襲撃されました
お母様の誕生日を祝った翌日、いつもと同じ日常に戻った俺たちは朝食の準備をしていた。
ニーナはプレゼントのネックレスをつけている。
そんな時、玄関の扉が大きく叩かれた。
今までそんな事が無かったので驚きつつ、唯一この家に来る人間の名前を呼んだ。
「ステラおばあさん?今開けるね」
そう言ってドアノブに手をかけた時
「ニーナ!皇国の人間が貴女達を捕えようと村に来たよ!早く逃げな!殺されちまうよ!」
そう叫び声が聞こえた。
俺は一瞬頭がフリーズし扉を開けた。
すると、ステラさんが立っており、「早…く、に、げ……」そんな苦しそうな言葉を残して頭に矢が刺さり、こちらに倒れてきた。
目の前でステラさんは死んだ。
すると、「汚らわしい亜人よ!貴様の協力者のようになりたくなければ今直ぐ出てこい!」
と声が聞こえてきた。
家の外には50人もの人間がいる気配がする。
まだ姿を見られていない俺は直ぐ家の中に引き返し、ニーナを探した。
「お母様!皇国の人間が襲ってきた!ステラおばあさんが殺された!」
そう小さい声で言うと、ニーナは涙を流して
「何が起きたの… もしかして私がいる事がバレたの? 私は死んだと思われていたと考えていたのに… あぁ、ステラさん、本当にごめんなさい。私のせいで」
そう言った。やはり、この国の政府の人間と昔何かあったのだ、とこの時確信した。
俺は今までの緩い生活での脳みそから、これがQTという戦闘をメインとしたRPGであったと思い直し、頭を切り替える。
「お母様、今直ぐ逃げよう。このままおとなしく出て行っても確実に殺される。村に行くのは良くないから森の中に逃げるんだ。僕やお母様の実力なら相当奥に住むモンスターも倒せるよ。しばらく潜んでこの国を出よう。」
そう提案した。
「魔の森を甘く見てはダメよ。私は戦いなんてできないし、貴方は強くなんかないでしょ。私が時間を稼ぐから貴方は村に行きなさい!」
そう言って止める間もなく家を出てしまった。
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なんて事だ、もう皇国の人間に襲われる心配はないと思っていたのに…
私だけならいいが、今はゼロもいる。
向こうを脅して隙を作り逃げられれば良いが… 戦いになったら勝てるのだろうか。
私にとっての人生2度目の戦闘だ。
以前は逃げる為の戦いだったが、今回は自分の命より大切な者を守る戦いだ。
勝てなくても負ける事は絶対に許されない。
もしものときはなんとかしてゼロだけでも逃がさないと…
私は家を出ながらそう決心する。
家の外には50人近い人間の騎士と魔法使いがいる。
その全員に聞こえるよう私は声を出す。
「私がここに住む者です。栄えある吸血鬼、闘将モーガンの眷属、ニーナ モーガンよ。人間の皆さん、私は戦いを好みません。このまま私を見逃してくれるのならば今直ぐこの国から出ましょう。逃がさないというのなら戦わなければなりません。
見た所、私に敵うものなどいそうにありませんが、どうしますか?」
そういうと、兵に動揺が走る。
吸血鬼なんて聞いてない、逃げた方が良いのかと声が聞こえた。
すると、一人の男の大声が響いた。
「黙れ!我々が亜人に背を向けて逃げるなどある訳がないだろう!
薄汚い吸血鬼の分際で指図をするんじゃねぇ!
お前、見た目は良いな。このまま連行して俺の奴隷にしてやろう。」
そう言って不快な笑みを向ける一人の人間。この男が隊長か。
「貴方の実力で私を自由にできるとは思えないわ」
私は率直な感想を述べた。
「亜人が俺を見下してんじゃねぇ! それに、俺が戦うわけねぇだろ!
俺は運がいい。なんせ、人間族で史上最高の魔法使い様が今回いらっしゃってるんだからな!」
なに?まさか、いやこんな田舎にあの男がくるはずが無い…
そう思った時、兵士が左右に分かれ一人の男が姿を現す。
それは、20年前私を奴隷にしようとした忌まわしき人間コーネリウス=マークスだった。
「やはり、お前だったか。美しき吸血鬼よ。再びあえた事を神に感謝しよう。
これでお前は私の物になる… 以前はギリギリ逃げられてしまったな。今回は確実に隷属させる。さぁ、あのときの続きをしよう。」
そう言った。隊長が驚いた顔をし、一度は俺にも貸してくれなどと下衆な話をしている。
私はここで死ぬ決意をした。マークスは殺せなくても何とかゼロは逃がす。隷属なんて絶対に嫌だ。
「愚かな魔導士が。死を持って償いなさい」
そういって私は吸血鬼としての力を解放した。
笑っているマークスに<魔眼 燃焼>を叩き付ける。
すると、魔力が彼の身につける数珠に吸収されてしまった。
驚いている私に対して
「私は人間で最も優れた魔法使いだ。まぁ、近接戦闘は何もできんがね。
君を逃がしてから私はいつ君に出会ってもいいように君に対する装備を整えているのだよ。
特に今回は亜人と言われていた者の正体が君である気がして万全の状態で臨んだのさ。
さぁ、もう私の勝ちだ! 光よ、魔の者を縛り苦痛を与えたまえ!縛れ!」
そう叫ぶと彼の胸元から光が発生し、私は地面から伸びたくすんだ何本もの白い鎖に拘束された。これは20年前にもされた攻撃だ。
しかし、以前より鎖の数、太さ、魔力が桁違いだ。おそらく胸元に魔力を増やす装備をつけているのだろう。
鎖が体を締め上げる。
その時、私の中の血が目覚め、自分で制御できない戦闘の意思があふれてきた。
「あああぁぁぁぁ!」
自分の体すら焼き付くしそうな魔力が制御できないまま溢れる。
魔力はそのまま炎となり、自分ごと鎖を燃やしつくす。
数本の鎖が弾けるが、まだ多くが私の体を縛っている。
私は自分の体の事などどうでもいいと更なる魔力をこめた。
マークスが叫んだ。
「魔力が暴走し自分でダメージを受けている!このままだと隷属させる前に死んでしまうじゃないか!おい、そこのお前!あいつの両腕を落としてこい!」
そう言われ、一人の騎士が剣を抜き私に近づいてくる。
「悪いな、姉ぇちゃん」
そう言って男が剣を振りかぶると一人の子どもが私の前に突然現れ騎士の上半身が斜めに落ちた。
私は私を救ってくれた真祖モーガンに良く似た私よりも濃い赤髪になっている最愛の子の名前を呟き意識を失った。




