ゲル婆の授けるものとお節介
後に残ったメンバーにゲル婆は話しかけていた。
「あの者が抱えるモノは沢山ある。家が暗殺稼業などという話は片鱗に過ぎぬ……。お前たちがユーリアの心からの支えになると思って私は少し教えたまでだ。」
「ゲルトルーデ様それは何の話ですか?」
シェルトが口を挟んだ。エルノはずっと不機嫌そうな顔をしており、ゲル婆を見ていない。
「ふふ、シェルト。理解できるものと言えば、其方とそこにいる教師だけだろう。まあ、それでも全てとは言わんが……」
「なんか、話がよく分かんないんだけど……先生とシェルト先輩にしかわからないことなの?」
ティナが眉毛をハの字にして必死に考えを巡らせている。
「とりあえず、ワシはのお。あやつの母のようになって欲しくないのじゃ。そばにいて楽しそうに笑うが、心の中では沢山の苦悩があったはずじゃ……。
それはエルノよく分かるであろう。むくれるな。」
「言っている意味は分かっている。ユーリアがクラウディアに似て何か隠しながら生きている事も……。だから、こちらは様子を見ながら育てていたというのに……」
「その結果があの家から出て、学園都市に赴いたのであろう。あの子には誰にでもいいから、自分の胸に秘めた秘密を打ち明けられる存在がいて欲しいのじゃ」
ゲル婆の言葉にエルノは苦い顔になり、ティナは頷く。
「ユーリアは本当にポロポロ秘密ばら撒いていくんだから、ユーリアが人の命を大切にしてるのは一緒にいて知ってるし、例え、お家が暗殺稼業やってても何も気にしない」
「それもそうですね……。ユーリアさんは姿すら隠してましたし、第一ドニが魔法を暴発させた時だって、魔法を使える事を隠してましたわ……」
「そうだよな。俺アイツが女だって知ってたら、絶対シャンプー借りなかったのに……」
ベネディクトはティナに足をつねられ、痛いと涙ぐむ。
「おばあさん安心して、私たちはユーリアが言った事を全て受け止めていくよ!
秘密にしたい事もどうせ少しずつバレてくんだから、一気に言ってくれればいいのに……」
ティナは逆に頭を抱えて、ユーリアに対して怒り始めそうだ。
その様子を見てゲル婆は安堵したのか、エルノに向き直る。
「エルノ、安心したであろう。この者たちならお主に言えぬ事もそのうち明かすであろう」
「なんか、ゲル婆話急ぎすぎなんだって……」
「こちらにも事情がある。まあ、一番はクラウディアの娘を気に入ったからこそのお節介じゃ……。
それではワシは帰るかのう。少し調べたい事ができた。
先程のユーリアの推測も含めて、こちらでも少し探っておくわい。」
*
「待て」
ルーカスが立ち上がるとさっさと立ち上がって門まできたゲル婆を捕まえる。
「庭に綺麗な鳥が三羽舞っておるわい」
そう言われてルーカスが庭を見れば、ユーリアとニノンマノンが舞いを一緒に舞っていた。
ユーリアたちがいる空間だけは雪が溶け、舞ってくる雪もその周りだけはない。
「若者や。お主は大いに悩め。お主も背負う者であろう」
「背負う? 一体何を……」
「まあ良い。力が足りないと感じたら、これを持って故郷に戻るといい、道が開かれる」
ルーカスはゲル婆から一つの巾着を預かる。それを不思議そうに見ていると、いつの間にかゲル婆は姿を消していた。
「あの婆さん全く気配がしないんだが……」
そういうともらった巾着を握りしめ、ユーリアの元へと向かった。
*
宿屋から空を飛ぶゲル婆には不安なことがあった。
「転生者が現れた時は必ずとしてこの世に混沌が起こる。
そして、その転生者の手で敵を倒さなくては世の平和は保たれない。
ユーリアが行く先々で関わると言う組織。少し調べてみねばな……
ゾルクス、お主の封印が弱まったと言うことなのか?
どこまで不和を望んでいると言うのだ。
この世界を壊したとしてもあやつは帰って来なのだぞ……」
ゲル婆はだいぶ歳をくっていた。やっと子孫を残してあの世に行けると思えば、また心配ごとがやってくる。
「ビャッコのやつ逃げおって……。屋敷からわざわざ出て移動しおったな。わしが宿屋から出たのを察知して……。
あやつにも少し注意が必要か……。いやあやつはもう別のところに興味を持っておるから大丈夫か……」
ゲル婆はテディの若かりし頃の姿を思い浮かべて目を細めた。
そして、エルノ、ルーカスに重ねる。
「全くどの男も女に泣かされるのだな……。女は強いからな……。ワシのようにさっさと第二の人生を歩めばいいものを、何故死んだ女なんてしがみつくのか……。ワシは元気にやっておるぞ、ダーリン!」
ダーリンという言葉がこだまする中、ゲル婆は帰路に着いたのである。




