サシャ救出作戦!
俺とクリスタは、水とパンを持って食堂を出た。
夜の空気は思ったより冷たく、昼間の喧騒が嘘のように静まり返っている。
「このへんかな……」
「たぶん、あの辺。昼間、走らされてた方向だった」
女子寮付近の道を進むと、すぐに見つかった。
力尽き、ぐったりと倒れているサシャの姿がそこにあった。
「……やっぱりだ」
俺は小さく息を吐く。
「サシャ……!大丈夫!?」
クリスタが駆け寄り、そっと膝に頭を乗せる。
「ほら、少しずつ飲んで。あんまり一気に飲むと苦しくなるよ」
水筒を傾けると、サシャはかすかに反応した。
「……パン……?」
「パンはあとだ。まず水だ」
背中を軽く叩くと、苦しそうに咳き込みながらも、ゆっくりと水を飲み始める。
――その時だった。
草を踏む音とともに、闇の中から人影が現れた。
「何やってんだ、お前ら」
低く、ぶっきらぼうな声。
月明かりに照らされたのは、黒髪の少女だった。
「……誰?」
クリスタが警戒しながら問いかける。
「あたしはユミル」
「べレスだ」
俺は短く名を名乗る。
「……クリスタ・レンズです。」
クリスタも名を名乗った
各々名を告げたあと、ユミルの視線はサシャへと落ちた。
「で、そいつは?」
「同じ訓練兵だ。サシャっていう」
「へぇ……」
じっと観察するように見下ろす。
「ずいぶん派手にいってるな。使い物にならなさそうな顔だ」
「……でも、放っておけなかったから」
クリスタは申し訳なさそうに、それでもまっすぐにそう言った。
ユミルは一瞬だけ目を細める。
「ま、お前がそう言うならな」
そして、ふっと口元を歪めた。
「……今のうちに恩でも売っときゃ、あとで何かと便利かもしれねえし」
(ユミル……それ言う?)
だが、サシャはぼんやりと目を開け、間の抜けた声を出した。
「うぅ……にんじんが……逃げていきました……」
「夢の中でまで食い物追っかけてんのかよ」
「……運ぼう。女子寮まで」
クリスタが言う。
「俺が途中まで背負うよ」
そう言って、サシャを背負い直した。
思ったよりも軽い。
「にんじん……パンも……」
「だから、あとで食わせてあげるから」
「ほ、ほんとですか……?」
「俺嘘つかないよ...」
それでも少しだけ、サシャの声に力が戻っていた。
「よし、行こう!」
こうして、俺とクリスタ、そしてユミルの三人で女子寮へ向かって歩き出す。
夜道の途中、クリスタが小さな声で言った。
「……ありがとう、べレス。一緒に来てくれて」
「当然でしょ。俺たちで助けに行くって話だったし。」
「……うん」
たったそれだけの会話なのに、空気が少しだけ柔らぐ。
やがて、女子寮の前に到着した。
窓からは、かすかな灯りが漏れている。
俺は、その手前で足を止めた。
「……ここまでだな」
「べレスは?」
「さすがに、ここから先はまずいよ。初日から変態扱いとか嫌だし。」
サシャをユミルへと引き渡す。
「ほら、あとは頼んだよ。」
「はいはい。任された」
そう言いながらも、どこか楽しそうだ。
「起きろ、芋女。ありがたく思えよ?命の恩人だぞ、あたしは」
「……うぅ……神様……?」
「違う。もっとたちの悪い存在だ」
「え?」
クリスタは少しだけ名残惜しそうに、俺を見る。
「……気をつけて帰ってね」
「ああ。また明日な。」
ほんの一瞬、目が合う。
そこにあったのは、食堂の時とは違う本物の微笑みだった。
それだけで、胸の奥が静かになる。
二人の後ろ姿を見送りながら、俺は小さく息を吐く。
「……無事でよかったな、サシャ」
闇の中、一人で踵を返す。
だが、不思議とさっきよりも――
心は、少しだけ温かかった。




