ガストン家 エルノの紳士ぶり
まったりと大部屋で過ごしていれば、ゲル婆に聞かなくてはならない話を忘れていた。
今、テディとフェリクスがゲル婆と面会の予約を取っていたところだったのだ。
同郷の話などをされて1番大事な話をする事を忘れた。
ユーリアが1人で慌てていると、ベティーナがその様子に気付いた。
「ユーリアどうしたの先程から一人慌ててるみたいだけれども……」
「ベティーナ先輩私今回の旅路、ゲルおばあ様にお伺いしたい事があって来たのですが、いろいろあって聞き忘れてしまいました。」
ユーリアの困った顔に「まあ」とベティーナは驚いて見せた。
「シェルトどうにかならないかしら?」
「本邸に行けば会えるかもしれないが、いるかどうか……」
「一応今テディとフェリクスが向かっているはずなのですが……」
『ユーリア様、ゲンブは?』
久々の念話がペンダントから流れる。
『ごめん。ここにいたんだけど、皆がいるし聞きそびれちゃった……』
『そうですか……。とりあえず言伝は残したので今から帰ります』
テディとの念話が終わると、ユーリアは益々暗い顔になった。
「言伝だけ残したみたい。ゲルおばあ様がお聞きになれば、こちらに何かしらご連絡くださると思うんだけど……」
ユーリアのため息にイーヴァルが話しかけてくる。
「なら、ガストンのうちにお邪魔しようよー! 修練所も近いし、ゲルおばあちゃんのうちにも近いよ!」
「ガストン先輩がいいならいいけど……」
「実家にアネットを連れてけるチャンスだ。問題ないだろう?」
シェルトがニヤニヤとするとガストンが頷く。
「俺の実家見たら間違いなく俺の株上がるよな? よし、明日行こう! たぶんこのくらいの人数ならなんとかなる。」
現在、アネットはユーリアに勧められてニノンマノン、ヴィオラと共に露天風呂に行っている。浴衣の着方も教えたので大丈夫であろう。
ちなみにティナとベネディクトは庭に行って出ていた。
「ベティーナ先輩、ティナたちうまく行っていると思いません?」
「そうね、なかなかうまく行ってるんじゃない? 何かもう一押しって感じよね。」
二人で女子トークに花を咲かせていれば、エルノと共にニノンマノンがひっついてきている。
「エルノは認めた?」
「主人のご主人?」
「あーもうまずいのに聞かれてた……。この子達気配感じないから厄介だよ。ユーリア口止めして……」
ユーリアは首を傾げ、二人でエルノに何か聞いているようなので、とりあえずそれを止めてあげた。
「ニノン、マノン。シーだよ。お父様が困っているから……」
ニノンとマノンはユーリアの真似をすると、シーと人差し指を口に当て顔を見合わせて、浴衣で走りまくる。終いにはガストンに体当たりしていく。
ガストンは小さい子供の面倒見がいいようで追いかけっこが始まった。
「ドッシーン」
「バッシーン」
ガストンが逃げる役でニノンとマノンに追いかけられている。二人はガストンにチョップを当てるべく走り続けている。
その後に戻ってきたのはアネットとヴィオラだ。アネットに関しては目を合わせてくれない。何があったのかと首を傾げているとヴィオラが耳元で話しかける。
「あなたルーカスの事どう思っているの?」
「ルーカス?」とユーリアはその質問に対して疑問に思うが、一応答える。
「浮名がたくさんある女好きで最低な人間ですが、熱血で生徒を守ってくれるいい先生だとは思っています。」
「あら、そう。ならいいかしら……」
「一体なんの確認ですか?」
「単なる事実確認よ。」
そう言うとヴィオラはサラッと話題を変える。
「ベティーナ悪いけど調べたいことができたわ。一緒に明日来てくれないかしら?」
「ええ、ご一緒しますわ。」
「エルノ悪いんだけど、魔獣お貸ししてくださらない?」
エルノは仕方ないなと言いながら二体の魔獣を貸すことを約束してくれる。
帰りはテディとフェリクスで数人運べるだろう。
ルーカスとティナ、ベネディクトが帰ってくると、二人は赤面し、ルーカスは気まずい顔で戻ってきた。
ベティーナと顔を見合わせてニヤニヤとする。
ユーリアはティナにこそっと耳打ちする。
「おめでとう、ティナ」
「えっ、えっ、えー!」
ティナの大声に皆反応して振り返ってくる。
ユーリアはこっそり「今日の夜聞くね」と言って、ティナは顔を赤面させたまま、その場に蹲るのであった。
*
次の日まずまずの収穫があったユーリアは、ガストン家に向かっていた。
ベティーナとヴィオラ、テディが護衛として二人に着いて旅立った。
テディはどうしてもゲル婆には会いたくないらしい。
ユーリアの護衛にはフェリクスとニノン、マノンがつく事となるが、テディから言わせるとゲル婆のお膝元で暴れるような輩はいないとの事だ。
計8名でガストン家にお世話になることとなった。
「よお、親父戻ったぞ!」
ガストンの家に行くのかと思えば、先に修練場へと移動した。
「今日から2日間くらい泊まるからよろしく。下宿部屋空いてるだろう?」
「ああ。空いてる部屋は母さんに聞け……」
素振りをしている屈強な男がガストンの父親らしく、皆「よろしくお願いします」と一言言って、ガストンの後に続く。エルノとルーカスは父親と一言二言話してから追いついてきた。
「うち実は修練場営んでるんだ。だいたいみんな泊まってくから簡素な部屋だけど、このくらいの人数泊まれるんだ」
ガストンはどんどん進み食堂の方へ顔を出す。
「母ちゃんただいまー! 今日から泊めて。親父には言ってきてあるよ!」
「なんだい、連絡もよこさないで……後ろの方々は?」
「学園の友達と先生。途中の旅路で一緒になったから来たんだー!」
ガストンの肝っ玉母ちゃんに歩み寄るのは、もちろんうちの父親だ。
「おはようございます。ただ今グランアカデミーで臨時講師をしておりますエルノでございます。医術を専攻しております」
ガストンの母親はあらーと頰に手を当てて伸ばされた手に手を添えれば、エルノは手の甲に口付けする。
「以後お見知り置きを……」
「こちらこそよろしくお願いします」
恋する乙女状態の母親に、嫌な顔をするガストンがいる。
ルーカスも自己紹介し、一緒に来た皆も自己紹介する。
すると食堂の入り口に3人の子供が立っていた。
ユーリア達の年代の女の子と少し下の男の子、ジェルジュくらいの男の子だけどがいた。
「あれ、俺の妹と弟……」
エルノは女の子の手の甲に口付けして挨拶して、男の子達は頭を撫でてやっている。
「おい、エルノ。女房だけでなく娘まで誘惑するな……」
「誘惑じゃないさ。ただ挨拶しているだけだよ。」
ニコリと微笑むエルノを見て、この場にいる女性陣がイーヴァルを見た。
「イーヴァル先輩頼むからうちの父親のように、不特定多数の女性にキスしちゃダメだよ。」
「本当にエルノさんとイーヴァル先輩ってキャラ被るよね……。ここまでひどくないけど……」
「このサラッとなんでもこなしてしまう感じ似ていますわね……」
三者三様に迫られたイーヴァルとエルノは肩を竦めた。
「エルノさん僕たちそんなに似てないですよね?」
「僕もそう思うよ。というより紳士として女性がいれば、挨拶するのは普通だと思うけど……」
エルノの言葉にイーヴァルが頷けば、女性陣を含めツッコミを入れた……。
「「普通は手にキスして挨拶しない!」」
この2人はやはり何か似たものがあるようだ。
ユーリア達はガストンの母親に案内されそれぞれが泊まる相部屋の部屋に荷物を置くと、修練場へと向かった。




