第二十一話 ヨッシーと巨峰
第二十一話 ヨッシーと巨峰
「タカシ、オハヨ!」
朝から、ヨッシーは元気だった。
「はいはい、おはよう。今日もご機嫌だね」
タカシは、ヨッシーの餌入れを確認しながら、ふと思った。
ヨッシーは、リンゴが大好きだ。
リンゴを見せれば、すぐに「リンゴ! リンゴ!」と大騒ぎする。
けれど、リンゴ以外の果物は、どうなのだろう。
やえ子おばさんの家では、ほかの果物も食べていたのだろうか。
タカシはスマートフォンを手に取った。
「マナ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
『はい、どうしましたか?』
「コバタンって、リンゴ以外の果物も食べられるのかな?」
『食べられる果物もあります。ただし、種類や量には注意が必要です。ヨッシーに初めての果物を与えるなら、鳥を診られる獣医師の助言や、信頼できる飼育資料で確認してからにしましょう』
「なるほどね。実は、今日、巨峰を買ってきたんだ」
『ブドウについても、与え方や量を確認してくださいね』
「わかった。ヨッシーのためだから、ちゃんと調べるよ」
タカシは、少し笑った。
以前なら、自分が食べたいものを買って、自分の食事を考えるだけだった。
今は、ヨッシーが食べられるものかどうか、先に調べるようになった。
ずいぶん変わったものだ。
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午後、タカシは買ってきた巨峰を冷蔵庫から取り出した。
濃い紫色の実が、房になっている。
「ヨッシー、ちょっと見てごらん」
「リンゴ!」
「いや、リンゴじゃないんだよ」
「リンゴ! リンゴ!」
タカシは笑った。
「まだ見てもいないのに、リンゴかよ」
ヨッシーは、タカシの手元をじっと見つめている。
どうやら、何か食べ物が出てくることだけは、わかっているらしい。
タカシは、獣医師の助言と飼育資料を確認し、ヨッシーに与えてよいことを確かめてから、準備を始めた。
皮と種を取り除き、果肉を小さくする。初めての食べ物なので、ごく少量だけにした。
「よし、ヨッシー。今日は、これだ」
ヨッシーは、首を伸ばした。
タカシが差し出すと、ヨッシーは慎重にくちばしを近づけた。
一口。
そして、もう一口。
ヨッシーの頭が、ぴょこんと動いた。
「……おっ?」
タカシが見守っていると、ヨッシーは、さらに身を乗り出した。
「リンゴ! リンゴ!」
「いや、だから、巨峰だって!」
ヨッシーは、タカシの言葉など気にする様子もなく、目の前の果物に夢中になっていた。
タカシは、思わず声を立てて笑った。
「お前、本当に食いしん坊だなあ」
ヨッシーは、いつもの調子で翼を少し広げた。
タカシには、それが喜びの表現なのか、ただの動作なのか、正確にはわからない。
それでも、目の前のヨッシーが、いつもどおり元気にしていることが、なんだか嬉しかった。
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夕方。
タカシは、マナに今日の出来事を報告した。
『ヨッシーは、巨峰を食べてくれたんですね』
「うん。すごかったよ。リンゴのときと同じくらい、大騒ぎだった」
『新しい好物が見つかったのでしょうか?』
「どうかなあ。今日、初めて食べたばかりだからね。少しずつ様子を見ていくよ」
『それがよさそうですね』
タカシは、画面を見ながら頷いた。
ヨッシーの好物が増えたのかどうかは、まだわからない。
明日になれば、巨峰よりリンゴを欲しがるかもしれない。
あるいは、まったく別のものに興味を示すかもしれない。
何しろ、ヨッシーの考えていることは、タカシにも簡単にはわからないのだ。
「まあ、焦らずにいこう」
タカシがそう言うと、ヨッシーが呼んだ。
「タカシ!」
「ん? どうした?」
「オカエリ!」
タカシは吹き出した。
「まだ家にいるだろ!」
ヨッシーは、満足そうに見えた。
タカシは、笑いながらヨッシーのそばへ行った。
明日は、何をしよう。
特別な予定があるわけではない。
餌を用意して、掃除をして、ヨッシーの相手をする。
それだけだ。
けれど、明日も何か新しいことがあるかもしれない。
タカシは、そんなことを考えるようになっていた。
「ヨッシー、明日もよろしくな」
「リンゴ!」
「はいはい。リンゴも忘れないよ」
窓の外は、夕暮れだった。
タカシは、ヨッシーの餌入れを片づけながら、明日の朝のことを考えていた。
きっと、また「タカシ、オハヨ!」から始まるのだろう。
そして、たぶん、その次は――。
「リンゴ! リンゴ!」
タカシは、もう一度笑った。




