閑話1;陰で特訓してるんですよ?
ゲイルと行動を共にし始めてからひと月余り。
ほぼこの街での市民権を獲得した俺は一人で宿の中悩んでいた。
それは
(全力で今の自分の体を動かせない…)
忘れてもらっては困るが、俺は今The quest for truth MMOの中なのだ。
すなわち、ゲーム。
俺は最初の頃は、もしかしてここはゲームではなく異世界なのでは?と思った事もあったのだが、これはゲームと確信した事がある。
まずは自分の体について。
ステータスなんてものが見れる時点で現実の世界では無いだろうという事は置いておいて、便意を起こさない。食べ物を食べているのに。
まるで偶像になった気分だ。 こういう世界の物語を読んでいる時絶対にトイレ事情は書かれないので少し不安だったのだが、超安心した。
あと、汗をかかない。
でも、走り続けると疲れて息が上がる。スタミナが減っていくという感覚だ。
あと、水の中でも苦しくない。長く潜ってると視界が段々暗くなってくる。
痛みはあるが、OFFにできた。 ON、OFF機能が着いているって感じだ。
あと、吸血鬼の特性についても色々検証した。
怪我の治りは異常に早い。体の中で血が頑張ってくれているのを感じる。
あと、回復魔法は光魔法なので通常の吸血鬼はダメージを受けるらしいが、これは呪いに分類されるらしく<呪い完全無効>がある俺には回復として普通に作用した。
この<呪い完全無効>これは俺のPKに強く関連がある。
このゲームにおいて呪いはプレイヤーとボスキャラしか使えない珍しいものだ。
しかも、生きている時に発動するには面倒な儀式を行うし、死んだ時に発動させると自分の所持金の3割を持っていかれる。
しかし、掛けられた相手には強力な負の効果を与える。
常にダメージを受けたり、モンスターからヘイトが異常に上がったりまともなプレイがしにくくなる効果だ。
呪いはプレイヤーの間ではそれほど使われることは無かったのだが、俺が有名になってしばらくした後、掲示板に
「ゼロを呪いまくってゲームプレイ出来なくさせて追い出しませんか?」
というスレが流れた。
俺に恨みを持つ者、面白がった者がそれに同調し、俺は呪いを掛けられまくったのである。
当然プレイには大きな枷をつけられたが、俺はプレイスタイルを変えることすらしなかった。
そしていつしか手に入れたのだ。[祟られ神]と<呪い完全無効>を。
これによって俺の復讐が始まった。
このスキルの効果は掛けられた呪いを打ち消すのではなく、”俺に”負の効果が発動しなくなるというものだ。
つまり、装備やアイテムは普通に呪われているのである。
呪われた装備やアイテムは全て捨てることができなくなるという効果が無条件で付随している。
しかし、これの影響を受けない俺は様々な場所に呪われたアイテムや装備をばらまいた。
ばらまく物が無くなったら買って補充しまた捨てる。これを10回以上繰り返したのである。
そしてそれを拾ったプレイヤーを無差別に襲った。
パニックに陥ったQTプレイヤーは何が起こったのかと掲示板で議論を始めた。
そして、俺に行き着いたのは2週間経ってのことだった。
そのころプレイヤーは解呪石という使い捨てのメチャクチャ高いアイテムを持ち歩くのがデフォになっていた。これは呪いのかかった物を手に入れてしまった時に自動で肩代わりしてくれる便利な物だ。
呪いが拡散したことからこの事件は「呪怨事件」と呼ばれ一つの伝説になる。
ここら辺から集団で俺を排斥する運動も無くなった。
俺が散蒔いた物はまだまだ存在する。今もまだ呪いはどこかに眠っており、油断した人間がかかっているのだった… まだ、終わってませんよ?皆さん。
これが<呪い完全無効>の効果と取得した理由だ。
つまり、俺は今も呪われまくっているのだ。この世界の霊媒師が見たら泡吹いて倒れるだろう。
なんでこんな話になったんだっけ?
そうそう。吸血鬼の特性だった。
つまり、吸血鬼の負の特性は呪いに分類されているらしいので俺には何の問題もありませんでした、ってこと。
ヒールの威力は今度試そうと思っている。どこかにいいサンドバックがいると良いんだが…
そして、次は<魔眼>の研究だ。
今俺が持っているのは<燃焼><石化><人形化>である。
<人形化>は使い勝手が良いのでよく使うが残りの二つ。特に<石化>が使う場面が無い。
まぁ、石化は魔の森で試したことはあるんだが、まず石化は目のある生き物にしか使えない。
そして、魔法耐性の強さで抵抗ができる。一度石化させると自分の意思で元に戻すのが不可能。
ってとこか。
この自分の意思で戻せない所が厄介だ。石化なんて吸血鬼の代名詞な力をおいそれと人間の近くで使えない。何か他と組み合わせて使えないか、そう思った時一つひらめいた。
「石化させて遠くに放り投げて、それを<燃焼>でドロドロになるまで熱すれば溶岩雨になるんじゃね?」
我ながら恐ろしい発想である。ギルドから降らせればさぞ素敵な効果をお届け出来るに違いない。
さっそく試すか。
そう思って依頼を受けようと宿を出た。
また簡単な依頼を受けた俺は<風纏>で他の冒険者が来れないし、多少デカいことをやっても気付かれない位置に移動した。
そこは今山火事状態になっている。
石化流星群を試してみたのだ。結果は十分すぎる程だった。
ギルドからやったらまさに天災になる。
そして俺は<燃焼>を使いながら新しい使い道を思いついた。
燃焼とは可燃物が酸素と急激に反応して起こる酸化反応である。
俺は何も考えず物を燃やしたり、場合によって空間を燃やしたりしている。
今は炎を上げて燃やしているが、炎を上げないで物を燃やせないか。酸化反応なら物を錆びさせることはできないか。
そう考えた。
炎を上げないで物を燃やす。いわゆるタバコなどの無炎燃焼というやつだ。あと、不完全燃焼を意図的に行い一酸化炭素を発生させられるかも試す。
結果としてこれらは成功した。なんかイメージしたらできてしまったのだ。難しい原理を理解して必要な物を揃えたりはしていない。
無炎燃焼は自分の手のひらを覆うような発動もできた。これで敵を掴めば根性焼きの凄い版になる。当然物でもできた。これで怪しまれずに火事も一酸化炭素中毒での殺害もできるようになった。
「この力は思ったより融通が利くな…」
そう思った俺はもう一つの可能性を試す。
それは、電子レンジだ。
電子レンジが物を温めているのは火で物を熱しているのではない。
マイクロ波を当てて中の水分子を振動させ、それによって発する熱で中から物を温めているのだ。
燃焼とは原理が違うが、マイクロ波で物を点火したという事例は聞いたことがある。
先ほどの無炎燃焼もできたのだからイメージで何とかならないか。
そう思って俺は昨日露店で安く買った売れ残りの冷めた焼いた肉やパンを20程取り出す。
半分程イメージが合わずに消し炭にしてしまったが、上手く出来るようになった。
しかし、多少イメージと違う。何かオーブンに入れたみたいだ。
(マイクロ波というより遠赤外線で焼いた感じだな。まぁ、良いけど。人間に使ったらどうなるんだろう… こんがりイクのかな)
<燃焼>にも多くのバリエーションができて目に見えないよう敵を殺す方法ができ俺は大満足だった。
そして
最後の実験。
皆大好き 爆発 を試してみることにする。
爆発とは要は反応速度がメチャクチャ早い燃焼だ。反応速度が音速以下の場合が爆燃、反応速度が音速を超え衝撃波を発生させる場合が爆轟と分けられるらしい。
俺は以前動画で見た軍のTNTでの爆発をイメージする。規模はそんなに大きくしない。
500m先に着弾をイメージして落とした。
ッドォォォォォォォン!!!!
凄まじい音と衝撃波、そして爆発を引き起こし、俺は後ろに吹っ飛ばされた。
キノコ雲のような物を発生し、木々がなぎ倒されている。
俺は土砂に半分埋もれながらこの光景を呆然と見た。
「な、なんて物を生み出してしまったんだ… 本気で撃ったらギルド武器超えるんじゃ無いか?」
威力調整のためもっと撃ちたいが、さすがにできない。
絶対に街から見えているはずだ。
俺は検証を終了し街に戻った。 街は大騒ぎだ。 ドラゴンか!とか騒いでいる。
宿に戻ると贖罪値は減っていなかった。
恐らく皇国と戦争状態だからだろう。
ホッとした。
こうして俺の新しい力の本格的な実験は終わった。
明日も金を稼ごう…




