狩りの時間
お母様が家を飛び出した時なぜ俺は止めなかったのか。
それは、聞き覚えのある彼女の声が脳内に響いたため咄嗟に動きを止めてしまったからだ。
『貴方の近くに一定以上の罪を背負った者が複数人います。罪人を葬って罪の清算を行ってください。
拒否権はありますが、拒否をする事はお勧めしません。
今後は<世界の百科事典>の効果で一定以上の罪を背負った人間の頭上にドクロのマークが浮かびますので対応を取る事を勧めます。
罪人に対して然るべき措置を取ると貴方の贖罪値が上昇します』
チュートリアルだ。
なるほど、悪い奴をぶっ殺せば俺の罪の清算ができるのか。
今、色々なスキルや装備が解除されていないのも贖罪値が関係しているってことだな。
まぁ、ずいぶん前からその予想はしていたが。
そう考えていたらニーナの今まで聞いた事の無い叫び声が聞こえた。
ハッとして外を見るとニーナが光属性の魔法を受けている。
恐らく「光よ 縛れ」で発動する拘束魔法だろう。
これを撃った奴は中々大きな魔力を持っているな。
多分、ニーナに手を伸ばしている頭にドクロマークを浮かべた魔導士の男だろう。
あの威力の魔法を撃てるならQTプレイヤーでも中の上に位置するくらいの強さだ。
鎖として出現するように念じているのか。
昔、聖闘士というジョブの紳士が触手としてこの魔法を撃っていたのを思い出す。
俺の頭はゲーム脳から切り替え、現実で起こっている出来事としてこの光景を見た。
あの優しいニーナが汚い男どもに苦しめられている。彼女は体力も多くない。このままだと死んでしまうぞ。
大切なお母様に何しやがる。俺の中で怒りがわき上がる。
近くにいたそこそこの魔力を持った男が隷属の指輪を掲げだした。
まずい、お母様を奴隷にする気か!この屑が!
隷属の指輪を掲げた男が隣にいるこれまた頭にドクロを浮かべた男に何か言うとそいつは剣を抜いてお母様に近づいて行く。
殺される!
そう思った俺はステータス能力を全開にして男とお母様の前に立ち、魔法を撃った。
「風よ 切り裂け」
男の体は鎧ごとあっけなく切断された。
弱いな。超級くらいの威力なんだが。
すると脳内で再び心麗さんの声が響く。
『ステータスが必要量に達した為<風纏>が使用可能になりました』
(やっと来たか…)
俺はそのアナウンスを聞いた瞬間、長年使ってきた<風纏>を装備するよう念じる。
すると、20センチにもおよぶ長いかぎ爪が付いた青い金属で作られた篭手が現れた。さらにその篭手には透ける程薄い刃が腕の外側に手首から肘当りまでが付いている。
これが風の神と呼ばれるボスを倒し、50%以上体力を削った者に20%の確率でドロップする神級武器<風纏>だ。
名前の通り、自分に風を纏い凄まじい速さで動けるようになる。
風魔法を撃つ事はできない。刃もただ切るだけで特殊な効果はない。
攻撃力も神級にしては弱く、物理防御1万以上でド級防具を身につけている敵にはほとんどダメージが通らない。
なので俺はPC版で風纏を自分の通り道にいる敵にある程度のダメージを与えつつ敵陣の深くに切り込む為に使っていた。
刃と篭手は手首の部分でくっついているが外向きに90度動かせるようになっており被害を広げられる。
刃をたたんだり広げたりして敵を斬りつけパーティーを攪乱し、他の高火力の武器で倒すプレイをよくやっていた。
そんな事を思い出していると怒鳴り声が聞こえてきた。
「貴様、何者だぁ!この女と同じ髪の色、さては眷属か!」
髪の色?俺の髪は黒だったはずだが。
そういえば今俺は目の前の屑どもを殺したくて仕方がないという欲求が大きくなっている。
モーガンの『血』とやらが覚醒しているのか?
ニーナを救ったら確認しよう。
「そうだ。俺はニーナ モーガンの息子、ゼロだ。
汚い屑どもが。なんの価値もないNPCの分際で大切なお母様を傷つけ奴隷にしようとする?何の冗談だ。不愉快にも程がある。皆殺しだな」
そこでマークスが笑い声を上げる。
「息子? あの女人間との間に子を作りよったのか。既に他人に汚された体であるのは残念だが我慢しよう。
おい、ガキ。ハーフ吸血鬼の分際でこの私に勝てるとでも思っているのか?」
おっさんは馬鹿にしたように俺を見る。
「おっさん、お前は俺のヘイトを上げ過ぎだよ。ちなみに、その言葉はフラグだぜ?
さぁ、12年ぶりの楽しい狩りの時間だ。NPCの諸君、君たちの責務であるプレイヤーを楽しませる役をきちんとこなしてくれよ?」
そう俺は笑いおっさんに向かって駆け出した。
走り始めた瞬間、俺以外の動きがスローモーションになる。
風纏装備時はこんなふうになるのか。自分が制御しきれない早さで動く事にならなくて良かった。
よし、まずはニーナに魔法をかけているおっさんに一発かまそう。
といっても何か偉い人っぽいから後でお話を聞かなきゃいけないので殺すのはなしだ。
後は、皆殺しだな。
右腕をゆっくり下ろそうとするマーカスに走って近づき、右手の手刀で奴の右肩を斬りつける。
俺の左腕は刃を広げ隣にいる雑兵の首を薙いだ。
両腕ともなんの抵抗も無く相手を切断し、俺はスピードを緩める事無く兵の間を縫って首を狩り続けた。
そんな作業を最初は楽しいと思ったが、半分程殺した状態で飽きてきた。
どいつもこいつも敏捷が低すぎて俺の動きを感じ取ることもできないまま棒立ちでいるからだ。
適当に並べられた案山子の首を落としているようなものだ。
一応ドクロマークの浮かんでいる人間を殺すようにしていたのであと生きているのは二人を除いて罪の無いものだけだ。
俺は最初に俺に怒鳴ってきたおっさんと魔導士のおっさんの首根っこを掴んで最初に立っていた所に戻り止まった。
そこでばたばたと首を狩った死体が倒れだす。
生き残った兵は仲間の血を浴びながら、上司二人を持ち返り血一つ浴びていない俺を呆然と見ている。
騒ぎだす前に俺は言う。
「今生き残っている者たちに告げる。お前らは一応は真っ当に生きてきた人たちと判断したため俺は殺さなかった。俺が殺した人間は何かしらの大きな罪を負っていた。心当たりがある奴もいるんじゃないか?今俺の足下にいる二人も同様に大きな罪を背負ってやがる。
さっきは皆殺しと言ったが、別にお前らを殺すつもりは無い。
今直ぐ騒がず帰るなら殺しはしない。足下に転がってる屑を救おうとするなら殺してやる。
さぁ、どうする?」
すると、全員ガタガタ震えながら、しかし、叫んだりはせず走って村の方へ逃げて行った。
「おい!隊長である俺と人族の宝であるマークス様を見捨てて逃げるとは何事だ!
さっさとこのガキを始末し、ぎゃああああああ!」
うるさかったので隊長さんの肩を人差し指で貫いた。
「うるさいな。質問以外にあんたが口を開くんじゃねぇよ」
「貴様、俺が誰だか分かっているのか!」
「それ、頭の悪い権力者がよく言うセリフだけど、分かるわけないよね。
今日俺たち初対面だよ?馬鹿じゃないの?
あ、なんかの部隊の隊長さんか。でも、こんな田舎に派遣される程度だからたいした事ないでしょ、絶対」
「貴様ぁぁぁ! 亜人の分際で見下しやがって!殺してやるぞ!」
「種族の違いで見下している時点でアンタの器の小ささはよくわかる。まぁ、人間はそんなのばかりなんだけどね。
皇国に関する情報を得ようかと思ったけど隣のおっさんの方が色々知ってるよね?
アンタが様をつけて呼んでた程だし。やっぱもうアンタいらねぇわ。
ちなみに家族以外で本当の俺の姿と会話したのはアンタが二人目だよ。おめでとう?
じゃあ、いままで犯した罪を反省しながら死んでください。
サモン アオアオ」
<契約の指輪>を装備してモンスターを召還する。
召還の扉が現れ、ボーッとした顔をした猿のようなモンスターが召還された。
こいつは上級モンスターのアオアオ。名前はかわいいが、説明文には人間を生きたまま食べるのが好きと書いてある。動きが早く、力が強い。魔法は闇と風をあわせた腐食魔法を使う。
「このおっさん食べていいぞ。でもうるさいから森の中で食べて。食べ終わったら帰っていいです」
アオアオは「アオー」と気の抜けた返事をして隊長さんの足を掴んで森の中に消えていった。
それを見送った俺はもう一人の罪人に声をかける。
「お待たせして申し訳ありませんでした。マークスさま?でしたっけ。僕の大切なお母様を傷つけたのは貴方ですね? 少しお話しても?」
そう言って笑顔をむけた。




