最後の仕事
「えっと〜… 最初は自分の腰から下に風を纏わせて飛ぶイメージをしてたんですけど、前身を薄く覆ったら飛べる鎧になるかなって思ってやってみたんですよー。そうしたらいきなり体がグルグル回っちゃって… 気がついたらエストリーに引きずられてました」
「なんで基礎も何も出来ていないのに応用試しちゃったのかなー。ボスはお前が倒しちゃったんだよ?俺はな?三人に主に頑張ってもらって激闘の末、協力して倒すっていうシナリオを考えてたのに… 見てみろよ、三人の顔! あんなに頑張って体力削ったのに突然突っ込んできた制御不能の風の塊に頭消し飛ばされて終わりとか… 自信なくすぜ?」
「うぅ〜… ごめんなさい。 でも、こんな時に私に修行させるご主人様こそ真の戦犯でしょ!修行には失敗がつきものです。それも初めてやる事なら失敗して当然!」
「まぁ、終わりはともかく龍と戦えたってだけで十分凄い経験をさせてもらったさ」
「とりあえず戻ろう。四神制覇なんて本当にできる者が私が生きている間に会えるとは思えなかった。素晴らしい経験をさせて貰った。礼を言わせて欲しい」
そう言って頭を下げるシルヴァレ。
「俺も貴方に出会えて良かった。俺との約束を守ってくれてありがとう。これからは国の為に働く事もしようかなと思うよ」
「皆さんおつかれさまでした。良い思い出になりますよ!じゃあ戻りましょう」
こうして武封国の4大ダンジョンを一人の人間が制覇した。そのすぐ後にその者は姿を消し、武封国に二度と戻ってくる事は無い。しかしその圧倒的な強さとキャラの濃さで未来永劫伝説として語られる事になる。
地上に戻るとまたしても沢山の人だかりが出来ていた。
俺たちを見ると歓声が上がった。そしてカリムの屋敷に戻る道はまるでパレードのような騒ぎになっていた。
屋敷に戻ったら取りあえず麻薬組織について聞く。
残党はほぼ壊滅し、国外に逃げた者を追うか考えている最中らしい。
アレナにはカリノフに伝える事にして武封国から誰かを派遣する事はしないことにした。
そしてこのまま宴会だ。今回は比較的すぐに皇国に戻るので武封国にいるのはあと3日と言った所か。
街を回って祝福を受け、色々と話す。デルニオーラの屋敷に居を移し、のんびりとした生活をしていると2日目の夜にカリムが尋ねてきた。
「どうしたんです?」
「いや、お前にお願いがあってな… 俺のギルドもお前の傘下に入れてくれないか?」
「僕のギルドにですか?構いませんけど… でもどうしてです?」
「だって皇国はお前の物になったし、アレナもお前の傘下だ。武封国もデルニオーラの領地はお前の物になった。もうお前の領地じゃないのは俺のギルドだけだろ?俺はお前のギルドに喧嘩を売る事なんて絶対にしたくない。だったらいっその事俺もお前の傘下に入って周辺国を一つにまとめるべきなんじゃないかって思ったんだ」
「なるほど。先ほども言った通り僕は構いません。同盟という関係でも良いですよ?無理して下につく事もないんじゃないですか?」
「はっ! お前と肩並べられる国じゃないんでな。身の程は弁えてるさ」
「そんなご自分を卑下しなくても」
「とにかく!俺はお前の傘下に入る!」
『ギルド 武封が貴方のギルドの傘下に入る事を要望してきました。承認しますか?』
「分かりました。ではよろしくお願いします。僕はすぐに神国に向かうのでここの管理は引き続きカリムさんがやってもらいますけど…」
「それは大丈夫さ」
「でもライデスにも国の運営を任せようかなって思ってます」
「できるかぁ?」
「できますよ!」
次の日、ライデスを呼んでこの屋敷を渡す事、国の運営にこれからは携わって欲しい事などを話した。
最初は自分にはできないと言っていたがほぼ強制でやらせる事にした。
これで武封国でやるべき事は全て終わりだ。中々に騒がしく楽しい街であった。
再び戻ってくる事があるのだろうか。そんな事を思いながらデルニオーラの元に向かいたい奴らと一緒に皇国を目指す。
シェリルも武封国を満喫したようだ。
既に制圧済みのダンジョンにも案内してやったり知り合いの装備を売っている店にも連れて行った。
「私、冒険者になります!」とか言ってたので安い剣と鎧をおみやげに買ってやったら喜んでいた。彼女は私が変えてしまったのだろうか…
ボヘミアに戻り、アレナでシェリルを下ろす。
最後は優しく抱擁しましたよ。多分今生の別だからな。
そしてそのまま皇国に向かう。
これも数日かけて到着し、城に戻るとイグノーが頑張っていた。
そっちは引き続き任せきりにして、俺たちは皇国の麻薬組織をどうにかするために武封国で手に入れた麻薬の瓶をこれ見よがしに持って歩き、反応したヤツを捕まえてエストリーの<人形化>で記憶を読み取り作っている連中に繋がる情報を集めていた。
馬鹿な話をしながら時に紳士に、時に乱暴に己の力を振るい悪を潰す、俺たちらしい時間が流れる。
いつ俺がここを離れるのかは決めていないが、皇国に来た本来の目的はエストリーを皇国に届ける事なのではっきり言っていつでもここを発ってもいいのだ。
でもやはり届けたのでさようなら、とはならないのだった。
せめて麻薬組織を潰すまでは一緒にいようかな、と思って一緒に行動している。
「あ… こいつ、皇国の組織の幹部だ!」
「マジかよ!いきなり大物引いちまったな!」
「うん。アジトの場所もブツの運搬経路、方法も全部分かっちゃった」
「よし。一度戻ってイグノーに話すぞ。俺たちが何をしてたのか何も言ってなかったからな。それで襲撃許可が出れば俺たちも動く」
「勝手に動いちゃダメなの?」
「お前はこれから王になるからな。行動も気をつける必要があるかもしれないだろ。法をしっかりと整備しようとしている時にメチャクチャできないだろう」
「確かに…」
そう言う事で一度城に戻りイグノーに今まで俺たちが皇国に帰ってからやっていた事を話す。
内政で疲れきっているイグノーに更なる心労をプレゼントする。
冗談で例の麻薬を「疲れが飛ぶらしいけど、使います?」と聞いたら手を伸ばしそうになっていたな。
結局組織の壊滅は大きな被害を出さないという条件付きで俺たちが無力化することになった。騎士も派遣してもらって中にいる連中を連行してもらう。間違っても爆発させたりしないようにしよう。
アジトの位置はもうすでに分かっているので向かえば良いだけだ。皇国では地下に広い製造工場がある。
急ぐ必要もないので歩きながらアジトに向かう。
騎士とは当然別行動。時間を指定してその時に集まってもらうよう言っといた。
「あ〜あ。これで3人で暴れるのは最後かぁ…」
「分からんぞ?神との戦争でお前を召集するかもしれない。その為にこれからもお前には修行をしてもらうしね」
「んふふ!勘弁してよー。流石に神と殺し合いはできないって」
「そっかー。まぁ、しょうがないよな」
今までの思い出話もしながら屋台で買い食いをして敵のアジトに向かう。
「よし、あの強面二人が守ってるところだ」
「やったりましょう!」
「張り切っていこー!」
まずは俺が<P&B>で門番二人の頭を撃ち抜く。
声を上げる事無く絶命した二人を跨ぎ下に続く階段を下りる。
「フェリスは<隠蔽>で姿を隠して狩れ。エストリーは一撃一殺を心掛ける事」
「「あい」」
「炎よ 燃え盛れ」
音も無く侵入し、近くにあった原料の草が積まれた場所に火を放つ。
「何が起こった!」 「何だ?!あのガキは!」
フェリスは既に工場の奥に移動していて音も無く敵を狩っている。
エストリーも上空を飛んでいるのでまだ見つかっていない。
多くの人間から一斉に見られた俺は<魔断ち>抜いて構えニヤリと笑みを浮かべて言った。
「武封国の拠点は全て潰した。あと薬を作っているのはここだけ、だよな?」
「こ、こいつ!教皇様を殺した新しい支配者じゃねぇか?!」
「最悪だ!どうなってんだ!」
「抵抗するなら殺す。抵抗しないなら牢屋で安全な暮らしを保証しよう。あ、武器を取った時点で敵対行動と見なすぞ。俺の他にも仲間はいるので諦めた方が良い」
「ふ、ふざけんな!おい、このガキ殺…」 皆まで言わさず<潜蛇>で首を落とす。
「他に、言いたい事があるヤツは?」
「……」
「無いなら外に出ろ。エストリー!」
「はいは〜い」
「外に出て騎士に受け渡すのをやってくれ。自己紹介も済ませといてくれると嬉しい」
「え?私が新しい王様ですって?」
「そう。そこで舐めた事したヤツを黙らせろ。殺しはダメだけどな」
「うへー… 気が乗らないわー。恐怖政治はダメだから色々考えないと…」
「そこはほら。年の功で」
「やかましい! ほら、行くよ!」
大人しくついてきた奴らを先導して外に出るエストリー。その後騎士が入ってきた。
「おぉ!ゼロ君!久しぶり!いや、今は君がこの国の支配者だったね。申し訳ありませんでした」
そこにいたのはホウガンの門番をやっていたハウンドだった。
「あぁ!ハウンドさん!お久しぶりです。言葉遣いは今までのままでお願いしますよ。僕との関係悪化回避の為にホウガンから騎士を沢山連れて来たんですか?」
「その通りだ。首都の騎士が大分減ったというのも理由の一つだけどね」
「あぁ… アレナに行った騎士は…ね」
「ゼロ君に戦争を仕掛けたのが愚かだったんだよ」
「ドライですね」
「ホウガンは皇国であって皇国でないからね」
「まぁ、それよりも今は麻薬組織の摘発です!大人しく捕まるヤツは連れて行って下さい。外にいるフリフリなロリはこれからこの国の王になるエストリーです。吸血鬼で1,000年を超える時を生きてるので見た目と違ってちゃんと出来る子です」
「根本的にこの国を変えようとしているんだね。分かった、外にいる連中は連行する」
「抵抗したら斬っちゃって下さい」
「分かった。容赦はしないよ」
そう言ってハウンドは出て行った。
その後はフェリスと隠れているヤツを探したり反撃するヤツを返り討ちにしたり、工場を壊して回る。
エストリーもすぐに戻ってきて俺たちの仕事に加わった。
「これが終わったらもう行っちゃうの?」
「どうしようかな。もうここにいる理由も無いしなー」
「一日エストリーの為に時間を作ってくれない?」
「ん?何かしたいことあるのか?」
「デートしようよ!」
「なんだそりゃ」




