黒いパイプライン
トラップの発動からわずか数分。ジョセフたちはセーフハウスを捨て、雪が舞う夜のモスクワへと再び逃れ出た。
「敵の狙撃手やFSBに見つかる前に、奴らの資金源と物流ルートを絶つ必要がある」
移動する車内、ジョセフは次なる一手を見据えていた。解析されたデータから浮上したのは、バイオ兵器の資材や設備を秘密裏に供給している国際的な密輸組織の存在だった。
「供給元を辿れば、必ず現地で指揮を執っている人物に突き当たるわ」
ルナが端末を操作しながら続ける。
「モスクワ港の第4埠頭……今夜、非合法な資材の積み替えが行われる予定よ。表向きは輸入木材の保管倉庫になっているけれど、実態は闇取引の拠点ね」
「よし、乗り込むぞ」
ジョセフ、ボリス、ニコライの三人は潜入用の作業服に変装し、吹雪に紛れて港湾エリアへ潜入した。巨大なコンテナが立ち並ぶ闇の中、厳重に警戒する警備員たちの目を盗み、中央の大型倉庫へと忍び込む。
倉庫の二階キャットウォークから見下ろすと、そこでは防護服を着た男たちが怪しげなドラム缶をトラックへ積み替えていた。その中央で、部下に指示を出している男の顔を、ジョセフは暗視双眼鏡で捉える。
「あいつは……ヴォルコフ」
ニコライが息をのんだ。
ヴォルコフ。元情報機関の暗部におり、現在は国際的な兵器商人として暗躍する男だ。過激派組織やならず者国家に死を売りさばき、各国の情勢を裏から操作してきたフィクサーでもある。
「ヴォルコフが直接現場に指示を出しているということは、計画は最終段階に入っている証拠だ」
ジョセフは胸元の超小型カメラで取引の映像と書類データを撮影し、確実に証拠を押さえていく。
その時、倉庫の大型扉が開き、新たな黒塗りの高級セダンが入ってきた。車から降りてきたのは、見覚えのある高級仕立てのスーツを着た男だった。
(あの男は……まさか)
ジョセフの目が鋭く光る。その男は、かつてラングレーの本部で見かけたことのある高官の側近だった。
敵の黒幕である兵器商人ヴォルコフと、CIA内部の裏切り者。二つの巨大な影が、今まさに目の前で手を取り合おうとしていた。




