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『After Forever―永遠の、その先 』タカシとヨッシー、再生の物語  作者: 若村崇


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第十七話 わかれ路

第十七話 わかれ路



 その日も、タカシとヨッシーは、いつもの散歩道を歩いていた。


十月の空は高く、街路樹の葉も、少しずつ色づき始めている。


ヨッシーは、タカシの肩の上で、あたりを眺めていた。


「サンポ! サンポ!」


「はいはい。散歩ですよ」


タカシが答えると、ヨッシーは満足したように冠羽を立てた。


そして、いつもの角を曲がったところで、急に声を上げた。


「コンニチハ!」


ペットショップだった。


ガラス越しに、白い羽と黄色い冠羽が見える。


ヨッシーの気になる相手だ。


タカシは、店の前で足を止めた。


「こんにちは。今日も元気そうだね」


ヨッシーも、相手の鳥に向かって声をかける。


「コンニチハ!」


店内の鳥が、こちらを見た。


二羽は、しばらく向かい合っていた。


もちろん、何を考えているのかは、タカシにもわからない。


ただ、ヨッシーがこの場所を通ると、いつも足を止めることだけは、もうわかっていた。


「あら、いらっしゃい」


店員が気づいて、店の外まで出てきた。


「ヨッシーちゃん、今日も会いに来てくれたんですね」


「ええ。すっかり、ここが散歩の楽しみになってしまって」


タカシは笑った。


それから、ガラスの向こうの鳥を見た。


「ところで、この子……」


「ああ、この子ですか?」


店員は、少し嬉しそうに答えた。


「今日、新しい飼い主さんがお迎えに来るんですよ」


「そうなんですか」


タカシは、もう一度、鳥を見た。


新しい飼い主が決まった。


それは、よかったことなのだろう。


新しい家で、新しい暮らしが始まる。かわいがってもらえるといい。


けれど、そうなると、もうこの場所では会えなくなる。


タカシは、肩の上のヨッシーに目を向けた。


「ヨッシー。あの子ね、今日、新しいおうちに行くんだって」


「……リンゴ!」


「いや、リンゴじゃなくて」


タカシは思わず笑った。


もちろん、ヨッシーに話の意味がわかるとは思っていない。


今日、新しい飼い主が来ることも。


明日から、ここにあの鳥がいなくなるかもしれないことも。


それでも、話しておきたかった。


「よかったね。新しいおうちでも、元気でね」


タカシは、ガラスの向こうの鳥にも聞こえるように、ゆっくりと言った。


鳥は、首を傾けた。


ヨッシーが、また声を上げる。


「コンニチハ!」


タカシは、少しだけ目を細めた。


「そうだね。こんにちは、だね」


それ以上、何かを説明することはしなかった。


ヨッシーは、もう次のことに興味を移したらしい。店の前に落ちていた木の葉を目で追い、通りを歩く人に向かって「コンニチハ!」と声をかけている。


いつものヨッシーだった。


タカシは、店員に軽く頭を下げた。


「新しいおうちでも、元気でいてくれるといいですね」


「ええ。きっと大丈夫ですよ」


店員も、そう答えた。


タカシはヨッシーと一緒に歩き始めた。


数歩進んだところで、肩の上から声がした。


「オカエリ!」


「まだ帰ってないよ」


タカシは笑った。


ヨッシーにとっては、いつもの散歩だ。


いつもの道を歩いて、気になる鳥に挨拶して、リンゴを楽しみにしている。


明日も、ここを通れば、同じように立ち止まるのかもしれない。


そのとき、あの鳥がいなかったら。


ヨッシーは、どうするだろう。


ガラスの向こうを覗き込んで、しばらく待つのだろうか。


それとも、別のものを見つけて、あっさり歩き出すのだろうか。


タカシには、わからなかった。


わからないままでいい、とも思った。


相手の鳥には、相手の暮らしがある。


ヨッシーには、ヨッシーの暮らしがある。


そして、自分にも。


タカシは、肩の上のヨッシーをそっと見た。


「ヨッシー。帰ったら、リンゴにしようか」


「リンゴ! リンゴ!」


返事は、いつもどおりだった。


タカシは笑いながら、歩き続けた。


別れというものは、いつも大きな音を立ててやって来るわけではない。


誰かがいなくなることを、まだ知らないまま過ごす日もある。


言葉が通じなくても、伝えておきたいことがある。


そして、別れたあとにも、散歩道は続いていく。


タカシの肩の上で、ヨッシーがもう一度、元気よく鳴いた。


「サンポ! サンポ!」


「はいはい。帰り道も、散歩のうちだね」


タカシは、秋の空を見上げた。


明日も、きっと歩く。


ヨッシーと一緒に。


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