第38話 晴渡虹介
気がつくと、俺は見覚えのない部屋に立っていた。
やけにラグジュアリーな内装と、見るからに高級そうな調度品。
……どこだ、ここ?
目の前のテーブルには、銀色のバットが三つ並んでいる。
そのうち二つには、何かの動物の骨……だろうか。原形が分からないほど綺麗に肉を削ぎ落とされたような、奇妙なものが乗っていた。
残る一つには、丸鶏が一羽。
バットの底には、赤いドリップが溜まっている。
……せっかくの食材が、もったいない。
しかも、テーブルの両端には花瓶のようなものが置かれ、青々とした葉のついた枝が挿してある。
……なんだ、これ。
まるで何かの祭壇じゃないか。
背筋に、ぞくりと寒気が走った。
落ち着け。
まずは、何が起こったのか思い出そう。
俺は確かに、昨日かなり飲んでいた。
そして、酒の席で知り合った女の子をお持ち帰りして、めちゃくちゃヤッた。
……そこまでは覚えている。
だが、それから先の記憶が、ぷっつりと途切れていた。
飲みすぎたとはいえ、ここまで記憶が飛ぶなんて初めてだ。
それに、いくら激しく動いたからって……。
いや、待て。
もしかして俺、あの子のほかにも誰かを……?
すると――。
呆然と立ち尽くす俺の前に、一人の女性がこちらを見ていることに気がついた。
……おお。
豊満な胸元に、品のいい顔立ち。
三十代くらいだろうか。
女性の魅力は三十代から増す、なんて話を聞いたことがある。
なるほど。
目の前の美女は、まさにその言葉を体現しているようだった。
落ち着いた物腰と、大人の女性ならではの色香。
……いやいや、ちょっと待て。
この人、誰だ?
そして俺は、一体どこにいるんだ……?
……待てよ。
俺は、ひょっとしてこの女性にお持ち帰りされたのか?
「マママ……?」
不意に、小さな声が聞こえた。
ハッとして声のした方を見る。
俺の右隣には、車椅子に乗った小さな女の子がいた。
ひどく痩せ細った身体。まだ幼児だろうか。
だが、驚くほど整った顔立ちをしている。将来は間違いなく美人になるだろう。
……いや、そんなことはどうでもいい。
今、この子は何と言った?
マママ……?ママのことか…?
目の前の、この豊満な美女を?
その瞬間――。
全身から、サァッと血の気が引いていった。
まさか……。
まさか、まさか……!!
俺は今、過去の過ちの結果を、目の前に突きつけられているのか!?
……俺の子なのか!?
「この人……ダァレ?」
車椅子の女の子が、不思議そうに俺を見上げた。
……いや、それはこちらの台詞なんだが。
あなたたちこそ、一体どちら様なんでしょうか……。
すると、謎の豊満美女がにっこり微笑んだ。
「ワタルちゃん、この人、グズ渡さんっていうのよ」
「クズワタリ?」
…………。
違う。
グズ渡でも、クズワタリでもありません……。
「俺の名前は、晴渡虹介です……。」
ここを書くために、今までやってきたと言っても過言ではありません。
……いや、さすがに過言かもしれません。




