—「開拓地の二年」そして「104期訓練兵団入団」
トロスト区の仮設キャンプは、冬の初めにはすでに飢えの気配を帯びていた。
大人たちの顔色は日に日に暗くなり、子供たちの泣き声は夜になると一斉に重く響く。
その中で、べレス・アッカーマンは周囲とは異質な静けさをまとっていた。
開拓地に送られたとき、べレスはまだ十歳だった。
当然、大人たちは戦力として数えていない。
…はずだった。
「坊主、よくそんなに動けるな……」
「休め、死ぬぞ。いや、本当に」
「お前、軍に入るつもりはあるのか?」
べレスは答えられなかった。
ただ身体が、土を掘り、斧を振るい、杭を打ち、木材を運ぶ動きを覚えていた。
その技術の出処は不明のまま。
記憶にないはずの“経験”が、手足を勝手に動かす。
(……これも、俺の中に眠っていた“何か”の残骸だ)
夜になると、べレスは夢を見る。
――暗い廊下を走る音。
――血の匂い。
――背後から迫る影。
――剣を引き抜く自分。
――誰かを守るために…。
その顔は思い出せない。
しかし、自分が斬る理由だけは鮮烈に胸に残った。
(俺は……誰かを守っていたのか? それとも……敵だったのか?)
開拓地での生活は過酷だった。
だが、べレスにとっては苦痛ではない。むしろ“馴染む”という感覚すらあった。
そのせいか、彼は周囲から奇妙な目を向けられることが増えていった。
怯えではない。ただ、“異質”への警戒。
それでも、べレスの中で静かに育つものがあった。
――戦う感覚。
――殺す覚悟。
――生きるを選ぶ本能。
そして二年後。
開拓地の過酷な生活で身体は鍛えられ、心は鋼のように研ぎ澄まされていった。
ある朝、べレスは仮設住宅の一角で木剣を振るいながらふと思った。
(そろそろ、行く時か)
「おい、べレス。本当に行くのか?」
開拓地で世話を焼いてくれていた中年の男が、深い皺を刻んだ顔で問いかけた。
彼はべレスを息子のように扱ってくれた唯一の大人だった。
「ああ。俺は……もっと先に行かなきゃいけない気がする」
「気がする、か。お前の“気がする”は妙に当たるから信用できるな」
男は煙草をもみ消しながら、寂しそうに笑った。
「お前ならきっと軍で出世する。いや……多分、もっと特別な何かになる」
べレスは答えられなかった。
予感は確かにあった。
ただ、それが“善”なのか“悪”なのか、自分でも判断がつかなかった。
彼の胸の奥にはいつも、冷たい刃のような感覚がある。
それは今も変わらず、静かに疼いている。
(俺が何者かなんて、まだ分からない。
だけど……いつか“あの日の声”の正体を突き止めなきゃならない)
そう思った瞬間――
ふいに脳裏を過った断片。
――“立て。使命を果たせ。”
――“アッカーマンは従うために生きる。”
――“お前はその刃だ。”
べレスは息を呑んだ。
だが次の瞬間には断片は消え、開拓地の冷たい風だけが残る。
(アッカーマン……?)
自分の姓を呟く。
だが答えは風にさらわれていく。
◆
そして、12歳の春。
べレスは調査兵団・駐屯兵団・憲兵団の候補兵を養成する――
『第104期訓練兵団』
へ入団することになった。
入団式の広場。
ざわざわとした空気。
数多の少年少女たちの緊張。
その中でべレスはただ一人、妙な既視感を覚えていた。
(この場所……知っている? いや、違う。
“こんな場所で、仲間と立っていた気がする”)
記憶ではない。
感覚だけが、過去を知っていると言っていた。
そこへ、
「おい、そこの白髪の奴。なんでそんなに落ち着いてんだ?」
甲高い声。
振り返ると、坊主頭少年が立っていた。
これからの彼にとってかけがえのない仲間となるうちの一人、コニーだ。
べレスは軽く肩をすくめた。
「……別に。ただ、こういう場所は……慣れてる気がする」
「慣れてる? 何にだよ、訓練兵にか?」
「……いや」
その瞬間、べレスの視界の奥で刃の閃光がよぎった。
“戦場”だ。
コニーはぽかんと口を開けて、
「なんだよそれ、意味わかんねー……」
と笑って離れていった。
べレスは空を見上げた。
雲の切れ間からの光が、やけに鋭く胸を刺す。
(……ここで、何かが始まる)
エレン、ミカサ、アルミン、そして他の仲間たち。
彼らとの出会いが、この“謎の記憶”とどう関わるのかはまだ分からない。
だが一つだけ確信があった。
――べレス・アッカーマンの物語は、ここから本格的に動き出す。
べレス・アッカーマン(847年次のデータ)
身長175センチ
体重70キロ(全身筋肉バキバキ(前世の影響))
血液型O型
髪の色 白銀
目の色 水色
誕生日 7月3日
年齢 12歳




