閑話2;とあるAランク冒険者の憂鬱
ヒュッ!! と風を切る音がして血しぶきが上がる。
俺の目の前では10代前半のガキが自分の倍の背丈もある化け物の首を落としていた。
俺の名前はゲイル。このホウガンの街で唯一のAランク冒険者だ。
Aランク冒険者はインペラ皇国には10人程いる。しかし、ほとんどが首都で良い暮らしをしているらしい。冒険者のくせに冒険をしないなんて何を考えているのか理解出来ない。
ちなみにSランクもあるが、それはこの世界に4人しかいない。
まぁ、自慢する訳じゃないが、俺はこの世界でもかなりの強さに入るってわけだ。
こんなんなもんで結構勝手にやらせてもらってた。 文句があるなら力ずくで止めてみろ!ってな。
しかし、最近その自信が無くなってきている。
理由は目の前のガキだ。
出会いはふとした偶然。 冒険者組合に戻ったら知り合いが扉を塞いでいたので邪魔だから蹴飛ばしたら、そいつを躱したのだ。
なかなかの身のこなしで、冒険者になりたてだというので弟子みたいなものである荷物持ちにしたのだ。
戦うのが好きなようで気も合ったし、人付き合いも上手い。
掘り出し物だと浮かれていた。
しかし、コイツはとんだ化け物だった。
しかも、ただの化け物じゃない。自分を化け物と理解し、巧妙に自分を偽れる化け物だ。
コイツは普段の戦いでも俺より強い。それは確定だ。しかし、まだまだ本気で戦っていないのも理解出来る。
なんというか、片手間で敵を倒しているのだ。全て見てから回避している。
皆には言っていないが、コイツは人間ではないのでは?そう感じ始めている自分がいる。
しかし、ここでもう一つ重要なことがある。
それは、コイツは悪人では無い。ということだ。
なにか隠したいことがあるのは理解しているが、基本的に素直に話を聞くし、他人に親切にしている。あと、何かと愉快な奴だ。
まぁ、何が言いたいかっていうと、喧嘩を売らず楽しくやれば安全ってことだ。
今もアイツは「金貨が一枚、金貨が二枚〜」などと口ずさんで敵を殺している。怖い。
「師匠! やってやりましたぜ!」
「おう、お疲れさん。 もうさ、お前俺と一緒に行動しなくてもいいんじゃねぇか?
なんか、俺が寄生してるみたいなんだよなー」
「別にそんなことないですよ? ゲイルさんのおかげで高い依頼を受けられてるんですから」
「さっさとAランクになっちまえ」
「冒険者になって数ヶ月でAランクにまで上り詰めたら苦情が殺到して他の冒険者を殺さなきゃいけない事態になるかと」
「まぁ、な。 でも確実に俺より強いんだからAランクになって欲しいんだけどな…
お前、もしかして人間じゃねぇんじゃねぇの?」
「はははー」
「帰るか…」
「はい! 今日も稼ぎましたねー」
そんな感じで今日も依頼は追加報酬付きで終わった。
ちなみに、最初にアイツに投資した白金貨1枚はとっくの昔に戻っている。
組合所に戻るとカウンターの男が俺を見つけ手招きをした。
「どうした? 内緒の話か?」
「ちょっと、問題が発生しまして。 奥に来てもらえますか?」
「おう。ゼロは一緒に行ってもいいか?」
「うーん。辞めて頂きたいのが本音ですが、ゲイルさんをお止めすることはできないですしね…」
俺とゼロは奥に通された。
「で? どうした? Aランクの依頼でも来たのか?」
「それがそうなんです」
「珍しいな… 獲物は?」
「スネークドラゴンだと思われます…」
「へぇ。ドラゴンか珍しいな」
「蛇なの? 竜なの?」
「蛇みたいに長くて地面を這うドラゴンだ。 でも龍とは根本的に違う。 飛べないしな」
「大きさは?」
「え?! えっと、8mほどだと…」
「ちっちゃいじゃん。ゲイルさん。絶好のカモが来たんじゃない?」
「馬鹿野郎。ドラゴンだぞ?」
「僕(この世界で)初めてドラゴン見るんですよー わくわく」
「お前な…」
「君! Eランクが参加出来る訳ないだろ!」
「いや、ゼロとはパーティーを組んで今回の依頼は行わせてもらうぜ」
「何行ってるんですか! 彼がいくら将来有望だからって、こんな所で無茶させて死んでしまったらその未来も潰えるんですよ!」
「こいつは大丈夫なんだよ。普通の人間の冒険者の物差しで測るんじゃねぇ。
よし、依頼を受けよう。今日早速森に入るんで簡単な位置を教えてくれ」
「ドラゴン退治は冒険者の誉れですね!」
まるで珍しい動物を見に行く子どものようにはしゃぐゼロを見て俺はちょっと引いた。
数時間後。夜。俺たちは森の中を歩く。夜の森は危険だが、コイツは昼間のように敵を見つけては殺して行った。
盗賊なんかを見つけた時は「見ーつけたぁぁぁ!」とか叫びながら凄い速さで追いかけて行っている。マジで怖すぎる。
「なんで盗賊を優先して殺すんだ?」
「僕の中に流れる正義の血が騒ぐんです!」
「ちょっと何言ってんのかわかんねぇわ」
「っえ…!?」
「そういや、ドラゴンの倒し方なんてお前知らねぇだろ」
「大体の生き物は頭潰せば死にますよ?」
「そりゃそうだけどさ… じゃあ、スネークドラゴンの攻撃はなんだか知ってるか?」
「名前的に毒使うんじゃないですか?」
「お! 正解だ。 アイツの体表は毒で覆われているんだ。で、牙には強力な麻痺毒が仕込まれている」
「おー。遠距離から殺せば良いと!」
「いや。そう上手くはいかねぇ。アイツの索敵範囲は異常に広いんだ。俺たちが見つけたらそれはアイツにはずっと前に見つかってると思った方が良い」
「ほうほう。じゃあ、油断してる所を一気に近づいて殺ればいいんですね!?」
「それができれば苦労しねぇよ。まぁ、お前ならできそうだけどな」
「でも、ドラゴンなんだから鱗結構固いですよね? なら僕の剣だとキツいですよ?」
「そうだなー。 じゃあ、俺が攻撃入れてくからお前はヘイト集めてくれよ」
「さすが、大人。汚い」
「やめろ。適材適所と言え。お前素早いんだからさ」
「そんなことより眠くなってきましたね」
「お前、コミュニケーションって知ってる?」
「ここをキャンプ地にしましょう」
「しねーよ! 森のまっただ中だぞ! もう少し行けば川に出るはずだ。そこならここよりは安全だから、そこまでは歩くぞ 」
「へーい」
コイツには緊張感が無さ過ぎる。 自分の命がかかっているのにだ。 ドラゴン程度に負けるはずが無い、とでも思っているのか。 …ありそうだな。
15分程で川に着いた。
「じゃあ、たき火を焚いて交互に見張りをして寝よう。 鞄から薪を出してくれ」
ゼロは黙々と薪を出す。
「まずは俺が見張りだ。 それで3時間くらいしたら交代だ。わかったか?
って、寝てんのかよ!!」
どんだけ図太いんだよ! 普通の奴だったら俺から見張りやるなんて言わねぇんだぞ!
結局このポンコツは起こしても5時間起きなかった…
「眠ぃ…」
「本当にごめんなさい! お詫びにドラゴン退治の時寝てていいですから」
「それ、俺を餌につり出す気だよな?」
「ゲイルさんに向いてる間に後ろに近づき、尻尾を刺して動けなくするんです!
で、ゲイルさんが首を落とせば完璧っすよ!」
「お前が何も考えてないってことは分かった。
だいたいな。なんで俺が常識解く側に回らないといけないんだよ…」
「朝飯まだっすか?」
「ぶっ殺すぞ!! 街の中と性格違いすぎるだろ!」
朝食を摂り、また移動を開始する。これからはいつ出会ってもおかしくない。
巫山戯るのもそろそろ終わりだ。
「おい。」
「はい」
「そろそろ敵が現れるかもしれない。 真面目にやる頭に切り替えろ」
「承知しました」
切り替えは速いんだよな…
なんか、ふざけた笑みから狩人の笑みに変わる感じだ。
30分程歩くと何か違和感を感じる。
「なぁ、ゼロ。 何か感じねぇか?」
「ん? どうでしょう。 何か地中を移動している感じは少し前から感じてました。
でも、ドラゴンじゃ無いと思いますよ?」
「なんでだ?」
「デカすぎますもん。 組合の人の話の倍くらいありますよ?」
「それだろ!! なんで早く言わねぇ!?」
「ゲイルさんが何も言わなかったですし、地面にドラゴンがいるとは思っても見ませんでしたし。 あ、来ますね」
そこで俺は何かが地中を動くのを感じた。
凄いスピードだ。
俺たちはその場から横に大きく飛んだ。
すると、地面が裂け巨大な顎が姿を現す。
「おぉー。こんなのPC版じゃ見たこと無いな…」
などと意味不明なことを言うゼロ。
そのままモンスターは体を現した。
まだ全ては出ていないが、体長は15m以上はあるだろう。胴回りは2mにもなる。
体は全身黄土色の鱗に覆われ、背中には羽がある。
「スネークドラゴンだ… こんなにデカいのは初めて見た」
「かっこいいですねー。 打ち合わせ通り僕は後ろに回り込んでみます」
そう言ってまだ体が全て出ていないスネークドラゴンの背後に回り込み、剣を振るうゼロ。
しかし、剣は少し鱗を剥がしただけだ。
「グォォォォォォォォ!!」
と怒りの声を上げるスネークドラゴン。
ゼロは舌打ちをして下がった。
ようやく全身を土から出したスネークドラゴン。尻尾は下に向いたかぎ爪のようになっている。
地面を踏ん張ったり、獲物にとどめを刺す時に使うのだ。
「尻尾をやればアイツの機動力を奪える!」
「はーい。良い素材になりそうですね」
スネークドラゴンはゼロを攻撃対象にしたみたいだ。
俺はタイミングを狙って重い一撃をぶち込んでやろうと剣を抜いた。
ゼロは基本回避に専念し、こまめに剣で突き刺す戦法を取っている。
俺も近づいては防御の薄そうな腹を斬りつけようとするが、動きが早く中々大振りな攻撃が当たらない。
しかも、敵は木を掴んで投げてきたり、翼で風を起こしたりして俺たちの動きを阻害してくる。
「ゲイルさん! 尻尾は死んでから取りましょう! 作戦変更で僕はコイツの目を潰します!」
そう叫んだゼロが俺の方に走ってきて俺に向かって飛んできた。
俺はゼロに剣の腹を向けた状態で思いっきりフルスイングする。
ちょうどのタイミングで剣を蹴りつけたゼロが矢のようにスネークドラゴンに向かって飛んで行った。
ゼロの剣は俺の近くに転がっている。
今奴の両手には1本ずつの投擲ナイフが握られている。
そのまま交差する直前で投げるのかと思いきや、なんとゼロは中指と薬指の間から刃を出した状態で投擲ナイフを握り拳を振りかぶってスネークドラゴンの頭に着地し、そのままの勢いでスネークドラゴンの両目に拳を叩き込んだ!
「ギャァァァァァ!!!」
と叫び倒れ込むスネークドラゴン。
ゼロはスネークドラゴンの頭に乗ったまま頭と一緒に地面に落ちてくる。
俺の前に着地したゼロは自分で放った剣を拾い、「さぁ、仕上げですね。 メチャクチャに暴れ回って面倒にならないと良いんですけど」と言った。
しかし、ゼロの言った通り、目を潰されてたスネークドラゴンはメチャクチャに暴れ回っている。
「ゼロ、脚を攻撃してくれ。 俺は倒れた奴の腹を狙う」
「承知しました」
ゼロは俺の注文通り器用に立ち回りながらスネークドラゴンの右の脚を前後ろ両方落とした。
まともに動けなくなったスネークドラゴンの腹を切り、更にダメージを重ね横たわった首を俺は渾身の力で切り飛ばしたのだった。
「いやー。良い仕事しましたね! 久しぶりに体をちゃんと動かした気がします!」
素材を剥ぎ、冒険者鞄につめたが、俺とゼロの分を持ってしても全ては入りきらなかった。
しかし、莫大な金になるだろう。
ゼロの能天気な声を聞きながらコイツの戦い方を思いだす。
今日もメチャクチャだったな…
「お前の戦い方、自分の命を粗末に扱い過ぎじゃないか? もし口を開けてたらどうするつもりだったんだ?」
「そのときは投げてましたよ。 口を閉じてるのが見えたからそのまま殴ったんです。適切な戦い方ですよ?」
「うーん。そんなことは無いと思うんだが… あと、なんで魔法を使わなかったんだ?
前にクロウベアを倒した風の魔法。あれ凄い威力だったじゃねぇか」
「僕の魔法は精度重視で威力はそうでもないんですって。 今回は敵の固さが未知数だったんで。速いって聞いたんでちゃんと狙った所に当たるかも不安でしたし。そんな隙を見せるかもしれないモノより安定して使える戦法選びました」
「なるほどな。威力か… そうか」
俺は今回またAランク冒険者としての自信を失った。
コイツの戦闘センスはずば抜けている。まるで戦う為に産まれてきたみたいだ。
(このまま、こいつと一緒にいたら、俺はコイツのお引きになっちまうんじゃねぇか?)
最近そんな不安がよぎる。
(俺も鍛え直した方がいいのかもしれないな…)
そんなことを考えだしたのだった。




