第29話 1001号室
俺の呼びかけに顔を上げる、巫女姿の少女。
…………!!
違う……。
似ても似つかない、まったくの別人だ……。
「? お守りですか?」
何も言わずに固まる俺を不審に思ったのか、少女が用向きを尋ねる。
「あ……いえ……はい。やっぱり、これ、ください」
挙動不審になりながら、俺はなぜか健康祈願のお守りを手に取った。
「? 五百円です」
俺は言われた金額を財布から取り出す。
そして……。
「あ、あの……ここに雨音時雨さんって方はいらっしゃいますか?」
一瞬、少女は「え?」という顔をした。
「……? いえ、少なくとも私は知りません……。ただのバイトですし……あなた、誰ですか?」
不審に満ちた目で見られ、俺は思わず後ずさった。
「あ、すみません……はは……いやぁ、ホント今日はいい天気だなぁ……」
俺はお守りを受け取ると、石段の方へ駆け出した。
いない!!
時雨は、この世界に存在しない!?
あの娘に嘘をつかれた?
いや、少なくとも、俺の問いかけに対して見せた、あの最初の反応に嘘はなかった!!
そうでなければ、あの娘はかなりの大女優だ!!
俺はもつれそうになる足を必死に動かし、階段を駆け下りながら考えた。
ちょっと待て!
本当に知らない可能性だってある!
この世界の俺が、俺の知っている俺とは違ったように、時雨だって真面目に家の手伝いをしていなかったとしたら、あの娘との接点がなくてもおかしくないじゃないか!
でも、どうやって確かめる?
この世界では完全に初対面の俺が、いきなり家に押しかけて聞くのか??
……完全に不審者扱いされるだけだ。
となれば……。
もう頼れるのは――。
ワタルさんしかいない……。
◇ ◇ ◇
俺はそのまま、ワタルさんに会いに向かった。
よかった……。
あの日見た、高級リゾートホテルのような外観のマンションは、この世界にも存在しているようだ。
しかし俺は、ここへ来る道すがら、とんでもない事実に気づいてしまった。
俺が現在二十二歳ということは……ワタルさんは今、七歳。
二十二歳の俺が突然、七歳児を訪ねても不審に思われない理由って何だ……?
というか、ワタルさんがこの世界にいるかどうかもまだ分からない。
インターホンを押してワタルさんが必ず出てくれる保証もない…。
俺がマンションの塀の外で右往左往していると、後ろからカラカラカラ……という音が近づいてきた。
ハッとして振り向く。
「何やってるのよ、全く……」
そこにいたのは――。
七歳の姿になった、ワタルさんだった。
「何って、ワタルさんに会いに……」
「来るのが遅いのよ! グズ!!」
ああ、ちゃんとワタルさんだ……。
俺は、グズと言われて安心する男になっていた。
「ついてきて……」
そう言って、マンションへ向かうワタルさん。
俺は余計なことは言わず、大人しく従った。
コンシェルジュには当然のように警戒されたが、
「家庭教師の面接に来てもらったの! 文句あるの!?」
ワタルさんの一喝で、強引に関門を突破することができた。
そして俺は再び、1005号室に――。
……ではなく。
この時代では、どうやら1001号室らしい。
迂闊にインターホンを押さなくて良かったと、心底思った。
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