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「毎月50万円使える専業主婦」の私を妬んで夫に手を出した親友は、翌月から私の「手」になりました  作者: 空の異変


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第六話 今月の歩合

編集部屋のプリンターが、紙を一枚吐き出した。


月末の締めの日だった。4人分の明細を順番に刷って、最後の一枚をクリアファイルに挟む。


内扉を押して撮影部屋に戻ると、リビングから声が聞こえた。


「ボーナス、あなたからだって」


ソファの肘掛けに腰かけた実穂が、マーカーのケースを振っていた。全色セットの、あの限定のやつ。


「この指輪、広告で3回使った」


多恵さんが、左手の甲を涼花のほうへ向ける。幅のある金の輪が、窓の光を拾った。


「俺へのプレゼントが、あんた」


恭平はクッションを抱えて、肩を震わせていた。


涼花はラグの真ん中に座りこんだまま、3人の顔を順番に見ていた。


「……ボーナスって、何」


「社長がね、言ってたの。欲しいものは涼花さんに言えば、たぶん買ってくれるよって」


実穂がケースを開けて、中のマーカーを一本抜いた。


「年末のボーナスの代わりだって」


「代わり……」


「あたし、ちゃんと使ってるよ。毎日」


「リフィルも? シールも?」


「シールは、ノートの表紙に貼った。昨日の投稿に写ってる」


「健康食品も? あのブレスレットも?」


「ブレスレットは、来月の撮影で使う予定よ」


多恵さんは悪びれずに言った。


「健康食品は、飲んでないけど。人にあげたわ」


「あげた……」


「指輪とブレスレットは、私も気に入ってる。そこは本当」


「じゃあ、私が何を買うかまで、最初から……」


涼花は恭平を見た。恭平はクッションに顔を半分埋めた。


「いや、俺はほら、その……旦那を取りに来た人が、そのまま俺のとこに来たわけで」


「それが何なの」


「プレゼントってのは、俺が勝手にそう呼んでるだけ。いや、言い方が悪いのは分かってる」


「笑ってるじゃん」


「笑ってない。……ちょっとしか」


「奪ったつもりでいたの、私だけってこと? ずっと?」


返事の代わりに、恭平の肩がまた揺れた。


リビングの入り口に立った私に、最初に気づいたのは実穂だった。マーカーをケースに戻して、口元を押さえる。


多恵さんは窓のほうを向き、恭平はクッションの陰に引っこんだ。


3人が、笑いをこらえている。


涼花だけが、頬をいっぱいにふくらませていた。


    *


玄関のほうで、誰かのスリッパが片方、裏返っていた。


涼花が立ち上がった。ラグの毛足が、膝の形にへこんだまま残っている。


「阿部晴実! もう、あんたになんか、ついて行けない!」


部屋の空気が、少しだけ固くなった。恭平がクッションを下ろす。


実穂は、ケースの蓋を閉じた。


彼女が私の名前を、名字から全部呼んだのは、それが初めてだった。


「最初から決めてたんでしょ。私が恭平さんに近づくのも」


誰も答えなかった。


「プレゼントも、退職届も、晴実の思ったとおりだったんでしょ。私が悔しがるところまで」


「…………」


「笑ってていいよ、みんな。でも晴実は、ちゃんとこっち見て答えて」


「涼花」


「私、ここに来てから、どれだけ……」


声が途中で途切れる。


私はクリアファイルを持ち上げた。今月の明細が一枚、挟まっている。


「それには、あとでちゃんと答える」


「あとで?」


「うん。でも、今日は締めの日だから」


「締めとか、今どうでもいいじゃん」


「どうでもよくないよ。先に明細を見ようか」


私はファイルから紙を抜いた。


「これは、もう終わった仕事の分」


涼花は、ファイルと私の顔を交互に見た。


ほかの3人は、もう誰も笑っていなかった。


    *


ダイニングテーブルに明細を置いて、涼花の向かいに座った。


「撮影に入ったのが、全部で22日間。朝ごはんの回が、編集して出したので18本」


「……うん」


「夜の作り置きの回が9本」


「……9本。あの、ひじきの回も入ってる?」


「入ってる。商品リンクから買われた分は、この表」


「計算は?」


「契約書に書いてあるとおり。自分で確かめて」


涼花は明細の上に指を置いて、一行ずつ下へずらしていった。途中で一度、契約書のコピーをポケットから出して、見比べる。


「22日……合ってる。18本も、合ってる」


涼花の指が、表の途中で止まった。


「ねえ。これ、謝る代わりのお金とかじゃないよね」


「違う。謝るのは、別の話」


「……ほんとに?」


「これは、涼花の手が作った分。払わなかったら、私が困る」


涼花はしばらく私の顔を見て、それから明細に目を戻した。私は上のほうの欄を、指で軽く叩いた。


「基本の報酬は、ここ。歩合は、別に計算してある」


それから、明細の一番下の数字を指さした。


「今月の歩合、50万円」


涼花の顔から、血の気が引いた。


唇まで白くなって、それから、首のあたりから赤くなりはじめる。赤は頬に上がり、耳まで届いた。


最後に、目の下だけが、うっすらと桃色に残った。


彼女はテーブルに両手をついて、身を乗り出した。


「私、ついて行く人、間違えてなかった!」


「次も、私を騙してください!」


「自分から!」

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