよ! なんなのよぉ! 私はご主人様のお役に立ちたくてやる気を見せたらなんか思ってたのと違いすぎるよぉ。 うわぁぁぁん!」
『な!泣くな! 愛故だ!』
「こんな歪んだ愛なんていらないよ! もっとストレートに愛して!!」
『と、とりあえず私は半径10m程なら攻撃は感知できる。 しかし、主の攻撃からして私が感知し、君に伝えて君が察知し回避なんて真似をしていたら確実に当たるぞ!』
「じゃあ、どうすんのよ!」
『もっと簡略化するんだ! 危険を察知したら合図を出す! とりあえず走れ!』
「分かってるわよ!」
走る、走る、走る…
『そろそろ5分だ。主が動き出すぞ!』
「まずは追いかけてくるわね! 遠距離攻撃にも気をつけないと!」
そう叫び身構える。
すると、真横から声が聞こえた。
「よう。まだそんなとこ走ってんのか? 遅すぎる」
そう言われ、気がつくと私は後ろに吹き飛ばされた。
「ぐぅっ!!」
『大丈夫か! くそ! 速すぎる! 何とか接触時に魔力を与えたがそれでもラグがあると効果が薄いな…』
そんな声を聞きながら私は地面に叩き付けられる。
『大丈夫か?』
「そんなに痛くなかった」
『彼が手加減しているのだ。あと、私が魔法防御を展開するのを分かっていたのだろう。
彼は手に装備をつけていた。 あの武器は我程度の防御力があればそれほど脅威ではないからな』
「貴方程度って、貴方神でしょ…」
『さっきも言ったが、私が防御を発生させるとタイムラグが発生し、効果を十分に発揮できない。 今の感覚を思い出して自分で展開出来るようにするんだ。 発動をやってくれれば私が魔力をコントロールする』
「なんでそんなに協力的なの?」
『私の力を取り戻す為だからな。 それに、彼について行くと面白そうだ。
だから、君には彼の隣に立てるくらい強くなってもらいたい』
「はぁ、もう、どいつもこいつも! 私はっ!」 ッチュイン!!
文句を言おうとした私は強制的に言葉を止められる
私の頬を何か小さい物がとてつも無い速さで擦ったのだ。
『今のは… さらに速いな…』
「もう、なんなの?」
『とりあえず街に向かって走るしかない』
「向こうにはご主人様がいるわよ?」
『彼はそれを狙って君をここまで飛ばしたのだ』
「あぁ、そっか…… やるしか無いよね。
よろしく、ガルー」
『うむ。逃げつつ色々教えて行こう』
「お願いします」
命をかけた場面では邪見に扱ってはいけない。
こうして命がけで帰り道を進み始めた。
地獄だ。私は今地獄にいる。
プレデターに襲われるシュワちゃんの気持ちがわかった。 何を言っているのかもはや分からない。
「はぁ、はぁ。 ここはどこ?」
『このままのペースでいくなら森を抜けるまではあと20分ほどだ』
「えっ! もう2時間は走っているのに?!」
『少しずつ西にずれているのだ。 あの突然地面が爆発する攻撃が厄介きわまりない。
突然現れ軌道修正するように直接攻撃してくるのも辞めてもらいたいな…
心臓に悪い』
ご主人様の言った通り、道中にはいきなり地面が爆発したり、ナイフが飛んできたり、明らかに野生じゃないモンスターが襲ってきたりと様々な妨害があった。
「そうね… 遊ばれている感じがして少し腹が立ってきたわ。
ねぇ、ガルー。次ご主人様が来たら一発ぶん殴りたいんだけど」
『お、おぉ。 では、東に向かってみよう。
彼は意図して西に動くようにしている気がする』
「分かった。私も頑張るから。」
そう言って再び走る。今回は全力で。
たった数時間だが、このスピードに私は大分なれた。
攻撃の瞬間も何となく察知出来ている。
逃げているだけではダメだ。
私はそう感じ始めた。ガルーの魔法防御の鎧に頼りきるのではなく自分でも防御をしなければならない。
次は攻撃を受け止めてみよう。 そして一発くれてやる。
遠距離攻撃をガルーの察知でギリギリ躱しているとまた爆発が起こった。
察知した私たちは爆風を避けながら最短距離で駆け抜ける。
(ここで来るか!?)
そう思ったら右側で少し空気の流れが変わったのを感じた。
咄嗟にそこに右腕をかざすとそこにご主人様の腕が当たった。
この修行が始まってから初めてまともにご主人様の顔を見た。
少し意外そうな顔をしている。
その顔をぶん殴ってやる! そう強い気持ちを籠め空いている左腕を握り拳を振るう。
それを見たご主人様は満面の笑みを浮かべ額で私の攻撃を受けた。
『おぉ!』
そうガルーが驚くのが聞こえる。
動きを止めたご主人様に対し、私は追撃を行う。
逃げ回るのとは違い今は楽しくなってきた。
拳を振るう内に自分の体に風が纏わり付いて行くのを感じた。
『それが私の力の一つだ! 素晴らしいぞ!』
そう聞こえた。 もっと自分の力に体をゆだねる。
(もっと速く、鋭く!)
そう念じながら拳を叩き込む。
しかし、ご主人様は楽しそうに笑うだけで守っているだけだ。
(どれだけ余裕なの!? 全然届かない!)
「予想以上だ! やはり素晴らしいよ、フェリス!」
ご主人様はそう私を褒めて殴るのではなく押さえ込んできた。
「よし! 終わり! 頑張ったな!
ちょっと楽しくなり過ぎだ。魔力を使いすぎてんぞ!」
そう言う言葉で私はふらふらなのに気付く。
彼は笑いながら回復魔法をかけ、私を支えて魔力回復のポーションを飲ませてくれる。
その後は甘いお菓子をくれた。
そして私を負ぶって街まで歩く。
「初日のお試しでこんだけやれるんならビシバシやろう!」
そんな意地の悪いことを笑いながら言う。
「もっと優しくしてください」当然私は文句を言うが、今日の修行の内容を思い出す。
(意地悪だけど、優しいな…)
なんか彼の思い通りになってる気がするが、まぁ、いっかと思いました。
夕ご飯は何かな…




