プルムと生徒会のお手伝い
なんでこうなるのだろうか、職員会議の中でドミニクの隣に座るユーリアは深くため息をついた。
*
冬の予定を入れた一昨日の事だ。
ユーリアは生徒会室に呼び出されていた。
「ユーリア・クィントン。今日は頼みがあって呼び出したの」
目の前にいるのは生徒会副会長であるプルムだ。
どうもこの間の文化祭から懐かれてしまっている気がする。
「ルミドラが意識不明になって3日、生徒会長を補佐するものがいなくなったのだ……。これは生徒会に置いて由々しき事態である。」
なんだかいつになく真面目な話である。
ユーリアが話の展開を予想して、プルムの話を遮る。
「ダメですよプルム先輩! 万が一の時に副会長2人もいるじゃないですかー!
プルム先輩とダーヴィ先輩で補佐するんですよね!
それにベティーナ先輩たちもいるじゃないですか!」
ユーリアが勢いよく喋り始め、プルムの考えを否定していく。
治療院のバイトも忙しくなり、ただでさえ現在新しい魔術具の作成中なのだ。
このまま生徒会の仕事まで受け持ったらパンクしてしまう。
「なんだー。話が早いな……。優秀だと聞いているし、ドミニクの補佐は疲れる……。ね、お願い!」
ユーリアがプルムに拝まれていると生徒会室の扉が開き、他の生徒会の面々が現れる。
「プルム頼むからルミドラがいないのだ大人しくしていてくれ……」
「本当にそうですよ。たださえこの前の対抗戦の後始末に奔走されているというのに……」
副会長のダーヴィ、三年生書記のランベルトが口々に文句を言い始める。
プルム1人が先走っているようだ。
「だってベティーナが補佐に回ると、情報収集がシェルトだけになるし、イーヴァルもどっかに行ってるし……今猫の手も借りたいくらいじゃん?」
「その言葉は正しいですが、1年生であるユーリアに話を振るのはどうかと思います」
シェルトまで否定しているが、プルムはニヤッとしてしたり顔だ。
「先生たちの間ではユーリアの優秀さが相当話題になっているみたいじゃない?
どうせ回らなくなって先生たちから候補が出る中にユーリアの名前は入ってくるでしょ?
イルムヒルムでも影で暗躍していた事は周知の事実よ」
「確かにそうですが……」
「情報をこれでも集めるのは得意なほうよ。
謎の美女と対抗戦での働きで、皆その存在が結び付いたんじゃないの?」
シェルトを言葉でねじ伏せるプルムを見て、ダーヴィは頭を抱えて、ランベルトはプルプル震えている。
「隠密の行動が取れて尚且つ事態を収拾させる力を持つ。それは今ルミドラが欠けて混乱している我々に必要な力なんじゃないかしら?」
「その言葉に意義はない……」
開け放たれたままの扉から入ってきたのは、ドミニクだ。
ベティーナ、イーヴァル、ルーカスが後に続いてやってくる。
「だが、一年生で尚且つ今は治療院が忙しい中平日も夜勤に入っているようだ……。助けは欲しいが負担になるような事はしたくない。」
皆が頷く中プルムは止めない。
「あら、会長。ユーリアはメイドカフェでも働いているのをご存知?
そこの仕事については休業可能よ?
あそこの店長を脅す要素はたくさんあるわ……。
それに治療院のだって本来学生なら治療補助に入る程度でしょ?
それを夜勤の臨時医術師として雇うのはどうかと思うの?」
その場にいる面々は頭を抱えて、プルムの暴走を止める余力がなくなった。
プルムはやりたい事に対しては貪欲で、その力を存分に発揮するようだ。
生徒会入りしている意味がわかる。
「プルムだがなー。」
「ビルショフ通り、ヘルダーボイン。エミちゃん。」
ルーカスの否定する言葉が止まり顔が青ざめている。どうやらルーカス御用達のお店の名前を言い当てたようである。
ベティーナとユーリアはかなり引いている。
ルーカスも何も言えなくなってしまった以上ユーリアは自己防衛するしかない。
「プルム先輩とりあえず皆さんに迷惑をかけるのはやめて下さい。私は生徒会の力になりたいのは山々ですが、生活もあります。こちらに使う時間は無いのです。」
「猫娘の正体と騎士の正体って誰だったかなー? メイドカフェで都市の騎士達に熱い視線を送られるだけじゃなく、この学園でも熱い視線を浴びたいのかしら?」
プルムから文化祭での姿をバラすと圧力がかけられている。メイドカフェでの事も知り尽くしているとなると少々小っ恥ずかしい。
ユーリアは唇を噛み黙る。
「ふふふ、ユーリア私は会長を補佐する能力はないと断言できる。そしてベティーナに変わり会長の補佐をしなさい! 私は情報を集めるのは好きだけど、それをまとめたりするのは嫌なの!」
プルムは自分のやりたくない事を押し付ける気満々である。皆が呆れて言葉が出ない中、ドミニクが口を開く。
「プルム本来であれば、君に私の補佐をしてもらいたいのだが……」
「私にも毎晩遅くまで治癒院に通えと仰るのですか?」
ドミニクまで黙ってしまった。
「まあ、確かにドミニク会長の補佐の仕事はほぼ会議の書記ですからね……。
情報の精査は一年生の身には重いでしょう。追々そちらの方も教えますが、今回はお願いしてみるのも手ではありませんか?
そうすればプラム先輩も私と一緒に情報集めをしてくださるということですものねー?」
ベティーナの言葉にプルムは苦い顔をする。プルムを動かそうとする手腕ベティーナ先輩の方が上手そうだ。
皆がため息をつき、結局はベティーナが元の仕事に戻り、ユーリアがドミニクの補佐につく運びとなり今に至る。
*
「はあ……」
「ユーリア、ため息は会議が終わってからにしてくれ……」
ユーリアはドミニクに耳打ちされ、身を引き締め直した。
生徒会は先生方の職員会議にも出席し、問題ある行動をとっている生徒がいないか情報に目を光らせているらしい。
ただのイベントの仕切りだけをしているのかと思えば、日々学園の中枢で先生方とやりとりをしていた。
風紀委員の仕事も兼ねているようだ。
「ふへー」
職員会議が終わり初の補佐仕事を無事こなした。
各先生達からは「生徒会活動に助力するとはさすが優秀な人材だ」と益々株は上がっていた。
しかし、ユーリアの戦いはここからである。メモ書きした職員会議の内容を議事録としてまとめ、生徒会の情報源として報告しなくてはならない。
生徒会室に戻ると内容を要約し要点をまとめた物を仕上げる。
辺りが暗くなるまで残っていれば、ドミニクが各生徒が持ち寄った意見書などを読みながら待っていてくれたようだ。
「ほう、議事録の内容の形式が分かりやすくこれはいいな……」
ドミニクは提出された議事録に間違いがないか簡単に目を通してくれて、一発でOKが出た。
「このまま治療院へ出勤なのだろう? ルミドラの顔を見に行くついでだ。送ろう」
ユーリアはドミニクと共に治療院へと向かった。
*
ユーリアは仕事前にドミニクと共に、ルミドラに会いに行く。
「いつ目が覚めてもおかしくないと言われているのだがな……。全くいつまで眠り続ける気なのか…….」
ユーリアはルミドラの隠れた部分が壊死している可能性を知っているので、なんとも言えなかった。
恐らくその回路が壊死したことで、変調をきたし目を覚ます事がないのだ。
「ドミニク会長、私は集まられる情報を全て集めます。父も祖国に症例を問い合わせたり、毒の成分を分析していますが、人間が作り出した成分ではないので解析が難しいのです」
「そうか……未知の毒薬という事だな……。魔獣の毒を受けて死ななかっただけよかったというわけだ。ユーリアがすぐに解毒してくれたおかげだ……」
ユーリアは心が痛かった。人間の限界の力ではなんともならない事だ。もし自分にも魔獣の持つ目が使えればと何度も思ったのだ。
「ユーリアまた悔やむなよ。ルミドラの分も仕事をこなしてくれているのだ。問題ない。やれる事を一緒にやって行こう」
「そうですね、意識のない方も毎日親しいものが声をかけると脳に刺激となると、医術書ではないのですが、文献で読んだ事があります……。
私も声をかけれる時はこちらに顔を出しますよ」
「ああ、遅くまでご苦労だった。仕事頑張れよ」
ドミニクと言葉を交わすとユーリアは当直室へ移動した。
対抗戦以降、ルミドラの事が引っかかり気を病んでいたのだ。正直プルムの申し出はありがたかったのかもしれない。
忙しさの中で自分の無力さを悔いる気持ちが段々薄れていくのを感じている。
ユーリアは誰も当直室で着替えると、いつもの先生スタイルで夜を明かすのであった。
そうこう忙しく動いている中ユーリアは冬休みを迎えたが、ルミドラは目を覚さなかった。




