修練の後の女子会、男子会の恋バナ
ユーリアは修練場へ戻るとまずは結界により拘束されているエルノの元へと向かった。
「娘よ。待っていたぞ! 僕をこんなところに閉じ込めて……」
エルノはあぐらをかいて少し不機嫌そうな顔だ。
「お父様がコソコソ話はダメだっていうからでしょ? でもまあ、収穫はあったよ。」
「あー、もういいから拘束といて……ユーたん甘えさせて、一人で周りから笑われるのなんて耐えられない」
周りを見ればオイゲンとゲラルドが、二人で笑っていた。
「もっと時間がかかると思ったら、案外早かったな」
「テディが送ってくれたから」
「テディ?」
「ユーリアの護衛の魔獣の中で1番底知れない奴だよ」
エルノの声にゲラルドがうずうずしているのがわかる。
魔獣同士の戦いを見た後でも闘争心はあるようだ。
一方の魔獣はというと、フェリクスはイーヴァルと、ニノンはもはや魔法を使い始めティナとベネディクトと戦い、マノンはガストンとアネットと対峙している。
ゲル婆の護衛もルーカス、シェルトと対峙中だった。
「みんな、よくやるね……」
ユーリアが声を出せば、ゲラルドが笑う。
「ギーとかいうゲル婆の護衛とやり合ったが、なかなかの腕前だな……。全く歯が立たなかった。
どれだけガードが固いんだか……」
「俺もフェリクスという若造に申しこんだが、あっという間に剣を弾かれたよ。この界隈では腕が立つと思っていたが、まだまだだったようだな」
オイゲンも自分の力を下方修正したようで、これから鍛錬に励むそうだ。
「ユーたん。出してよ……。僕もフェリクス君とやり合いたい!」
「もー分かったわよ」
ユーリアが結界を解けば、エルノは抱きついてくる。
「ユーたん怪我はない? ゲル婆になんて言われたの?」
過保護ぶりを披露しているエルノを尻目に、ユーリアは淡々と答える。
「簡単に言うなら秘密癖は良くないって事かな……。後は皆鍛錬しとくようにって感じ……」
「ゲル婆は何かに追われてる感じだった。でなければ、5つの神器の話までしないだろうね」
「そうだな。俺は神器なんて空想の物で、実際にあるとは思わなかったが、ゲル婆が話すって事は実際にあるって事だよな……」
「つまりは神話は本当の話で、魔獣たちとやり合う日が来るって事か……」
「そこまでは分からないけど……そうか、魔獣で特訓しちゃえばいいんだ!」
ユーリアの突飛な発想に保護者3人は唖然としている。
「ここはゲル婆が近いからゲル婆の護衛の人に時々来てもらって……。うちの学園はテディとフェリクスが講師になってもらって……後はそれぞれの国でゲル婆に見繕ってもらおう!
ルーカス先生の所に行ってくる」
「待ちなさい。ユーリア!」
エルノの声は届かず、ユーリアはルーカスのところに行くと何を突飛なと怒られる。
しかし、魔獣という手練れを相手にできる事はルーカスにとって有益であるようで、考えておくと言われた。
保護者2人は頭を抱えて、ゲラルドは乗り気のようだった。
魔獣たちとの手合わせを存分にした生徒たちは満足して宿舎に戻ったのである。
*
「あーフェリクス様に癒されたわ」
ベットで寝転ぶのはティナである。
風呂上りの女性陣は4人部屋で話に花を咲かせ始める。
「そんな事言ってるとベネディクトに嫉妬されるよ……」
ユーリアの言葉にティナは顔を赤くさせ、枕に顔を押し付けた。
「ふふふ、確かになかなかに手強い相手でしたわね。マノンちゃんもあんなに小さいのに素早い動きでなかなか打ち込めませんでしたわ」
「そう言えば、アネットはどうなのよ! 私はばっかりじゃないでしょうユーリア? いじるならそこよ!」
ティナの言う通り、マノンと対峙するガストンとアネットはなかなかに息が合っていて、お似合いなのではないかと感じた。
「どうとはなんでしょう?」
「待って、アネットはもしや……」
「初恋とかしたことあるの?」
「は、初恋?」
アネットは顔を真っ赤にさせる。今まで剣が恋人だったアネットにとって恋とは無縁のようだ。
前途多難な恋をガストンはしていると2人は頷きあう。
「ガストン先輩と息が合ってて良かったじゃない?
それにアネットより強いんでしょ?
そばにいればお互いを高め合えるんじゃない?」
「アネットはさー。この人といると安心するとか、そばにいたいとか思ったことない? ガストン先輩とかに……」
「確かにガストン先輩との攻防は安心して背中を預けられますし……。もう少しガストン先輩とマノンちゃんと鍛錬したかったというのは事実ですが……。それが恋なのですか?」
顔を真っ赤にさせるアネットを面白がり、ティナとユーリアはガストンの手助けをする。
「背中を預けるのが、ガストン先輩だから安心できたってことだと思うけど、アネットに自覚なしか……」
「ユーリア、アネットには恋というものを教えていかなきゃね……」
「うん。私の恋について語ろう。失恋したけど……」
「お、とうとう乗り越えましたな……。ユーリア殿。」
「分かります? ティナ殿……。私は人に恋するのではなくお金に恋するのじゃー。」
「あの、恋は人にするものでは?」
恋愛初心者のアネットに突っ込まれたことで、ティナにクスクスと笑われると、ユーリアはぷんと頬を膨らませる。
「アネットの場合は剣と同じように信頼できると思った男なんだろうね……。私は違う。理想の王子様と結ばれてはいけないと思った今、愛せるのは金だけなの」
「はいはい、休養期間中ね……。まあそれはそれでいいと思うわ。では、失恋を乗り越える一歩をどうぞどうぞ……」
ユーリアはティナに促されるまま、初対面から一目惚れで魔法の制御、諜報活動の師であることを語った。
その間に別の人が婚約者だと思って悲しい思いをしたり、歯止めが効かなくなって学園に来てしまったり、結局自分の秘密を言えないと分かり別れを決意した事を教えた。
「やっぱり、学園に来たのは男絡みじゃない。
ユーリアの思い込みは激しいよね……。好きなら少しの秘密くらい漏れても大丈夫じゃない。
確かにユーリアが秘密を抱えて墓場まで持ち込むことはできないと思うけど……」
「お互い好き合っていても結ばれないこともあるんですね……」
「そうよ。アネット。私の場合は背中を預けられないと思ったの。追うばかりでは私が身が持たないもの……」
3人で遠い目をして、時間が過ぎる。重くなった雰囲気を軽くするためユーリアはティナに質問する。
「それでティナはいつからベネディクトの事が好きになったわけ?」
「それはその……もーユーリアないじわる」
ティナの枕が飛んできて応戦したりと、楽しい時間が流れた。
*
一方の男部屋ではコソコソとユーリアたちの話をしていた。
「アネットと俺の息ピッタリだったと思わない?」
「よかったね。ガストン。ここに来た甲斐があったね。僕は急にユーリアちゃんロスだよ。エルノさんがイチャイチャしていて全く入る隙がない」
「あー、確かにエルノさん事あるごとにユーリアに抱きついてますもんね」
ベネディクトがイーヴァルの話には乗ってくる。
「そうなんだよ。ね、シェルト……僕たち絶対牽制されてるよね」
「ああ」
「え、待って……イーヴァルはともかくシェルトってユーリア狙いなのか?おいおい、それで喧嘩したってわけじゃないんだよなー?」
ガストンはシェルトに睨まれる。ユーリアの取り合いも若干だが前回の喧嘩には含まれていたからだ。
ガストンもその鋭い目つきに「マジかよ……」と手で顔を覆うと、一人ニヤニヤとし始める。
「シェルトが女を好きになるとは思わなかったな……。イーヴァルはチャラチャラといつも恋してるようなもんだけど、シェルトは女に興味がないのかと思ってたよ」
「それだけユーリアちゃんがシェルトの心に潜り込んでるって事だよ!」
「そうかそうか、シェルトも一皮剥けたのか。いい事じゃないか」
「はあ、別に好きとは言っていない。ただゲルトルーデ様の話が気になっていたのだ。ユーリアには私かルーカス先生でなければ支えられないと言っていた……」
「ああ、あの話な……なんでだろうな?」
「そうだよね。でもシェルト何かゲル婆にこっそり言われていたじゃない。あれはなんて言われてたんだい?」
シェルトは耳まで真っ赤になると振り返っていた体を机に戻して書き物を再開した。
「別になんでもない」
「お、これは何かあったな……。なんて言われたんだか……」
「これは教えてくれない時の行動だね……」
そこでベネディクトが挙手をして発言をする。
「あの、盛り上がっているところあれなんですけど、ユーリアの婚約者候補にルーカス先生が上がっているって知っていましたか?」
「「何!?」」
ベネディクトはティナと庭園に行っている時に、たまたまニノンとマノンがエルノを質問攻めにしている内容を聞いてしまったのだ。
「というわけで、エルノさんはルーカス先生にユーリアを支えてもらいたいみたいです。」
「まあ、そうだよね。シェルトだったら突飛な事したらただ叱るだけだろうけど、ルーカス先生ならまた別の対応ができそうだもんね……」
「一緒に突っ走るとかか?」
「確かに……。でも僕が候補に入らないのは釈然としないな……」
「お前はどうせお気に入りの一つなんだろ? わざわざ競争率高い所に行くより、低い所に行けばいいだろ?」
ガストンの一言にイーヴァルは優しい笑顔を向けた。その笑顔の意味が分かったのか、ガストンは身震いする。
「そっか、僕はそうだよね……。誰とでもお付き合いできちゃうもん。アネットちゃんの黒髪綺麗だよね……。あの剣先のように鋭い心をほぐした時に、どんな可愛い顔を見せてくれるか楽しみだなー」
「やめてくれ、イーヴァル。俺が悪かった……」
「ガストンが悪いな……。にしてもエルノさんがそう考えているとはな。だが、ルーカス先生が5年なのに対してこちらは2年か……」
「卒業までに振り向かせてみなきゃだね……」
イーヴァルとシェルトが意気投合し、ガストンをその後は苛め倒すのをベネディクトは胃をキリキリさせながら見ているのであった。




