第15話 晴渡虹介の回想 3
時雨が、いわゆる「旅」に出てからも、俺は毎日時雨に電話をかけ、メッセージを送り続けていた。
そして三日に一度は、時雨の実家を訪ねた。
「あの……時雨から、何か連絡は来てない?」
「ごめんなさい。お姉ちゃん、よっぽど旅が楽しいみたいで……私たちにさえ、何も……」
出会った頃は、まだ中学一年生だった桜花ちゃんと百花ちゃんも、今年で高校三年生になっていた。
すっかり大人びた二人の面影が、時折、時雨と重なって見える。
それが余計に、俺の胸を締めつけた。
「せめて……行き先だけでも……」
旅だなんて、嘘だ。
そんなことは、とっくに分かっていた。
だって――
桜花ちゃんも、百花ちゃんも、日に日に顔色が悪くなっていった。
明らかに泣き腫らした目で、俺の前に出てくる日さえあった。
それでも二人は、同じ嘘をつき続ける。
俺には言えない理由がある。
一体、何を隠しているんだ。
律儀に嘘をついてまで俺の相手を続けてくれる双子には、感謝していた。
それと同時に――
決して真実を明かそうとしない、この「家」に対する得体の知れない違和感と苛立ちが、日に日に募っていった。
そして――
時雨が「旅」に出て、一か月。
俺は朝から、時雨の実家の玄関先で額を地面につけていた。
その日は、朝から雨が降っていた。
時雨が「旅」に出てからというもの、雨は定期的に降るようになり、全国的な水不足は少しずつ改善されていた。
これから酷暑を迎えるこの国にとって、この雨はまさに――
命をつなぐ、恵みの雨だった。
けれど今の俺には、その雨を喜ぶ余裕などなかった。
石畳の上に座り続けて、もう五時間は経っている。
痺れを通り越し、足の感覚はとうになくなっていた。
初夏とはいえ、降り続ける雨が少しずつ体温を奪っていく。
髪から落ちた雫が頬を伝い、顎から石畳へ落ちる。
寒い。
身体が震える。
それでも、ここを動くつもりはなかった。
時雨に何があったのか。
ただ、それだけを知りたかった。
次第に意識まで朦朧としてきた――
その時だった。
「顔を……上げなさい」
静かな声が、雨音の向こうから聞こえた。
ゆっくりと顔を上げる。
そこに立っていたのは――
時雨の父、守泰さんだった。




