ニノンとマノンの運動
「ユーリア、さっきの舞綺麗だったよー!」
ティナは魔法の練習を一時やめて休息中だ。フェリクスとニノンマノンもそばにいる。
「フェリクス様もカッコよかったわ……。笛を吹く姿……。」
うっとりとフェリクスを見つめるティナに、ベネディクトはムスッとした顔をして近づいてきた。
「フェリクスさんお願いだ。手合わせしてくれ!」
フェリクスがその申し入れに悩んでいると、ユーリアは剣を出してフェリクスに渡す。
「フェリクス剣も使えたでしょう。少し打ち合いしてあげて? ね?」
フェリクスは剣を受け取ると、しぶしぶベネディクトと打ち合いを始めた。
ニノンとマノンも反応してユーリアに縋り付いて来る。
「ニノンもやりたい!」
「マノンも……」
ユーリアは二人の頭を撫でてやると諭すように言う。
「二人はまだ出力加減できないでしょ? 周りの人に迷惑かけるから……」
「じゃあ魔法使わない」
「物理攻撃だけ。ユーリアなら大丈夫でしょ?」
二人から目をうるませて迫られれば、ユーリアは断れない。
「ティナごめん。少しだけ動いて来る」
ティナは頷くとユーリアは立ち上がり、二人を連れて修練場のフィールドに立つ。
「ニノン、マノン。やるよー!」
「うん。ユーリア」
「ユーリア、久々に張り切っちゃうよー!」
二人はぶるぶるっと身震いすると、動き始める。
ニノンはパワータイプで重い蹴りを喰らわしてきて、マノンはスピードタイプだ。
ユーリアはニノンと対峙して蹴りを交わしていき、素早く動き回るマノンの時よりくる攻撃を防御する。
「お前の娘とあの小さいのちと動きが別格じゃないか?」
いつの間にかに本気の動きになってきていたユーリアと二人は、周囲の人から見れば異端だ。
「僕もあんなに動けるユーリア初めて見た……。あの子は今まで実力を隠していたのか……」
「おいおい、ありゃー化け物だぞ……。エルノよりスピードあるんじゃないか?」
ゲラルド、エルノ、オイゲンの3人は呆けており、学園の面々は頭を抱えている。
皆心の中で『隠すことができないのか』とツッコミを入れたい気持ちである。
そんな空気を読んでフェリクスが間に入ってきて3人を止める。
マノンを蹴り飛ばし、ニノンの足を掴む。
「ユーリア様そこまでです」
フェリクスが周囲を見渡せば、ユーリアはやってしまったと頭を抱えた。
*
アネットとティナがフェリクスに迫っている。
「フェリクス様はお強いのですね……。ベネディクトと手合わせをしている時も思いましたが、素晴らしい剣筋です」
「本当にカッコよかった。暴走っ娘たちを簡単に止めるなんて……」
「フェリクス、ニノンの倍強い。お家だからあまり本気出してないんだよ」
「お外での鍛錬になると本当に怖いよ」
「余計な事は言わなくていい。今日は十分に動いただろう? もう暴れないように!」
「はい」
「フェリクス分かった」
「フェリクス様やっぱりカッコいい」
ティナの言葉に、ニノンマノンのお兄ちゃん的存在であるため褒められると、ニノンマノンも嬉しいようだ。
フェリクスは照れており、少し視線をずらした。
ユーリアがそばに近づく。
「フェリクスは強いわよ。まあ、機会があったらティナもやってみれば、ティナだって室内だと出力抑えてるでしょ?」
「まあね……。けど倍以上となるとやはり上位者の魔獣には敵わないわ……」
「上位種を相手にしようとしてるのが間違ってるんだよ。本来戦わなくていい相手は放置しておくことに限るよ。」
「それはそうだろうけど……」
ティナの負けず嫌いはこんな所でも発揮されているようだ。フェリクスは魔獣でも上位の魔力を秘めている。
それを真正面から越えようとする力は、人間にないだろう。
少しだけ見たフェリクスの力に憧れだけでなく、対抗心を燃やしたティナを見て、ユーリアが微笑んでいると、後ろから声がかかる。
*
「ほう、なかなかの立ち回りじゃったのお。」
目を細めてみていたのはゲル婆だ。魔獣特有の念話で話しかけてくる。
『何やら屋敷の近くで面白い魔力を感じてみれば、お主たちか……赤の鳥の守護をする者よ。ちいと人間相手に派手にやりすぎじゃ。
遊び足りないようだしワシの従者を貸すが?』
今日は二人の従者が付き添っているようで、ゲル婆はニコニコと従者二人に命令を下す。
「ほれ、二人ともそれぞれ動いていいぞ。建物は壊してくれるなよ?」
「御意に」
フェリクスは驚いているが、ニノンマノンを見るとノリノリだ。ユーリアがため息をつくとフェリクスはユーリアの顔を覗いた。
「ユーリア様私は対戦しますか?」
「そうね、ニノンとマノンがやる気だから二人に任せておけばいいんじゃない?」
「ユーリア、相手の力量は見定めなくてはな。そこの小さい娘たちはギーが、そして、その若造はロジェ相手をしてやれ」
ギーと呼ばれる型の良いものの前にニノンとマノンが、ロジェと呼ばれる細身の初老の男にはフェリクスが対峙している。
「はじめよ」
ゲル婆の掛け声で、お互いの護衛たちが手合わせを始める。
ギーは鉄壁の守りで、ニノンとマノンの動きに対応している。
ニノンとマノンが調子づいて、攻めるスピードを上げていくが、全く動じていない。
相反する動きのギーたちに比べて、フェリクスたちの動きはしなやかさがある。
二人とも優美に剣と剣を交えれば、ニヤリとしてお互い楽しみながら相対しているように見える。
『若い護りじゃと思ったが、なかなかの腕前じゃな?』
『うちのフェリクスたちは結構強いですよ……。何せ故郷でエクトルにしごかれてますから……』
『エクトルか……懐かしいのう。もう何十年会っていない事か……』
フェリクスたちはユーリアが学園にいる間はシュペルノヴェイルのさらに南にある島で暮らしている。
そこを治めているのが、エクトルだ。
今は赤い鳥の魔獣の長といっても過言ではない。
『お母様が、お父様と出会ってからはずっとあの地を守護しているそうですからね……』
『そうだろうな……エクトルの存在は大きいだろう……何よりもあの放浪癖のあるクラウディアが一つの地に止まっていたのが、我々としては不思議じゃったからな。エルノのどこに惚れたんだか……』
『ふ、そういう事を言うとお父様がまた機嫌を悪くしてしまいますよ』
二人でニヤニヤと念話をしていれば、保護者陣がこちらにやってくる。
*
「ゲルトルーデ様お久しぶりでございます。」
「よう、ゲル婆。ゲル婆の護衛と互角にやり合っているなんてなかなかじゃないか……。それにあの動き人間離れしているぞ?」
オイゲンとゲラルドがやってくれば、エルノは一人ふくれている。
「全くゲル婆はそうやっていつも独り占めするんだから……。またクラウディアの時のように内緒話していたでしょ?」
どうやらエルノはクラウディアとゲル婆が念話で話しているのをみたことがあるらしい。二人並んで立つ姿に既視感があり、拗ねているようだ。
「また、わざわざ魔眼を使って見ておったな……。全くお主も意地悪い。」
「ゲル婆ほどじゃないですよ……。でもユーリアもゲル婆の誘いに乗らないの!」
「でも、ニノンもマノンもフェリクスもここに来てから力を使ってないから、力が有り余ってるんじゃないかと思って……」
「まあ、楽しそうにしてるけどさ……。そして、オイゲン、ゲラルド、アイツらは魔獣だ……。かなりの上位種だと思われる。思考も動きも人間そのものだが、一度他我が外れれば、力は魔獣そのものだからな……脅威の存在となる」
「確かにね……。ここ屋内だから皆力を抑えているよ……」
男の二人はゴクリと唾を飲む。人ならざぬ者達の戦いは辛うじて目で終えているが、あれと戦えるとは思わない。
神話では邪神率いる魔獣の眷属達と戦う光景が描かれているが、フィクションであるとしか考えられなかった。
「ははは。魔獣の地を犯してはいけないという意味がよく分かるよな」
「もし、魔獣が暴れれば誰が止められるんだよ……」
「やっぱり神話に出てくる勇者の末裔なんじゃないんですか?」
ユーリアの能天気な言葉に男3人はそれぞれ叱責する。
「こんな動きに相対できる人間がこの世にいると思ってるのか!」
「ユーリアは魔獣のそばにいて感覚がおかしい。こんな動きできる人間いないでしょ……」
「あれは神話だ。それにもし本当だとして、この1000年の間で子孫とやらが残っているのか分からないだろう」
ユーリアは首を傾げてとりあえず頷く。ゲル婆はその様子をみて笑っていたが、顔を引き締めてエルノ達に告げる。
「じゃが、あの神話が事実だと思った方がいいぞ……。魔獣側の話を聞いているとあながちただの作り話というわけでもなさそうだ……。備えるなら備えていた方がいいのう。
我が認めたものには神話に出てくる剣や武器を授けるという名目で、人が集められると思うか?」
「それは、武器を伝説にある魔獣達から集めるという事ですか?」
エルノの声にゲル婆は深く頷く。
「東のセイリュウからは槍を、西のビャッコからは剣を、南のスザクからは弓を、北のゲンブからは盾を、そして中央をおさめるキリンからは杖を借りようと思う。」
「ゲル婆まさか魔獣との大戦が近いうちに起こると思っているのか?」
「いや、分からぬが我の寿命があるうちに人の手に戻してみるのも良いと思った。
我でなければユーリアが育つまで魔獣に精通する者は後は出ないであろう。
そうなるとその間人間と魔獣との均衡が崩れればどうなる? 人間は一方的に駆除されるだけだぞ。」
ゲル婆が何かに追われている感じがしたユーリアはこっそり念話を使う。
『ゲル婆何か情報が入ってきているの?』
『いや、そういうわけではないが嫌な予感がするのじゃ。まだ事が起こる前にお前の助けとなる者が……』
「はい、お終い!」
ゲル婆とユーリアの間にエルノが割って入る。念話を使っているのがどうやら嫌だったらしい。
「あー、分かった。念話は使わん。ユーリア、エルノを拘束せよ!」
「えっ、待って。その命令ムリ!」
ユーリアはさっと身を動かしたゲル婆に耳打ちされ、ため息を吐くと暗器を構えた。
「お父様悪く思わないでね」
「ユーリア何を吹き込まれた? ゲル婆と何を話すつもりだ?」
「秘密」
エルノと暗器で打ち合いをし、その合間に普段とは違う動きを入れる。
「な、何?」
エルノは既視感があり、動きが鈍った。ユーリアは炎を纏いながら踊るように、エルノの動きを封じていく。
「お坊ちゃん。ふふ。まだまだね」
そっと背後に回り耳打ちすれば、エルノは動揺しかまった。その隙をユーリアは見逃さず、結界魔法を発動して拘束した。
「まだまだじゃのう」
ゲル婆は結界の中のエルノを見て笑っている。
「人の思い出をー! クラウディアから聞いたんだね!」
「さて、なんの事かのう?」
「お父様これって何?」
「ユーリアがここを出してくれたら言うよ!」
「じゃあ、ムリ。どうせ母さんとの出会いとか言いそうだし……」
ユーリアはそう言い残し、ゲル婆と修練場から出る。
「いいか、ギーにロジェ。この修練場から出て後をつけようとする者がおれば遊んでやれ!」
「ニノンも遊ぶー!」
「マノンも!」
魔獣達に命令を下し外に出て周囲に人が出なくなったところで、ユーリアは魔獣化したゲル婆の背に乗り、ゲル婆の本当の住処へと向かった。




