閑話 男二人話
「いいかい、ルーカス君」
「はい」
某旅館の露天風呂に男2人が入っていた。頭には冷たいタオルを置き、のぼせ防止をしている。
「うちの娘は可愛い。けどまだ13歳だ。分かるね」
「はい」
「でもやっぱり、魅力的なスタイルだよね」
ニヤニヤとエルノがニヤつく。ルーカスは引きつった顔で正面の木を見ている。
「分かるよ。男として、あんなに可愛い子がいたらちょっかいかけたくなるよね……。未成年なんて思えないよね……」
「……はい」
「あれは聞いてるかもしれないが、陛下の冗談から始まり本当に自分の体を成長させてしまった。本来は4年後の姿だ」
エルノは遠い目をする。
「きっとクラウディアもあのくらいの年代の頃はまだ成長途中の体で……いや、それはいい。大事な娘なんだ。それは分かってくれるかい」
「はい」
「教師という立場であることも忘れないでほしい。ユーリアは今学生の身だ。手を出すなら後5年後だからね……」
「はいって。え……」
ルーカスは急な父親からの許可に驚く。あの親バカエルノが許可をまさか出すとは思わなかった。
「さっきゲル婆が言っていただろ?
ユーリアの心に入り込めるのはシェルト君か君しかいないと僕は確信した。
実際ユーリアはヴァイセルの事が好きで仕方ないが、好きすぎて距離を置いてしまっている。
あれでは、クラウディアと同じ結果になってしまう」
「はあ……」
「そして、シェルト君は若い。ユーリアの突飛な行動を許す抱擁力がなければ隣に立てない。そうなると僕の中で候補は君しかいない」
「は、はい?」
「ユーリアの事嫌いではないんだろ?なら、後5年ユーリアを支えられる人物が現れなかったら考えて見てくれ……もちろん君には愛した人がいたのは分かる。
それを失った時の悲しみも……」
ルーカスは苦い顔をしてエルノを見た。エルノは悲しみに満ちた表情でルーカスを見ている。
「君は一度大切な者を失っている。操を立てるかは自由だが、君がその気になればユーリアを大切にしてくれるだろう? 鬼神さん」
「もう既に調べ済みですか……流石の手腕です」
「ああ、ローラント様が婚約者候補に挙げた者のことを調べるのは当たり前だ。
国の宰相からのゴリ押しだ私も断れる訳ではない。ただヴァイセルのことを好きだった事も知っていたからなんというか……」
「好きなのに、あんな妄想されては困りますね……」
エルノは首を傾げてルーカスに問う。
「妄想?」
「はい、理想のイケメン王子は自分なんか愛想を尽かして、愛人の子を連れて自分を追い出すそうです」
「なんだかなー。それは僕のせいか……」
今度はルーカスが首を傾げた。
「あんなに愛していたクラウディアが死んで、私は自暴自棄に入ってしまってね。
ユーリアのためにも嫁をとっていたんだが、心が満たされなくて隠密と称して女と会っていたんだ」
「はあ」
「君も経験済みなのかな……肌をいくら合わせても満たされない欲と失った悲しみは減らなかった……」
ルーカスも思い当たるようで深く頷いている。
「そんな時ヘマしちゃってね。情報を聞き出す女にプスッと逆に刺されて瀕死の重傷を負わされた。いやあのときユーリアが来てなかったら死んでたか……」
ルーカスは驚愕の表情になる。
「そう、娘にだらしない姿と母親の死を連想させる姿を見せてしまったんだ。8歳の少女にだよ」
「それは……」
「ああ、ユーリアは私の魔力の変調を感じとり家からパジャマ姿のまま駆けつけると、その女と2人の刺客を半殺しにした上、自分より格上の刺客が現れると魔力を暴走させたんだ……」
「……」
「膨大な魔力を暴発させかけ、駆けつけた陛下によって国を壊滅させることは防げたが、ユーリアは自分自身が怖くなった。
そこからは陛下に心酔するように言いなりになっていった」
ルーカスは言葉が出ず、ただエルノの話を聞いていた。
「もともと我が家は陛下の隠密だし、従う事は問題ないんだけど、家族には心を閉ざすようになっていった。
ユーリアは自分にとって大切な者を作りたくないんだ。
男が不審になっているかもしれない。
それに、本人が自覚しているか分からないけど、二度も親を失う恐怖を覚えた。
そして、自分自身が暴走すれば人を傷つける事も学んだ」
「ユーリア……」
「まあ、ユーリアが君に心を開くことを祈っているよ。5年という月日の中で、僕にはできないことを頼んだ。僕は僕でユーリアを守るから……」
エルノは真剣な眼差しでルーカスを見つめ、ルーカスも見つめ返す。
「ふふ。そう構えなくていい。まずは君の気持ちが1番だろ?
愛した女以上にユーリアを愛せないならユーリアには近づかないでくれ……。あの子に可愛そうな思いはさせたくない」
「そうですね……。とりあえず教師として今聞いたことを踏まえて接して行きますよ」
「ああ、そうしてくれ……長湯になってしまったね……婚約者の件は僕から勝手に盛り上がらないように、ローラント様に言っておくよ」
エルノはそう言葉を残して、温泉を後にした。
ルーカスは石に腰掛けて少し体を冷やすと、1人呟く。
「エルノさんもう決めてますよ……。俺は5年間教師として彼女に向き合っていきます」
降ってくる雪を見つめ、ルーカスも温泉から出た。




