ニーナの実家
「敵です!下位のケルベロス、下位の悪魔と思われます!」
「騒ぐ程じゃない。ラバナ、母様を守れ。敵の排除はフェリスに任せる」
「「はい!」」
今俺は魔の森の中を歩いている。ニーナの実家に近づいたから下りたのだ。
一緒に行動しているメンツはニーナ、フェリス、ラバナ、ヤマ、チャンドラだ。
ラバナは間違ってもニーナに傷を付けさせないため。そしてこの前外に出なかった二人を連れ出してみた。
他の連中は留守番だ。吸血鬼のお姉さん、皆で決めて名前はエリザになった、の世話などをしてもらう事にしている。
「うぅ〜… 歩きにくい… 私は運動得意じゃないのに…」
「体力つけよう!ヤマっち!」
「その呼び方嫌い…」
「お姉ちゃんも来たがってましたねー」
「スーリヤも来ちゃうと大所帯過ぎる気がしてな。まぁ、ここにも長居する気は無いから。そんな楽しい事も起こらないだろうし」
モンスターの頭には自我を宿らせる事ができる例の頭の上のハートが浮かんでいないのだ。
もっと潜在的な知性が高いモンスターなら自我を宿らせる事が出来るのかなと思っている。
もしくはここの領域は既に心麗の実験場の一部なのかもしれないしな。
そこのところ聞くのを忘れてしまっていた。
「ゼロ。もうすぐお昼の時間じゃない?母さんが作ったお弁当食べてね!」
「母様… 魔の森なのに余裕ですね」
「私は一人でこの森を抜けてるんだもの!懐かしさすら感じるわ!」
話し合いの後ニーナは俺とずっと一緒にいる。寝るときも一緒だ。戦闘訓練でも見たがってついてくる始末で流れ弾防御要員としてラバナを呼ばなくてはいけなくなってしまった。
ニーナも「離れちゃうんだからそれくらいの我がままを聞け!」と完全に開き直っている。
食事も俺の分を自分で作りたがっていて最低でも一日一食はニーナの料理になっているのだ。
敵を排除した後、開けた場所に出たので昼食にする。
レジャーシートのような物を広げて完全にピクニック状態だ。
「はい!ゼロ。お皿貸して!」
「自分で取るよ…」
「好き嫌いしちゃダメだから!お皿!」
「嫌いなもの避けたことないだろ!」
そんな大声で交わされる親子の会話が響く。そんな音を響かせていたら当然生き物は寄ってくるわけで…
頭上から巨大なコカトリスが迫って来た。
それでも気にせずに食事をする俺たち。まぁ、誰かが働くだろうって感じだ。
しかしいつまでたっても誰も動かないので仕方なく命令を出す。
「ヤマ。ちょっと片付けてくれ」
「今唐揚げ食べて… やります」
素敵な休息時間を邪魔した鳥を唐揚げをモグモグしながら忌々しげに睨みつける。
すると突然コカトリスがクタっとして地面に自由落下して来た。
「おーい… ヤマ?もう少し考えて倒してくれよ… 俺たちの真上に落ちるぞ?アレ」
「ちゃんと殺しました…」
「片付いてないんだよなぁ… はぁ…」
仕方なく箸を置いて変わりにハンマーを持つ。
そのまま飛び上がってコカトリスを真上に殴りつけた。
もの凄い速さでコカトリスが消えて行く。着地と同時に俺はヤマを見て言った。
「ヤマ。-10点!-100点溜まったら遠征に行ってもらいます」
「え!!そんな! か、加点はされますか?!」
「素晴らしい働きをしたらチャラになるぞ」
「今回何かしらの厄介事を一つ頑張ります!」
「一つかよ… まぁ、いいや。元からヤル気無いのは俺が設定した性格だしな…」
「逆に+100点で何かありますか?」
「無いよ。減点方式だからな」
「そ、そんなんじゃ人は育ちませんよ!ご主人様!」
「今日中に目的地に到着する予定なんだからさっさと食べろよ…」
冗談をさっさと切り上げて再び歩き出す。位置はニーナが分かっているそうなのでニーナの指示に従って歩いているのだ。ちゃんと釘を刺しておいたので変に遠回りはしていないと思う。
黙々と歩き、敵を倒し続けて気付けば夕方になった。
「今日は野宿になりますかね…」
「そうなのかなー。どうです?母様、今日中につくのは難しいですか?」
「いいえ。もう着くわ」
ニーナが行った通り森の向こうから大きな屋敷の屋根が見えて来た。
「あ… あれ?」
「そうよ。ヤマちゃん。アレが私の実家」
「ヤマ”ちゃん”って…」
「あ、ゼロ様… 吸血鬼が3人。近づいてきます」
「あぁ。屋敷の側にいた奴がこっちに気付いたな。でも少し察知が遅い。未熟者だ」
俺は吸血鬼の力を解放した。髪が紅く変化し、牙が伸びた気がする。
初めて俺の吸血鬼姿を見た連中が「おー」と言ってくる。
チャンドラはなんかうっとりとした目をしている。どうした。
「さぁ。俺たちは仲間だって知らせてやらないとな。俺、フェリス、チャンドラで無力化する。殺すなよ?」
「「はーい!」」
「チャンは久しぶりの戦闘なの!まだ夜じゃないから本調子では無いけれど…」
相手の姿が見えた。二人はメイド服の女、そして一人は戦士のような風貌の男だ。
「敵を発見!殲滅せよ!」
「「っは!」」
3人の目に魔力が集まるのが分かる。こっちに炎を出す気だ。
まだ俺たちとは距離があるので相手は攻撃されるとは思っていないようだ。
「馬鹿だな… 相手にどんな攻撃方法があるか分からないのに警戒していない…」
俺は奴らとは桁違いの速さで炎を出す準備をして騎士風の男に死なない程度に叩き付ける。
「なんだと!?」
自分より練度の高い炎を避ける事も出来ずなんとか相殺しようと男も炎を出した。
その横ではメイドには確認できないほどの速さで移動したフェリスとチャンドラがメイドを組み伏せている。
脂汗を流して俺の炎を抑える男と余裕で炎を叩き付ける俺。
その均衡を崩したのはラバナと木の影に隠れていたニーナだった。
「マ、マスター…?」
声の方に咄嗟に視線を動かした男。俺の炎の操作が一瞬遅れて火だるまにしてしまった。
「やばっ!戦闘中に視線をそらすとかアホですか?!」
急いで火を消すと男は膝から崩れ落ち呆然とニーナを見ていた。二人に抑えられているメイドもまるで幽霊を見るかのようにニーナを見ていたのだった。
場所は俺の冒険者テントの中。
先ほど俺たちを襲った3人と俺たちがリビングの中で顔を突き合わせている。
「ニーナ!戻って来たのか!お父さんは嬉しいぞ!!」
「お久しぶりです… マスター。今までごめんなさい」
「いや… 帰って来てくれただけで嬉しいのだ… 色々と聞きたい事はあるが、まずはお前の同行者について聞かせてくれ。特にこの少年だ。モーガンの血族であることは分かるが、年齢と強さがかけ離れている。それにこの髪の色の濃さ。周りにいるのは神か?」
「この子は… 私の息子です。周りの方は息子の従者で…」
ニーナはここを飛び出してからの事を話し始めた。
俺はお茶を入れる為に席を立つとメイドさん二人が手伝ってくれる。
十二天は主に給仕の真似事などさせられない!と言っていたが座っているように命令した。
「先ほどは失礼致しました… ここに客人は来ないので… 来るのは魔王の軍勢が多くあなた方も魔王の先兵かと思ってしまいました。私たちはモーガンの血族で長のお世話を主にしておりますルリとランです。新たな同胞よ。歓迎しますよ」
「初めまして。僕はニーナの息子のゼロです。色々と訳ありな存在なんですけど敵では無いので仲良くして頂けたらなと」
「その髪… まるで伝説に聞く真祖様の様な深い紅ですね…」
「よく言われるんですが、真祖様に関してはあまり知らなくて… 色々と教えてくれますか?」
「えぇ。これからゆっくりと教えますよ」
「ありがとうございます」
お茶を用意して再び席に戻る。
「改めて自己紹介させてもらう。私の名前はジョージだ。ニーナのマスターをやっている。先ほどは済まなかったな。敵だと認識していきなり攻撃を仕掛けてしまった」
「お気になさらず。僕はゼロです。ニーナの息子になります。貴方からすると孫になるんですかね?」
「君についての話を聞いたが信じがたい事が多いな。驚いている」
「そうですね。驚かれると思います。でも今回は僕の事ではなく母様についてお話ししたくて」
「あぁ。ニーナが戻ってくるという話だな。私は歓迎なのだが今このモーガンは不安定になっていてな…」
「何かあったんですか?」
「今この森は意識を持たない魔王に脅かされているのだ。そして長は気難しい人でニーナの帰還を認めて下さるか分からないのだよ」




