第44話 頼むから、泣いてくれないか
……ごめんね、ワタルさん。
君と初めて出会った、あの雨の日。
俺は君に、泣いて縋りついてしまった。
時雨がどうして死んだのか、ただ、それが知りたくて。
あのとき、君がどんな思いで俺を見ていたのかなんて、考えもしなかった……。
目の前で嗚咽を漏らすワタルさんの姿に、あの日、墓前で出会った少女の面影が重なった。
今回は俺、ちゃんと気づくことができたんだろうか……。
「晴渡さん……」
俺たちの一連のやり取りに口を挟むことなく、じっと見守っていたマママさんが、不意に声をかけてきた。
「大切な娘を泣かせた責任、取っていただけるのかしら……?」
「……はい?」
俺は、あまりにも突拍子もないマママさんの言葉に耳を疑った。
呆然とする俺に、マママさんは一語ずつ区切るように言い直す。
「だ・か・ら! 大切な娘を泣かせた責任、取っていただけるのかしら……? って言ってるのよ!!」
「せ、責任!? 責任って、何の責任ですかぁぁぁ!?」
「やだ! 今さら言い逃れするつもり!? このクズ!! クズ渡!!」
俺の名前が、存在進化を果たした!
「ま、待ってください! 確かに俺が『泣いてくれ』とは言いましたけど! それは、あの、あれっ!? というか、話、聞いてましたか!?」
俺は情けない男の代表選手のように、慌てふためいた。
「ええ! 一から十まで、しっかりと聞いてましたとも!」
マママさんは、ふんっと胸を張り、ドヤ顔で俺の放った言葉を繰り返す。
「『俺、君より十五歳も年上なのに……ずっと甘えてばかりだった』」
……ん?
「『頼むから……泣いてくれないか』」
……あれ?
マママさんは、今度はワタルさんの声を真似るように、悲劇のヒロインよろしく大げさな身振りを交え、芝居がかった口調で続けた。
「『やめなさいっ!! クズ!! バカっ!! それ以上、何か言ったら……許さないからっ!!』」
…………。
……んん?
ちょっと待て。
なんか、俺……。
ワタルさんに別れを告げる、最低のクズ男みたいなこと言ってないか!?
「いやいやいや!!
そんな話じゃなかったですよねぇぇぇぇ!?」
俺は渾身の力で無実を訴える。
……そこで、俺ははっと我に返った。
今はこんなくだらないエセ修羅場の話をしているときではなかった!
俺は慌てて、ついさっきまで嗚咽を漏らしていたワタルさんへ目を向けた。
「……返して、私の涙……」
ワタルさんは、泣き腫らした目に恨みをにじませながら、俺とマママさんを睨んでいた。
すっかり涙は止まってしまったようだ。
ワタルさん……それはホントにごめん……。
「あら? ワタルちゃん、丸鶏さんはもういないのかしら?」
……!!
確かに、さっきのワタルさんの語尾には、丸鶏……いや、鳥っぽいモノが付いていなかったような……。
「ウソ……」
ワタルさんは、自分の声を確かめるように小さく呟いた。
「『頼むから……泣いてくれないか』」
…………。
……何故、俺の恥ずかしいセリフを掘り起こすんだ……。
ワタルさんは、してやったりとばかりに、いたずらっぽい笑みを俺に向けていた。




