↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
3/3

つながる縁、重なるいろ。

 五月。


 新学期の慌ただしさも少しずつ落ち着き始めた頃。


 その日のLHRで、担任が教壇の前に立つなり、黒板に大きく「体育祭」と書いた。


「ということで、今日は体育祭の種目の参加決めをします」


 その言葉に、教室が一気にざわつく。


「リレー出たい人ー!」


「ムカデ競争やろうぜ!」


「綱引きは?」


 あちこちから声が上がる。


 月不見瑠璃は机に肘をつきながら、黒板を眺めていた。


 体育祭。


 別に嫌いというわけではない。


 けれど、これといって出たい種目があるわけでもない。


「どうしようかな……」


 小さく呟いたところで、前の席から声が聞こえてきた。


「浅葱、リレー出なよ!」


「えー、やだよ」


「じゃあムカデ競争!」


「なんで私なのよ」


 鳴神浅葱は笑いながら、次々と飛んでくる声に答えている。


 いつの間にか、鳴神浅葱はクラスの中でもかなり目立つ存在になっていた。


 持ち前の明るさと人当たりの良さ。


 誰とでも気軽に話せるから、自然と周りに人が集まっている。


 そんな鳴神浅葱の隣の席では、幼なじみ……ではないが、一年生の頃から仲のいい照柿祓が呆れたように口を挟んだ。


「浅葱、おまえ足はえーからリレーのアンカーやれよ」


「えー、やだよ。じゃー祓は棒倒し出なさいよ」


「はー!?」


「いいじゃん、似合ってるよ」


「どこがだよ!」


 言い合いながらも、二人とも笑っている。


 そのやり取りを、月不見瑠璃はぼんやりと聞いていた。


 ――仲いいんだな。


 そんなことを考えていると、


「月不見くん、いーい?」


「え?」


 突然名前を呼ばれて、月不見瑠璃は顔を上げた。


「リレーのアンカー、月不見くんでいい?」


「……え?」


 一瞬、意味が分からなかった。


「つっきー、アンカーじゃん!」


 鳴神浅葱がこちらを振り返り、楽しそうに笑っている。


「まじかよ……」


 思わず呟く。


 諦めと呆れ。


 その二つが半分ずつ混ざったような声だった。


 すると――


 ガタン!


「じゃー、私第三走者やるよ!」


 突然、鳴神浅葱が勢いよく立ち上がった。


「え?」


 月不見瑠璃が驚いて顔を上げる。


 そこには、弾けんばかりの笑顔を浮かべた鳴神浅葱がいた。


「祓、あんた第二走者ね」


「え、おい。勝手に決めんな……まあいいわ」


「よし!」


 あまりにも、とんとん拍子だった。


 第一走者も別のクラスメイトがやることになり、気づけばリレーのメンバーはあっという間に決まっていた。


 月不見瑠璃は、自分がアンカーになったことよりも。


 なぜか第三走者になった鳴神浅葱のほうが気になっていた。


 * * *


 その日の帰り道。


 校門を出て少し歩いたところで、月不見瑠璃は前を歩く鳴神浅葱を見つけた。


「……鳴神」


「あれ、つっきー?」


 振り返った鳴神浅葱が、いつものように笑う。


「さっきのさ」


「うん?」


「なんで、リレー俺の前走ってくれるの?」


「えー?」


 鳴神浅葱は少し考えるように首を傾げた。


「何も考えてない」


「……何も考えてないのかよ」


「うん。でもさ」


 鳴神浅葱は歩きながら、少しだけ前を向いた。


「せっかく仲良くなったんだからさ、体育祭でもっと仲良くなれたらいいじゃん」


「……」


「バトンも縁もつなぎたいしさ」


 そう言って、また笑った。


「あ、私も祓も足速いほうだから安心してね」


「……そっか」


 月不見瑠璃は短く返した。


 それ以上、何を言えばいいのか分からなかった。


 ただ――。


 鳴神浅葱がみんなから好かれる理由が、少し分かった気がした。


 誰かと仲良くなることを、こんなにも自然に喜べる。


 自(・)分(・)だ(・)っ(・)た(・)ら(・)、(・)そ(・)ん(・)な(・)ふ(・)う(・)に(・)言(・)え(・)る(・)だ(・)ろ(・)う(・)か(・)。


 そんなことを考えながら、月不見瑠璃は鳴神浅葱の隣を歩いた。


 春の終わりの風が、二人の間を静かに吹き抜けていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。