ふたつの傷、重なるいろ。
ある日の放課後。
グラウンドの隅で、月不見瑠璃は膝についた砂を払っていた。
「っ……いてぇ」
サッカーの練習中、相手と少しぶつかって転んだ。
大したことはない。
膝と手のひらに擦り傷ができただけだ。
けれど、血がにじんでいるのを見た顧問に、
「月不見、保健室行ってこい」
と言われてしまった。
「これくらい平気なんだけどな……」
そう呟きながら、月不見瑠璃は保健室へ向かった。
ガラッ。
「失礼しまーす」
保健室の扉を開ける。
すると、窓際の椅子に座っている女子生徒がいた。
見覚えのある後ろ姿。
「あれ、鳴神?」
声をかけると、女子生徒が振り返った。
「ん?」
「あ、月不見くんじゃん。どうしたの?」
「いや、ちょっと転んで……」
「え、怪我?」
「まあ、ちょっとな」
月不見瑠璃が手を見せると、鳴神浅葱は目を丸くした。
「ウワ! 傷! でか!」
「いや、そんなでもないだろ」
「いやいや、結構いってるじゃん!」
「だから大したことねーって」
そう言いながら、月不見瑠璃は空いている椅子に腰を下ろした。
「鳴神は?」
「私?」
「なんで保健室いんの?」
「あー、これ?」
鳴神浅葱は自分の頭を指差した。
「友達が羽根打ったらさ、ラケットがすっぽ抜けて、私の頭にめっちゃぶつかってさ~」
「……は?」
「ゴンッ!とか言ってさ~、アハハ!めっちゃ痛かったんだけど、もう大丈夫!」
鳴神浅葱はケラケラ笑った。
「いや……」
月不見瑠璃は鳴神浅葱の頭を見る。
「頭って、大丈夫なのか?」
「ん? たぶん?」
「たぶんって……」
「先生にも見てもらったし、平気平気」
そう言って鳴神浅葱は立ち上がった。
「じゃ、私もう戻るね」
「あ、おう」
「月不見くんもお大事にー」
「……お前もな」
「はーい」
鳴神浅葱はひらひらと手を振って、保健室を出ていった。
「……」
月不見瑠璃はその背中をしばらく見送った。
「月不見くん、どうしたの?」
保健室の先生に声をかけられ、月不見瑠璃は我に返る。
「あ、いや……」
先生が傷口を消毒する。
「っ、いてっ」
「ほら、動かないの」
「はい……」
消毒液が傷に染みる。
その痛みに顔をしかめながら、月不見瑠璃はさっきの浅葱の言葉を思い出していた。
『友達が羽根打ったら、ラケットがすっぽ抜けて、私の頭にめっちゃぶつかってさ~』
「……」
月不見瑠璃は眉をひそめる。
「……頭って、大丈夫じゃねえだろ」
さっきは鳴神浅葱があまりにも軽そうに言うから、そんなものかと思った。
でも。
よく考えたら、頭だ。
「……いや、普通に心配なんだけど」
誰に言うでもなく、月不見瑠璃は小さく呟いた。
けれど、その理由を深く考えることはなかった。
ただ少しだけ。
さっきまでいた椅子が、妙に気になっていた。




