つながる縁、重なるいろ。
五月。
新学期の慌ただしさも少しずつ落ち着き始めた頃。
その日のLHRで、担任が教壇の前に立つなり、黒板に大きく「体育祭」と書いた。
「ということで、今日は体育祭の種目の参加決めをします」
その言葉に、教室が一気にざわつく。
「リレー出たい人ー!」
「ムカデ競争やろうぜ!」
「綱引きは?」
あちこちから声が上がる。
月不見瑠璃は机に肘をつきながら、黒板を眺めていた。
体育祭。
別に嫌いというわけではない。
けれど、これといって出たい種目があるわけでもない。
「どうしようかな……」
小さく呟いたところで、前の席から声が聞こえてきた。
「浅葱、リレー出なよ!」
「えー、やだよ」
「じゃあムカデ競争!」
「なんで私なのよ」
鳴神浅葱は笑いながら、次々と飛んでくる声に答えている。
いつの間にか、鳴神浅葱はクラスの中でもかなり目立つ存在になっていた。
持ち前の明るさと人当たりの良さ。
誰とでも気軽に話せるから、自然と周りに人が集まっている。
そんな鳴神浅葱の隣の席では、幼なじみ……ではないが、一年生の頃から仲のいい照柿祓が呆れたように口を挟んだ。
「浅葱、おまえ足はえーからリレーのアンカーやれよ」
「えー、やだよ。じゃー祓は棒倒し出なさいよ」
「はー!?」
「いいじゃん、似合ってるよ」
「どこがだよ!」
言い合いながらも、二人とも笑っている。
そのやり取りを、月不見瑠璃はぼんやりと聞いていた。
――仲いいんだな。
そんなことを考えていると、
「月不見くん、いーい?」
「え?」
突然名前を呼ばれて、月不見瑠璃は顔を上げた。
「リレーのアンカー、月不見くんでいい?」
「……え?」
一瞬、意味が分からなかった。
「つっきー、アンカーじゃん!」
鳴神浅葱がこちらを振り返り、楽しそうに笑っている。
「まじかよ……」
思わず呟く。
諦めと呆れ。
その二つが半分ずつ混ざったような声だった。
すると――
ガタン!
「じゃー、私第三走者やるよ!」
突然、鳴神浅葱が勢いよく立ち上がった。
「え?」
月不見瑠璃が驚いて顔を上げる。
そこには、弾けんばかりの笑顔を浮かべた鳴神浅葱がいた。
「祓、あんた第二走者ね」
「え、おい。勝手に決めんな……まあいいわ」
「よし!」
あまりにも、とんとん拍子だった。
第一走者も別のクラスメイトがやることになり、気づけばリレーのメンバーはあっという間に決まっていた。
月不見瑠璃は、自分がアンカーになったことよりも。
なぜか第三走者になった鳴神浅葱のほうが気になっていた。
* * *
その日の帰り道。
校門を出て少し歩いたところで、月不見瑠璃は前を歩く鳴神浅葱を見つけた。
「……鳴神」
「あれ、つっきー?」
振り返った鳴神浅葱が、いつものように笑う。
「さっきのさ」
「うん?」
「なんで、リレー俺の前走ってくれるの?」
「えー?」
鳴神浅葱は少し考えるように首を傾げた。
「何も考えてない」
「……何も考えてないのかよ」
「うん。でもさ」
鳴神浅葱は歩きながら、少しだけ前を向いた。
「せっかく仲良くなったんだからさ、体育祭でもっと仲良くなれたらいいじゃん」
「……」
「バトンも縁もつなぎたいしさ」
そう言って、また笑った。
「あ、私も祓も足速いほうだから安心してね」
「……そっか」
月不見瑠璃は短く返した。
それ以上、何を言えばいいのか分からなかった。
ただ――。
鳴神浅葱がみんなから好かれる理由が、少し分かった気がした。
誰かと仲良くなることを、こんなにも自然に喜べる。
自分だったら、そんなふうに言えるだろうか。
そんなことを考えながら、月不見瑠璃は鳴神浅葱の隣を歩いた。
春の終わりの風が、二人の間を静かに吹き抜けていった。




