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真理の探究者  作者: しま
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ニーナの決意

ゼロがこれから向かう戦いの過酷さが聞いていられなくなってつい感情的な言葉をぶつけて飛び出してしまった。

私は今ゼロを探していた時によくいた場所に膝を抱えて泣いている。


自分は裕福な家庭に産まれたいわゆるお嬢様でずっと家で大切に育てられてきた。それが嫌である日家を飛び出し、初めて一人で歩く街に夢中になっていた所馬車に轢かれて死にかけた所をマスターに拾われて吸血鬼に転生したのだ。

転生したら旅が出来ると思ったが吸血鬼とは意外と閉鎖的な種族で外に出ないと知り私はまたしても退屈な日々を過ごしていた。

そして70年程モーガンの館で暮らしていたが耐えられなくなって飛び出したのだ。そしてすぐにあの魔法使いに襲われた。

結局私は人間よりも長い時間を生きてはいるが未だに世界を見ていない子どもだ。

ゼロを授かってからは良い母親になろうと背伸びをして頑張ってきた。

しかし結局はゼロに守られっぱなしである。ゼロと会えたら今度こそは母親として守ろうと思っていたのに彼は大きく変わってしまっていた。なんというか、前世の記憶とかではなくゼロ自身が大人になってしまっていたのだ。会話をしていく中で私がいない間に経験してきた事によって私よりも大人になっていると感じた。

彼の話を聞く時は久しぶりに家に帰ってきた兄の話を聞く妹のようだと自分で感じて笑ってしまった。


そしてゼロは私を置いて神国というお伽噺の世界に行くと言う。

彼の言う事は理解できるし困っている人を助けるという考えも尊重したい。

しかし、先ほどゼロと話している時に目の前にいる息子が自分の息子なのか、前世の、神を従えて戦う戦士なのか分からなくなり怖くなってしまったのだ。

私がここで駄々をこねたら私が望んでいる息子に戻ってくれるのでは?危険な事を止めて私と一緒に静かに暮らしてくれるのでは?と思ってしまった。

前世の戦士の貴方から私の可愛い息子に戻ってきて!と。


「本当にダメな母親… 自分の息子を息子と信じられないなんて…」


「やっぱりここでしたか…」


「プリトゥさん…」


「ゼロ様は大変落ち込んでいらっしゃいましたよ。貴女を追いかけようとしていらっしゃった所を私が止めて自室にお戻り頂きました」


「私と話しても無駄だから…?」


「そうです。自分の事を第一に考えて必死に探してくれた息子を信じられなくなっている母親に何を言っても息子の言葉は届かないでしょうから」


「し、信じてたわ!信じて、ゼロを探したんじゃない!」


「ゼロ様がこのボヘミアに戻られてから貴女のゼロ様に対する態度は明らかに変わっていましたね」


「だって… やっと再会できた息子がいきなり神を従えて世界だって滅ぼせそうな力を持ってたって言われて、どう接していいか分からなくなるに決まってる!」


「そのお気持ちも理解できます。しかし、貴女は彼の持っている”物”にばかり目が行ってしまって彼の”気持ち”を見ることが出来なくなっていたのではないですか? 私は貴女の息子になる前のゼロ様を存じ上げていますが、今とは大分違っていました。なんというか、一つ上の世界から我々に言葉以外の何かで命令を下す存在、という感じでしたね。ボヘミアにゼロ様が戻られた時私を含め十二天は驚いたのです。ゼロ様が私たちと同じ位置に下りて来たのではないかと。私たちと同じ目線で冗談も交えながら話される姿に私たちは大きな嬉しさを抱きました。

しかし、その中でまるで以前のゼロ様のように有無を言わさぬ強さで命を出す事があります。なんだと思いますか?」


「このボヘミアの死守…?」


「貴女を安全に守る事です」


「!!」


「ついこの前のギルド戦争の時、このボヘミアに攻め入る事が出来る者など存在しないのにゼロ様はボヘミアの守りを最大限に上げろと仰っていました。それは貴女がここに残っていたからですよ?貴女はどれだけゼロ様に愛されているのか自覚すべきです。確かにゼロ様は以前の記憶を取り戻されて貴女の知るゼロ様と違ってしまったかも知れません。ですが、お心は変わられていないのではないですか?」


「じゃ、じゃあ、私が大切なら私と一緒に静かに暮らしてくれてもいいじゃない!」


立ち上がってプリトゥを睨む。自分でも酷い我がままを言っているのは分かるが私はもうゼロと離れたくないのだ。


「それは無理なのでしょう。貴女の知るゼロ様との違いはそこです。戦いに身を投じてこそゼロ様なのですから」


戦いに身を投じるのがゼロ…

そう言えば小さい頃から何度言っても魔獣を狩って持って帰ってきたっけ…

そう思うと根っこの部分は全く変わっていないのかも。


「でも、死ぬと分かっている場所に息子を送る事なんて出来ないわ」


「ゼロ様がお亡くなりになる事はありません」


「どうしてそう言えるの!」


「私たちがお守りするからです! この命に変えても」


「確かに貴女達は強いのかもしれないけど… 敵だって貴女達くらい強いんでしょ?!」


「ボヘミアは!この世界で最強のギルドです!どんな敵も返り討ちにし、主に弓を引く愚か者は産まれてきた事を後悔させてやります!貴女は自分の子が生み出した部下と街、そしてなによりも自分の息子を信じなさい!」


「うぅ… で、でも、また離ればなれになるなんてもう嫌だよぉ…」


「もう。一番の理由はそれでしょう。危険だ何だと言った所で結局は声が聞きたい、姿を見たい。そういうことでしょう」


膝をついて泣き出した私の前にしゃがんだプリトゥが私の手を取って何かを握らせた。それは奇麗な指輪だ。


「何?これ」


「これは<心送り>というアイテムです。これと同じ物を装備した者同士は一定以上の距離があっても会話が出来るんです。流石に神国くらい離れると通常のアイテムでは無理ですがブラフの力を借りて何とか可能に出来るそうです。あと映像を送る魔法も使って姿も見れるように出来るそうですよ。まったく… ゼロ様がそんな事を考えていないと思ったのですか?ゼロ様も貴女と一緒にいたいと思っているのですから。触れる事は出来ませんが姿を見て話をする事はできるのですよ」


「ゼロ…」


「あと、死んでも良いから側にいたいなどとゼロ様に言う事は許しません。死とは死んだ者では無く残されたものが背負うのです。貴女の我がままでゼロ様に母親の死という最大の苦しみを背負わせることは忠実なる僕として看過できないですからね。さぁ、ゼロ様に謝って来なさい」


プリトゥが私の体を支えて立たせてくれる。

ゼロは私を置きざりにしてどこか遠くに行くわけじゃない。でも行く先が危険な場所である事には変わりない…


「やっぱり話さなきゃダメね」


「当たり前です。感情的になって逃げるなんて。母親のすることですか」


「謝ってくる」


私はもう一度城に戻ってゼロの自室に向かう。

扉の前で深呼吸して扉を開けるとゼロがベッドの上で不安そうな顔をしてこっちを見ていた。


あぁ。私はなんて馬鹿なんだ。自分のせいで大切な息子にこんな顔をさせている…

行かせてあげよう。私が出来ることは信じて送り出す事だ


決意をしてゼロの横に座って話す。


「ごめんね、ゼロ。私、ここでゼロを行かせたらもう会えないと思って我がまま言っちゃった… でもゼロは私の為に色々と考えてくれてるってプリトゥさんに教えてもらったの。

だから… 私から貴方に成人の為の課題を出す事にしたわ。知ってる?ここの人間は12歳くらいになると自分の子どもに課題を出して旅をさせるの。課題を達成して家に戻って来たら立派な大人として認められるのよ。私はまだ出してなかったから今出すわ。


ゼロ。貴方は”真理の探究者”になりなさい」


「母様…」


私は泣きそうになりながらも必死に微笑んでゼロを抱きしめた。

ゼロも私を抱いて「ありがとう…」と言った。


まだまだ不安が大きい。不安しか無い。そしてそれはこの先も消える事はないのだろう。でも私は息子とその仲間を信じる事にした。


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