ユーリアの想いとルーカスの決意
3日目も修練場でユーリアのお供たちと人々は鍛錬していた。
そんな中ユーリアは一人の少女から声をかけられる。
「ねえ、お姉さん。あなたはあの赤髪の王子様のご主人様なんでしょう?」
話しかけてくるのはガストンの妹だった。
「カーリンちゃん。王子様かー。確かにフェリクスはかっこいいもんね!」
ユーリアの言葉にカーリンは深く頷く。どうやらフェリクスの物腰と強さに憧れを持っているようだ。
彼女の瞳は恋する乙女そのものである。
「どうしたら、ご主人様であるお姉ちゃんは私を認めてくれるの?」
10歳前後の子供に問われ、ユーリアはたじたじになっていると、エルノがそばにくる。
「話は聞いていたけど、それはお姉ちゃんが認める事じゃないよ。
種族の壁を越えてお互いが分かり合えば、その時は結ばれるんじゃないかな?」
「おいおい、エルノ俺の娘に変なこと吹き込むな……。カーリンいいか。アイツは魔獣なんだ。諦めろ。
頼むユーリアちゃん。一度フェリクスの魔獣の姿を見せてやってくれないか?」
失恋の傷は浅い方がいいとオイゲンが言うので、鍛錬中だったフェリクスを呼び魔獣型をとらせる。
「うわ、王子様が鳥になった……なんて綺麗なんでしょう」
「オイゲン、逆効果だった……」
「ああ、うちの娘の強さに驚いているよ」
エルノとオイゲンが諦めている中、ユーリアはフェリクスに尋ねた。
「ねえ、フェリクス。人間と恋仲になるって考えられる?」
「な、何を急に……。以前も言いましたが、自分にふさわしい魔力量や力持っていれば番いとして選ぶことは、あり得るかと思います。」
フェリクスは魔獣型のため表情は読み取れないが、相当動揺していたようだ。声が上ずっていた。
そんなフェリクスを見つめるカーリンは、ユーリアの手を取る。
「お姉ちゃん、パパより強いよね……。特訓して!」
ユーリアはオイゲンたちを見て助けを求める。
「あのなあ、カーリン魔獣に匹敵する力なんて得られるわけないだろう?」
「このお姉ちゃん強かったよ?」
「あれだって魔獣たちは本気ではないらしい。な、頼むから普通に鍛錬してくれ……」
「女は男のために自分を磨くって友達が言ってた」
ませた子供の話にユーリアたちはため息をつき、恐らく違う意味であろう話を否定せずに、ユーリアはとりあえず今日一日面倒をみることにした。
「オイゲンさんとりあえず今日一日様子を見てみます」
「おお」
「フェリクスは罪深き男だー!」
「あなたに言われたくありません!」
ユーリアとフェリクスが言い合っていると、カーリンがユーリアの手を握ってくる。
嫉妬かなと思い、ユーリアは笑顔を向けるとご褒美を出す提案をした。
「じゃあ、今日一日頑張ったら、フェリクスの背中に乗せてもらってお空の旅をしようか?」
「うん」
フェリクスは人型に戻ると不安そうな顔を見せるが、今日は女性陣は午後からは温泉に日帰りで行く予定なのだ。その際に1人増えるのは別に問題ないであろう。
「よし、じゃあまずは魔力の流れから理解してもらおう」
ユーリアは午前中の大半を魔力の流れを意識した舞の稽古をした。
そして、温泉へと向かう。
「頑張ったね! では温泉へ行こー!!」
*
フェリクス、ニノンマノンに魔獣型になってもらい、ユーリアとカーリンはフェリクスの背にニノンとマノンの背にティナとアネットが座った。
「王子様フワフワ」
カーリンはフェリクスの羽毛を撫でている。
「あの飛んでいる時に触れられると、くすぐったくて気が散ります」
寡黙なフェリクスが苦言すると言うことは、よっぽど、くすぐったかったのだろう。
その後カーリンは大人しく背中に乗っていた。
空の旅はすぐに終わり、フェリクス、ニノンマノンは旅館の外で待機だ。
「あー、王子様と一緒に温泉に浸かりたかった……」
カーリンの言葉に思わず、吹いてしまう3人だったが、よく考えれば魔獣型で入りたいと思ってるのであろう。
「たぶんね、あまりフェリクスは湯に浸かるって事はしないわよ。どちらかというと苦手なんだと思う。」
「そうなんですか? フェリクス様の赤髪が濡れるとどのような表情を見せるか楽しみだったのですが……」
今時の10歳はませていた。3人は顔を見合わせて、まだ子供だからだよね……と目で会話した。
「フェリクスのどこが好きなの?」
「あの紳士な対応です。主人に仕える低姿勢な物腰と相反した攻めの優美な動き、心がキュンとなりました」
「分かる。見た目だけじゃなく、普段は誠実さや謙虚さが滲み出ているのに、剣を持つとキリッとした表情に変わって……」
ティナとカーリンが意気投合してフェリクスの話をし始めたのでアネットと話を始める。
「なんか、フェリクスってモテるんだね……」
「魔獣の方々は強さもさながら、見目もお美しいですからね……人々を引き込んでしまうのでしょう」
「そういうもんなのかなー。私は近すぎて恋愛対象とかに見てないから分からないや」
「そうですね……。近すぎると分からないものですよね……」
アネットの含んだ物言いにユーリアはピンときた。
「アネットまさか!」
「いえ、ユーリアの話ですわ。大切な方は意外と近くにいると私は思うのです」
「何を急に……」
「ユーリアあなたはルーカス先生と教師と生徒という間柄でいいの?」
「へ?」
あまりに唐突な問いに、ユーリアは固まってしまう。
「この前ヴィオラ先生と温泉に浸かっている時に聞いてしまったのです。エルノさんとルーカス先生が話している事を……」
「え? それがなんで……」
「私にとって伴侶とは剣のように命を預けれる殿方です。ユーリアにとっては共に秘密を抱えてくれる存在なのでは?」
アネットの言葉に思わず沈黙してしまう。確かに失恋を通して感じたのは、伴侶にするなら秘密を共有してもいいと思える相手だ。
だからテディでもいいかと冗談で言っていたのだ。
「アネットの言う通り、もし伴侶となるなら懐の広くて温厚な人がいいと思ってはいたけど……」
「それってユーリアにとってルーカス先生ではないかしら?」
「確かにね……。2人でいろいろと秘密抱えてそうだし、ルーカス先生と話してる時ユーリア自然体だもんね……」
「え、ティナまで……」
「ルーカス先生ってあの若手のイケメンな教師ですよね……。お似合いかと思います。」
ティナにカーリンまで話に入ってくる。ユーリアは頭が混乱して湯船の中を逃げる。
「こらこら、ユーリア話はまだ終わってないよ」
岩に追い込まれ、ユーリアは観念する。
「私、ルーカス先生のこと男だなんて思った事ないよ! 教師としてしか見てないし!」
「これからのユーリアの見る目で変わってくるわ……。それよりルーカス先生に私たちにも言えない秘密話せるの?」
アネットが切ない目でこちらを見てくる。ユーリアは首を横に振る。
「無理だよ。私はもうこれ以上何も話す事はない」
「全く、相変わらず嘘が下手すぎ!」
ティナにバシャっとお湯をかけられ、ユーリアは顔を拭う。
「私たちから言わせるとルーカス先生なら言えるんじゃない? 最初に秘密をバラしたのもルーカス先生でしょ?」
「あれは仕方なしに……」
「でもバラすって決めたのはユーリアだよ」
「……ていうか、ルーカス先生こそ私のこと生徒としか見てないよ!」
「後5年で振り向かせればいいのです」
「最悪の展開として、その憎たらしい豊満なボディで色仕掛けでいいじゃない!」
またお湯をかけられ、ユーリアもお湯をかけ返す。
皆でバシャバシャと掛け合い一言アネットが言葉を発した。
「秘密を抱えるという事は辛いのでしょう。ゲルおばあ様からお話を聞いていて感じました。誰でもいいのです。
伴侶でなくても教師としてでも……。
ユーリアの身が少しでも軽くなる事を私たちは祈っているのです」
「みんなー! ルーカス先生が伴侶とかはあり得ないけど、ありがとう心配してくれて!」
ユーリアは抱きつく、カーリンも混ぜてだ。
「お姉ちゃん、秘密はよくないよ! ちゃんと言ってくれなきゃ周りが心配になっちゃう」
「うん。カーリンちゃんもありがとう。言えるようになったら皆に言うね……」
ユーリアが泣きながら、皆と親睦を図っていると、朝からいなかった2人が温泉に入っていた。
*
「おい、兄ちゃんフラれたなー」
「……。」
ゲラルドとルーカスだ。組み合わせ的に不思議だが、たまたまここの男湯で会ったのだ。
ユーリアたちが露天風呂でキャッキャと騒いでいたため男湯に筒抜けだ。
「何か悩むことあったんだろ……。一人でここに来るなんて……」
「いえ、迷いは断ち切ります」
「若いっていうのはいいねー。ま、頑張れや……。俺も悩むのやめだ」
ゲラルドは豪快にざぶんと湯船から立ち上がると、温泉を出て行く。
「兄ちゃん強くなれよ! また手合わせしよう」
「はい」
ルーカスはゲラルドを見送ると、湯船につかり込む。
「俺はないのか……。まあ、いい俺も教師として動くまでだ……」
悩み続けるルーカスの心が決まった。
*
ユーリアたちは温泉から出るとお土産をもらってフェリクスたちに乗って修練場まで戻った。
夕飯を食べている時にティナたちにゲル婆が旅館に預けてくれていた甘酒を飲ませたが、風味が独特であるからか不評だった。
そして、風呂上がりにティナたちと食堂を覗けば、そこにルーカスがいた。
カーリンが何故かゲル婆のお土産をこっそり持ってきて、食堂の食器は自由に使っていいと言ってくれた。
ティナたちとニヤニヤと先に部屋に戻った。
今日はここに滞在できる最終日なのでカーリンも四人部屋で女子会をする予定だったのだ。




