↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雨音時雨は、晴渡虹介を知らない  作者: 白ご飯
第二章 時空ワタル

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/44

第25話 全ての中に


――時雨さんを救える方法があるとすれば、あなた、やる?


「え…………」


 時雨を救える方法だって?


 そんなことができるのか?


 いや……今、聞かれているのは、やるか、やらないか、だ。


 方法もリスクも考えなくていいのなら、勿論、答えは「YES」だ。


 でも、これは何も考えずに答えていい質問じゃない。


 そんな俺の思考を見透かしたように、ワタルさんは畳みかけてくる。


「私、言ったわよね? 全てを捨ててもいいなら、ここに来なさい……と。何を今さら躊躇しているの?」


「待ってくれ! ちょっと待って! ……確かに! そんなことができるのなら、勿論、答えはYESだ! でも、そんなこと、いくらなんでも出来る訳が……」


 ワタルさんは、残念なものを見るような目で俺を見ている。


「出来る……訳が……」


 俺は、あの時ワタルさんにかけられた言葉の意味を、ちゃんと理解できていなかったのかもしれない。


「あなた……自分の命を懸ける覚悟で、ここに来たんじゃないの?」


 会社。

 家族。

 財産。


 俺の中にあった「捨てられるもの」の中に、それだけは入っていなかった。


 そのことに、今さら愕然とする。


 自分の命。


「自分の命を捨てられる覚悟はなかったって顔ね……ホント、馬鹿……。どうして『全て』の中に自分を含めないの? もっと自分を大事に扱いなさい」


 俺は、自分の見積もりが甘かったことを痛感した。


 この子とは、生きている世界があまりにも違いすぎていたからだろうか。


「言ったハズよ。時間がないの。このグズ!!」


 結局、また言われてしまった……。


「自分の命が惜しいなら、あなたにはまだ捨てない方法も残ってる。でも、それは今までとは一変した世界で生きるということよ」


 それは俺も覚悟していた。


 多分……。


「言ってなかったけれど、ここも『監視』されてるから。あなたは国家機密を知ってしまった危険人物として、もう認識されてるわ」


 俺はようやく、雨音家が俺に時雨の死をひた隠しにしていた理由を理解した。


「今、唯一の出入り口であるエレベーターは、私の権限でロックしているけれど――」


 ワタルさんは、エレベーターの方へ視線を向けた。


「ここを出た途端、あなたは拘束される」


「…………」


「良くて、二度と今まで通りの生活には戻れない……といったところかしら」


 スケールが壮大すぎる……。


 政府を敵に回すとは、そういうことか……。


「確認なんだけど……時雨を救う方法って、もしかして……」


 ワタルさんは躊躇うことなく、空恐ろしいことを口にした。


「肉体は伴わず、あなたの意識だけを、過去のあなた自身の肉体へ移す秘儀を行うの」


「…………」


「ただし、その秘儀を行うには、一度、今のあなたの肉体が死を迎える必要がある」


 あまりにも淡々とした口調だった。


「その後、どうやって時雨さんを救うかは、あなた次第よ。そうね……例えば、時雨さんを連れて海外にでも亡命すれば?」


 俺は、この短時間で学んだことを忘れてはいない。


 だったら――。


 それをしたら、ワタルさんは……。


「はぁ……また、あなた余計なことを考えてるのね」


 ワタルさんは呆れたようにため息をついた。


「そうよ。お察しの通り――私も死ぬわ」


 やはり……。


「仕方ないわね。あなたの心が軽くなるなら、補足してあげるけど」


 ワタルさんは、まるで大したことでもないように続けた。


「私に残された時間は短いわ。そうね……あと数日もてばいいってところかしら」


「…………」


「死ぬのが少し延びるか、今日になるかってだけよ」


 そんな……。


 そんな、シャンプーの残り回数みたいな言い方するなよ……。


 さっき、自分のことを大事に扱えって言ったばかりのくせに……。


「言っとくけど! あなたの精神を導くために、私も過去に行くことになるからね」


「え……」


「ま、それでもまだ、あなたの良心が咎めるっていうなら――」


 ワタルさんは少し考えるような素振りを見せた。


「対価を求めてあげてもいいわ」


「対価……?」


「そうね……」


 そして、何かを思いついたように顔を上げた。


「私の映画を作りなさい!」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。