暗号化された真実
外部との通信を遮断したセーフハウスには、緊張感漂う静寂が満ちていた。
「起こしてすまない、博士。話を聞かせてくれ」
ジョセフに声をかけられ、目を覚ましたベネット博士は、まだ恐怖に震える手でポケットから小さな金属製のUSBドライブを取り出した。
「……奴らに奪われる前に、研究の核心部分だけをこの中に隠した。だが、二重の暗号がかかっている。解読には専用のキーが必要だ」
ルナが即座にUSBを受け取り、解析端末に接続する。モニターには無数のコードが高速で流れ始めた。
「解析を始めるわ。……すごいわね、これ。単なる兵器の設計図じゃない」
画面を凝視していたルナの顔から血の気が引いていく。
「このプログラム、特定のバイオ兵器の起動コードだけじゃないわ。世界主要都市のインフラシステムを同時に麻痺させ、パニックを引き起こすためのサイバー攻撃プロトコルが組み込まれている……!」
「つまり、バイオ兵器とサイバーテロの複合攻撃か」
ボリスが重い声で呟く。
「ええ。しかも発生予定地としてリストアップされているのは、モスクワだけじゃない。パリ、ロンドン、そしてワシントンD.C.……」
データの中に刻まれていた決行日は、わずか数日後だった。
「なぜラングレーの上層部がこれに関わっている?」
ジョセフの問いに、ベネット博士は力なく首を振った。
「私にも全貌はわからない。だが、彼らはこの危機を利用して国際情勢を格段に緊張させ、巨額の軍事予算と権力を手に入れようとしている……そう耳にした」
真実の一端が明らかになった瞬間、セーフハウスの灯りが一瞬明滅した。
「ジョセフ、まずいわ!」
ルナがモニターを叩く。
「暗号の解析処理を実行した瞬間、USBに仕込まれていたトラップが作動した……! 私たちのIPアドレスと現在地が、外部の未知のサーバーへ送信されたわ!」
「追手が来るぞ!」
ボリスが銃を構え、ニコライが素早く脱出用のギアを掴む。
自ら手繰り寄せた「真実」という名の糸は、ジョセフたちをさらなる絶体絶命の危機へと引きずり込んでいくのだった。




