ガストン家の修練場の大斧の男
「よー、エルノ!」
大きな斧を持った男が話しかけてくる。
「おいおい、斧の持った男ってゲラルドの事だったの?うわー。オイゲン、コイツいるなら言ってくれよ……」
エルノが大男であるゲラルドに肩を組まれ、嫌そうな顔をしている。陽気そうでいい人に見えるが、エルノは脳筋は苦手なのであろう。
オイゲンとはガストンの父親の名前らしい。
「別に昔一緒にいた仲間だから問題ないと思っていたが……」
「一緒にいたからこそ分かるだろ……」
「女好きって点ではお前ら一緒だろ? 遊び方が違うだけで、エルノのほうが相手が悪いし……」
「そうだぜ、俺は遊びしかしねー。久々に会ったっていうのに、お、こりゃー若いがべっぴん揃いだなー! 特にこの金髪……」
ユーリアの顎に手が伸び、マジマジと顔を見つめられる。エルノがゲラルドの手をはたき落とし、暗器を首に突きつけている。
「ゲラルド、首が飛びたくなかったら、その子に手を出すな……エルノの娘だ」
ゲラルドはおっとというと数歩下がりユーリアをマジマジと見てきた。
「これがエルノの娘か……嫁さんに似てるのか? 全く似てないな。髪色だけじゃねえか」
「いやー、性格も僕似なんだよね……。魔性の女? すんごくいっぱい男連れてきた時には血を感じたよね……」
「本当にエルノは知らぬまに女が床に入ってくるような若造だったからなー。羨ましい限りだった」
「ゲラルド、娘たちの前でやめてやれ……。エルノが怒っているぞ……」
エルノは俯き、暗器をクルクルと指先で回している。ゲラルドはニヤニヤと笑うと、挑戦的に話しかけた。
「なんだ。エルノ……久々に稽古つけてやるか?」
「いいや、やめておこう。俺よりもいい相手がいっぱい来ているだろう?」
「いやー、熟練の戦いを見せてやるのもいい刺激になるぞ? そうだ。お前の初めての夜を教えてやろうか?」
エルノは何も言わずに暗器を投げつけると、そのまま蹴りを入れる。
ゲラルドは斧の柄で防ぐ。
エルノの無表情な時は本当に怒っている時だ。
「あれはしばらく続くな。ガストン他にも傭兵たちがいるからそっちと鍛錬しとけ!」
「おうよ! ほら一年生。斧のおっさんは取られちまったが、ほかの人たちんとこいこーぜ」
「ジークヴェンデルの鬼神いや今は教師か……お手合わせ願えるかな」
オイゲンがルーカスを誘い、ルーカスはそれに応える。
シェルトとイーヴァルは久々に故郷で稽古をするようだ。
二人の打ち合いが始まれば、自然とユーリアは一人になった。
*
ユーリアが一人修練城の隅で体育座りをしていれば近づいてくるものがいた。
「お姉ちゃんは修練しないの?」
ガストンの末の弟だ。上の姉弟は既にガストンたちと共にほかの大人に混じり修練を始めていた。
「アルバン君だったかな? お姉ちゃんはね、武術は向いてないからいいの。どちらかといえば医術師かな……」
「そうなんだ。僕はいつもお父さんに稽古つけてもらってるから……」
父親をルーカスに取られてしまったのだ。うずうずしているが、まだ大人と打ち合うことは出来ないのだろう。
「じゃあ、お姉ちゃんと遊ぶ?」
「うん」
ユーリアはせっかくなので、フェリクスに連絡を取ってニノンとマノンを連れて来させた。
「遊ぶ」
「アルバン踊ろー」
「ニノン、マノン人間は脆い乱暴に扱うな……」
アルバンの手を取ってダッシュしそうになるニノンマノンに叱責をする。
「ニノン、マノン。人間を乱暴に扱ってはいけない」
「大丈夫よ。フェリクス私が止めるから……」
「ニノンとマノンは人間の脆さを分かっていませんから、戦いにだけはならないようにお願いします」
「分かってるわ」
ユーリアはマノンのリクエスト通り武舞をアルバン達に教える。
木剣を手に突きや薙ぐ姿を取り入れており、基本の型を網羅しているのだ。
姿勢や体の重心の移動など、基礎の訓練としては有効である。
ある程度練習すれば、オイゲンがしっかり基礎を教えていたからか、だいぶ様になってきている。
「アルバン上達が早いわ。きっと腕も良いのね。お兄ちゃんのこと追い抜いちゃうんじゃない?」
ガストンを見れば、見知らぬ男と打ち合いをしている。
「お兄ちゃんは優秀なんだ。だから僕なんてまだまだなんだよ」
剣を見つめる男の子に自分の弟を重ねて、ユーリアは思いっきり抱きつき頭を撫でる。
「アルバン君のその謙虚さがいい。うちの弟もこんなに可愛ければ、毎日でも遊んであげるのに……」
「弟がいるの?」
「うん。もうすぐ6歳かな。」
「僕の一つ上なんだね。僕は5歳になったばっかりなんだ!」
ユーリアがハグをしているとニノンマノンもそばに寄ってきて、甘えて来る。
「ギュー」
「ユーリア私たちもギューして」
「はいはい、じゃあみんなでギューとしましょう」
ユーリアが保育園の状況になって来ると、ルーカスが汗を垂らしてこちらに来る。
手合わせが一通り終わったようである。
「なんだ、ここは初等部の集まりか?」
「ルーカス先生、ガストン先輩の弟が可愛すぎてもうダメです。私は落ちました。アルバン君だーいすき!」
ユーリアがアルバンを抱き寄せおでこにキスをすれば、アルバンの顔が火を吹くように真っ赤になった。照れて可愛い。
「お、アルバン年上のお姉ちゃんからキスされるとはなかなかのモテ男じゃないか。武舞見ていたが、なかなかのものだったぞ。それを教えられるユーリアちゃんのも見てみたいがな……」
オイゲンはそういうと木剣ではなく、剣を渡そうとするが、ユーリアは首を横に振り、ウエストポーチからブローチを出すと、炎の剣を展開させ、一呼吸置くと舞を舞い始めた。
「お、久しぶりにユーリアの舞見たー!」
ゲラルドを放置してエルノがこちらに来れば、ユーリアが舞に集中している間にたくさんの人に囲まれていた。
炎の剣は剣の振りに合わせて赤い光を線のように残していく。
時々漏れる火がまた綺麗な情景を作り出していた。
「この舞ははじめてみた……」
「私舞ってるの初めてみたんだけど、ルーカス先生は見たことあるんだ。へー」
「……」
ルーカスの呟きにティナが反応して、フェリクスは笛で曲を奏でてくれた。
ユーリアの舞がおわれば周囲から拍手が出た。一礼して剣をブローチに戻すと、ゲラルドがユーリアに握手を求めてきた。
*
「いやー、いいもの見させてもらった」
ユーリアは引きつった笑顔で握手に応じて手を出せば、手を引かれ担がれた。
「よーし、気に入ったぞ、次の相手はお前だ。あれだけ舞えれば相当筋もいいだろう」
「待って私アルバンと……」
小荷物のように担がれ、置かれればゲラルドは斧を構えて振り落として来る。
ユーリアは暗器を出し、その斧をいなして地面へと押し付ける。しかし、地面に刺さった斧を素早く持ち上げる。
「ほう、これはなかなか。筋がいいな。エルノの動きと似ているが、下手したらエルノより無駄がない」
「そんな事ないさー。僕だって冷静になれば……」
「その時点で娘っ子に負けてる」
「まあ、いっかー。我が家の娘は強いから。
それはそうとゲラルドが戦うべき相手が残っているよ」
エルノの指す方向にはルーカスが立っていた。ルーカスは強者と相手ができるとニヤリと笑う。
「あれ、鍛えてよ。ユーリアの通ってる学園の教師で、後5年は少なくとも守ってもらわなきゃだからね」
エルノがにっこり笑うとルーカスは頷き鞘から剣を抜きこちらにやってきた。
「お、こっちの兄ちゃんはやる気か……。いいぜ。やってやろう、」
斧と剣の応酬が始まる。ユーリアは戦わなくて済んだとアルバン達の元へ戻ると、アルバンはエルノと組み手を始めていた。
「ユーたん大丈夫。アルバンの相手はするよ。ジェルジュよりもいい動きをするよ。全く……」
ジェルジュは真剣に稽古をやらないそうだ。エルノと共に我が家の跡取りにため息をつきつつ、修練場の壁にもたれて座ると、次から次へと猛者から打ち合いの相手にと声がかかるが、ユーリアはそれを笑って断った。
同級生や先輩たちが代わりにどんどん対戦相手を決めて打ち合い始める。




