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雨音時雨は、晴渡虹介を知らない  作者: 白ご飯
第二章 時空ワタル

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第19話 良識ある大人

 

「あの……俺……私は、こういう者でして……」


 俺は慌てて、ポケットに入れていた名刺入れを取り出す。


 ……考えてみると、朝から雨に打たれ通しだった気がする。


 手に取った革製の名刺入れは、水を吸ってシワシワになり、差し出した名刺は、よれた台紙に革の黒い染料が不気味に染み込んで、俺の名前すらまともに読めなくなっている。


「ははは……すみません……えっと……」


 もたもたする俺の様子にしびれを切らしたのか、不健康美少女は苛立ったように口を開いた。


「私、あなたがどこの会社で、何をしている人かなんて別にどうでもいいのよ!」


「それに、情報が欲しいのはあなたのほうでしょ? これだから、良識ぶった大人って面倒でキライなのよ!」


「ついでに、私はあなたの彼女さんとは何の親交もありませんでした。以上よ! 失礼するわ!」


 そう言って、またその場を立ち去ろうとする不健康美少女の前に、俺は強引に立ちふさがった。


 良識ある大人は、もうやめだ!


「すみません! 聞き方を変えます!」


「私は……俺は、彼女がどうして死んだのかを知りたいんです!」


「何か、ご存知ではないでしょうか!!」


「言ったでしょ!?親交がなかったって!」

 

「…………」


「だったら……どうして時雨の墓参りに?」


 彼女の動きが、ぴたりと止まった。


「……個人的な知り合いじゃないって言っただけよ」


 その言葉に、胸がざわついた。


 時雨とは親交がない。

 それなのに、この人はわざわざ時雨の死を知り墓を訪ねてきた。


「じゃあ……あなたは」


 俺は彼女をまっすぐ見つめた。


「時雨のことを、どこでお聞きになったんですか?」


 その瞬間。


 初めて、彼女の表情から苛立ちが消えた。


 俺を見上げる細い目が、わずかに鋭くなる。


「……それを、あなたに話す必要があるかしら?」




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