第19話 良識ある大人
「あの……俺……私は、こういう者でして……」
俺は慌てて、ポケットに入れていた名刺入れを取り出す。
……考えてみると、朝から雨に打たれ通しだった気がする。
手に取った革製の名刺入れは、水を吸ってシワシワになり、差し出した名刺は、よれた台紙に革の黒い染料が不気味に染み込んで、俺の名前すらまともに読めなくなっている。
「ははは……すみません……えっと……」
もたもたする俺の様子にしびれを切らしたのか、不健康美少女は苛立ったように口を開いた。
「私、あなたがどこの会社で、何をしている人かなんて別にどうでもいいのよ!」
「それに、情報が欲しいのはあなたのほうでしょ? これだから、良識ぶった大人って面倒でキライなのよ!」
「ついでに、私はあなたの彼女さんとは何の親交もありませんでした。以上よ! 失礼するわ!」
そう言って、またその場を立ち去ろうとする不健康美少女の前に、俺は強引に立ちふさがった。
良識ある大人は、もうやめだ!
「すみません! 聞き方を変えます!」
「私は……俺は、彼女がどうして死んだのかを知りたいんです!」
「何か、ご存知ではないでしょうか!!」
「言ったでしょ!?親交がなかったって!」
「…………」
「だったら……どうして時雨の墓参りに?」
彼女の動きが、ぴたりと止まった。
「……個人的な知り合いじゃないって言っただけよ」
その言葉に、胸がざわついた。
時雨とは親交がない。
それなのに、この人はわざわざ時雨の死を知り墓を訪ねてきた。
「じゃあ……あなたは」
俺は彼女をまっすぐ見つめた。
「時雨のことを、どこでお聞きになったんですか?」
その瞬間。
初めて、彼女の表情から苛立ちが消えた。
俺を見上げる細い目が、わずかに鋭くなる。
「……それを、あなたに話す必要があるかしら?」




