第28話 違和感
俺の記憶違いか?
確かに過去に戻っては来ている、ようだ。
テレビをつければ、流れてくるニュースでは、過去に見たことのある事件が報道されている。
しかし、何かが少しずつズレている。
スマートフォンに登録されている知人。
部屋の中の家具の配置。
そして……クローゼットの中の、俺の……服の趣味……。
「なんだ……このチャラい服は……」
白のロング丈Tシャツ。
膝の破れた黒いスキニーデニム。
やたら長いカーディガン。
シルバーアクセサリーの数々。
そして、小脇に抱えることしかできなさそうなクラッチバッグ。
「この鞄、何が入るんだ……水も持ち歩けないな……」
顔を洗おうと洗面台へ向かい、鏡を見ると、髪が妙に長いことに気づいた。
棚には、使い方すら分からないヘアグッズがひしめいている。
ハードワックス。
ヘアスプレー。
ヘアアイロン。
「…………」
あ、この香水は俺の趣味と合うようだ。
俺はキッチンに置いてあった、片栗粉の口を縛っていた輪ゴムで髪をひとつに縛った。
調味料が丁寧に保管されているところを見ると、自炊はマメにしているらしい。
ちなみに、俺の得意料理はふりかけ卵ご飯だ。
ここにきて、俺が感じていた小さな違和感は、確かなズレへと変わっていた。
とにかく、この違和感の正体を突き止めるべく、俺は大学へ行ってみることにした。
記憶が正しければ、俺は三年までに卒業に必要な単位をほとんど取り終え、この時期には卒論もほぼ書き終えていたはずだ。
だから、籍を置いていたゼミに顔を出してみることにした。
大学に着き、キャンパスを歩いていると、運よく桃井に声をかけられた。
「おい! 晴渡! お前、大丈夫なのか?! 今日の講義休んだらヤバいって言ってただろ? 俺もだけど」
なん……だと……??!
「うわ、てか、お前今日、輪ゴムで縛ってんの? 髪の毛セットするのに一時間かけてるやつが(笑)」
そんなにかけてたら禿げるぞ! 俺!
「桃井……俺は今日、休んだら、ヤバかったのか……?」
「って、昨日言ってたぞ?」
「ちなみに……俺は卒論は……終わって……」
「ねえよ。テーマもまだ決まってないって、それも昨日言ってたぞ」
桃井が怪訝そうに俺の顔を覗き込む。
「大丈夫か?」
俺はこの時期、身軽に動けるように、あとは卒業を待つだけの状態にしていたはずだ。
いや、間違いない。
大学三年の時、俺は会社を立ち上げるために単位を――。
そして……桃井は、その会社の創立メンバーだった。
「なあ……桃井……俺たちの会社って……」
「は? 会社? まだ内定も決まってねえよ! ああ、地獄だぁ……俺、フリーターになるのかなあ……」
違う……。
ここは、俺の知っている俺の過去じゃ、ない。
◇ ◇ ◇
俺の頭に、一番考えたくない最悪のケースがよぎった。
知らないお姉さん。
知らない過去。
スマートフォンの連絡先から消えていた友人たち。
まさか……。
まさか……!!
俺は電車に飛び乗り、雨音神社へ向かった。
俺が二十二歳ということは、時雨は高校生だ。
以前、時雨から聞いたことがある。
中学、高校の頃は、放課後になるといつも実家の神社を手伝っていた、と。
この時間なら、社務所にいる可能性が高い。
時雨に会えるはずだ……!!
長い石段を駆け上がる。
あの時――。
あの青白い光を見た時と同じような不安が、胸を押しつぶしてくる。
息が整うよりも早く、俺は社務所へ駆け寄った。
窓越しに、長い髪の巫女姿の女の子が見えた。
何か作業をしているのか、俯いていて顔はよく見えない。
乱れる呼吸のまま、俺は呼びかけた。
「ハァ……ハァ……あの!!」
俺の声に、少女は作業の手を止めた。
ゆっくりと顔を上げ、こちらを見る。
「はい」
………………!!
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