第40話 流石、俺
※今回は一部、ちょっと卑猥な表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
「俺の名前は、晴渡虹介です……。」
「ふふ……そうかもしれないわね……」
女性は、どこか哀れむような、それでいて、すべてを見透かしているような微笑みを浮かべている。
……なんだ、この人。
底が知れない。
「いや、そうでしかないですよ……」
「……マママ?」
車椅子の女の子が、不思議そうに女性を見上げた。
「あなたが誰であろうと、ここにいるということは、そういうことでしょう?」
……どういうことなんだ!!
さっぱり分からないんだが!!
俺は必死に、途切れた記憶を手繰り寄せた。
昨日、酒の席で知り合った女の子。
意気投合して、俺の部屋に連れ帰った。
それから、めちゃくちゃ楽しんで…。
……そこまではいい。
だが、その後は……?
待てよ。
そうだ、あの女の子!
あの子はどこへ行った!?
もしかして……俺はハメられたのか!?
俺は再び、祭壇のように整えられたテーブルへ目を向けた。
銀色のバットに乗せられた、正体不明の動物の骨。
その隣には、まるまると肉を残した丸鶏が一羽、横たわっている。
バットの底に溜まった赤いドリップが、異様な光景をいっそう不気味なものにしていた。
……骨。
……消えた女の子。
そして、目の前の謎の母娘。
俺の頭に、考えたくもない可能性が浮かび上がる。
まさか……。
まさか、まさか……!!
……
これは、本当に動物の骨なのか……?
俺の背筋に、冷たいものが走った。
「あん……こんなにいっぱいお汁出して、いけない子ね★」
…………は?
謎の豊満美女は、丸鶏の乗った銀色のバットを持ち上げると、そのままキッチンへ運んでいった。
そして、何事もなかったかのように調理の準備を始める。
「は…………??」
……なんなんだ、この人は。
目の前には、正体不明の骨。
そして、謎の美女が鶏肉に向かって妙なことを囁きながら調理の準備を始めている。
この状況、どう考えてもおかしい。
おかしいのだが……。
俺は呆然としたまま、キッチンに立つ彼女の後ろ姿を目で追った。
……尻もいい。
しかし、そのとき――。
俺は、目の前の美女がとんでもないことをしようとしているのに気づいた。
……待て。
まさか、そのまま調理するつもりか!?
あれだけドリップの出ていた鶏肉を、何の下処理もせずに……!?
いやいやいや!!
まずはキッチンペーパーで余分な水分をしっかり拭き取る!
それが鶏肉を美味しく調理するための基本中の基本だろう!?
「ちょ……ちょっと待ってください!!」
俺は慌ててキッチンへ駆け寄った。
だが、まずは手洗いだ!
調理の基本は、何と言っても清潔な手から始まる。
俺は蛇口をひねると、石鹸を泡立て、指の間から爪の周りまで念入りに洗った。
「あらあら……」
謎の美女が目を丸くして、俺の様子を見つめている。
そんな視線には構っていられない。
手を十分にすすぎ、キッチンペーパーで水分を拭き取る。
「ちょっと貸してください!!」
俺は新しいキッチンペーパーを手に取り、丸鶏の表面に浮いたドリップを丁寧に押さえていった。
脚の付け根も、翼の下も忘れずに。
続いて、腹の中を覗き込む。
……ああ、ほら!
やっぱり内臓の一部が残っているじゃないか!
俺は残った内臓を慎重に取り除き、腹の中の水分も拭き取った。
余分な脂や血の塊も、包丁で丁寧に取り除いていく。
ふう。
まずは、こんなところか。
手を洗い直し、あらかじめ小皿に取り分けた塩を用意する。
丸鶏の表面に塩を振り、手で丁寧になじませていく。
胸も、背中も、脚も、翼も。
もちろん、腹の中まで抜かりはない。
まんべんなく、隅々まで。
……よし!
俺は満足げに頷いた。
額に汗が滲んでいる。
思わず二の腕で拭いかけて、慌てて手を止めた。
いけない、いけない。
調理は清潔第一だ。
とりあえず、もう一度しっかり手を洗っておこう。
ようやく一息ついたところで、ふと気づいた。
……視線を感じる。
振り向くと、二人が揃って、呆然と俺を見つめていた。
「まあまあ……すごいわね、ワタルちゃん!」
いつの間にか、車椅子の女の子もキッチンのそばまで来ていた。
女の子は美女の服の裾をぎゅっと掴み、おどおどと俺を見上げている。
……ん?
頬が赤い。
なるほど。
この鮮やかな手際に、幼い女の子まで見惚れてしまったらしい。
ふっ……。
**さすが、俺。**
お付き合いくださり、ありがとうございます




