ニーナ、飛ばされた
息子が私の盾になった。 私が覚えているのはそこまで。
気がつくと私は真っ白な空間に浮かんでいた。
『お目覚めですか?』
そう女性の声が響く。
「貴女は誰? ここは? 私は死んでしまったの?」
そう呟く。こんな世界私は知らない。
『いいえ。貴女は息子さんに命を救われました』
そう声が響き、私はあの最後の光景を思い出す。
「そうよ!ゼロが私をかばってあの兵士の盾になってしまった! ゼロは無事なの?!」
『彼は無事です。詳しくは言えませんが、旅に出ました。貴女を捜す旅です。
貴女はこれから、とある場所に送られます。 そこは貴女の息子に縁の有る地で彼はそこに行く事を望んでいますが、その場所を知る方法が有りません。
私にも彼にその場所を教える力を与える事はできませんでした。』
何を言ってるのかさっぱり分からない。
『なので、代わりに貴女が彼の位置を感じる事ができる力を与えます。
これ以上は言えませんが、私の言葉を思い出し、適切な行動を取るようにしてください』
「さっきから何を言っているのかまるで分からないわ!
貴女は一体何者なの?神様?! 息子とはどういう関係なの?
息子は一体何に巻き込まれているの!?」
そう私は叫んだ。
『貴女の今の問いには一つも答えられません。息子さんと再会した時に聞いてください。
そのため、息子さんと再会する為の努力をしてください。
以上です。』
そんな一方的な言葉を淡々と聞かされ、私は謎の空間を落ちて行った。
再び目を覚ますと私は見覚えの無い家に横になっていた。
自分が住んでいた家よりは立派な木造の家だ。
体を起こそうとすると
「目が覚めましたか?歓迎します新しい同胞よ。
さっそくですが、貴女に聞きたい事が有ります。
貴女は我らの主と契約を結び、我らの国に移るよう命を受けた。そうですね?
主は今、どこで何をされているのですか?」
そんな声が聞こえた。
私は頭を動かし声が聞こえた方を見ると、そこには金の髪をし使用人の格好をした美しい女が立っていた。
「あ、あの、ここはどこなんですか? どこかの国なんですよね?
私は誰かと契約を結んだ覚えは有りませんが…」
そう答える。
「意識が混濁しているようですね… 怪我も負っているようですし。
貴女、吸血鬼ですね? 魔力を与えますので早く傷を治してください」
そう言って彼女は私に触れた。すると驚くべき事に魔力が私の中に流れ込んできて私の体の修復速度が急激に早まった。
間もなく私は動けるまで回復した。
「さぁ、貴女の知っている事を話しなさい」
有無を言わさぬ迫力に私は自分の人生について話した。
吸血鬼として生まれ、80年程ひっそりと生きていたが、いきなり人間の魔術師に襲われ逃げた。逃げた先の森で住んでいると子供が産まれ幸せに暮らしていた。ところが子どもが12歳になって間もなく自分が以前襲われた魔術師に再び襲われ、気絶し、目が覚めたら不思議な空間で謎の女に意味不明なことを言われ再び目をあけるとここにいた、と。
自分でも最後の方は意味不明だった。
その女は私の話を聞き終わるとなにやら考え始めた。
そして、結論が出たのか口を開く
「何を言っているのかさっぱり分かりません」
それはそうだ。私でも何が何だか分からないのに。
しかし、コレだけは聞いておかなければ。
「息子は?! 私と一緒に12歳の男の子はここに来ていませんか?!」
「いいえ。貴女だけです。 貴女だけが門の前に横たわっていました」
「そんな…」
私はゼロを思いプレゼントのネックレスを触ろうとした。
「あれ?ネックレスが無い。 あの!私はネックレスをつけていませんでしたか?!」
「いいえ。装飾品の類いは何も」
「そんな、ゼロの… 息子の贈り物さえ無くなってしまった
一体何が起こっているの…」
そう呟くと女が反応した。
「……ゼロ?」
「え? はい。私の息子の名前です」
そう言うと女は頭を抑えて考えだした。
「ど、どうしたのですか?」
「この国、および私たちの支配者であられる方のお名前がゼロなのです。
これは偶然とは思えません。
しかし、ゼロ様に母君がいたとは一度も聞かされておりません。
第一、彼は吸血鬼では無かった。
主の僕である貴女が自分の息子に主様と同じ名前をつけるなんて… 不敬もいいところです」
「何を言っているのか分かりませんが、貴女の主様と私の息子は無関係です。
第一、この国の支配者は当然国にいらっしゃるんでしょ?」
「いいえ。主様は12年前に城を封印し姿を消されました。
今城には誰も入る事ができず城の中にいた物達も外に出てきません。
貴女は初めての主様に関係がある動きなのです。
私たちは主の帰還を切望しています。貴女が鍵である事は間違いないでしょう。何か思い出してください!」
そう言って私の肩を掴む。
私は怖くなって彼女を突き飛ばし家を飛び出した。
そして、目に飛び込んできたのはまるで天国のような花が咲き誇り、かわいらしい家が並ぶ町並み。こんなに美しい街が有るなんて。ここは本当に神の国なのでは無いだろうか…
一瞬心を奪われたが、すぐに逃げようと走り出す。
この街には本当に多くの種族がいる。見た事の無い種族の方が多いくらいだ。
中にはとんでもない力を持った者もおり、襲われないか不安だったが皆必死の形相で私を驚いたように見るだけだ。
女は追いかけてこない。
太い道を走り続けると巨大な美しい門が見えてきた。
女神を象ったような門はいよいよここは神の国であると言う私の気持ちを強くさせた。
巨大な門の脇の小さな出入り口から外に出る。
しかし、そこに広がっていたのは。10メートルほど先で切れた大地と、どこまでも続く雲の海だった。
私はその場でへたり込んだ。その横に音も立てず使用人の服を着た女が並んだ。
「もう、鬼ごっこは終わりですか?」
そう聞いてくる。
「ここは、何なの? 貴女達は一体何? 私をどうするつもり?」
そんな絶望した私に女は答える。
「貴女は何か大きな勘違いをしているようですが、貴女は我々の同胞です。
なので主様に反逆しない限り我々は貴女に危害を加えません。
そして、ここですが。ここは武神ゼロ様が支配される天空都市ボヘミアです。
我々はゼロ様に忠誠を尽くした僕。貴女もそうのはずですけれど…
そして最後に、先ほども言った通り貴女は主様に繋がる重要な鍵です。
今の話を聞いた限り貴女の息子が何か関係がありそうなので、とりあえず貴女の息子を探しましょう。まぁ、藁にもすがるというやつですね。」
そう言った。
息子を探す……?
そうだ、なに終わった気になって絶望しているのだ。
あの謎の女はゼロが私を捜して旅に出たと言ったではないか。
私が捜さないでどうするのだ。
今は知らない場所で泣いている場合ではない。
拳を握り歯を食いしばって立ち上がり、目の前にいる女を睨みつける。
「私は、この場所も貴女達も貴女の主にも興味ないわ。私はただ息子に会いたい。
でも、ここにいるのには何か理由があるはず。私にできる事が有れば何でもする。だから、お願い、息子を捜す手助けをして。」
そう言って頭を下げた。
「まったく。なんで貴女のような方がここに来る事ができたのでしょう…
早く主様を見つけなければならないのに。
今更ですが自己紹介を。私はボヘミアの街の管理を任されています、プリトゥともうします。
よろしくお願いします」
そう言って向こうも頭を下げてきた。
「さぁ、落ち着いて話ができる場所に移動しましょう。改めてこの国の説明もしたいですしね」
そう言って街に戻って行くプリトゥに私はおとなしくついて行った。




