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意識不明の謎

 治癒院での処置が終わるとユーリアはヴィオラに呼ばれ、学園の職員会議室へ向かうように言われる。


 エルノを残し、ヴィオラと共に学園へと向かった。




 学園の会議室に入れば、神妙な面持ちの面々が椅子に座っていた。



「生徒たちの容態は?」



 口を開いたのは学園長だ。ヴィオラは生徒たちの容体を説明する。



「現在、ルミドラ以外は意識もあり、重傷は負っておりましたが、回復しています。

 念のため明日までは入院させて、治療院で経過を観察します。」


「ルミドラは意識がないのか……。我が学園のエースである彼女が……」


「魔術具の破損だけではなく、生徒の暗殺未遂か……。学園の信用問題に関わりますな……」


「トシュテン先生。今はそんな事言っている場合ではないです」


「いや、関わるであろう? この学園は周囲の学園都市から一目置かれる存在であり、今回の事は大々的に広まるであろう。

 ドミニクがデモンストレーションだと言ったが、それが通じるのは一般客のみで、各国の重鎮たちは本当の意味を知っておろう。

 学園内にあれ程まで魔獣を侵入させてしまったこの都市自体の不覚……」



 トシュテン先生とは主に歴史について教えてくれる先生で、歳も学園長より上のおじいちゃん先生だ。


「だが、報告では歳の外から会場目掛けて飛来し、生徒たちを襲い始めたという事だ……。つまりは誰か手引きするものがいたという事……」


「そうじゃなあ。その辺りも含めて教えてくれんかなユーリアくん。生徒たちの目撃者に聞くと、あの瘴気を放った魔獣に何か話しかけていたと聞く」



 学園長は先生方の話を遮ると、会場で大蛇に話しかけてしまった事を思い出した。


 ユーリアはため息をつくと、素直に話を始める。



「あの大蛇はイルムヒルムにいた女に間違いないと思います。魔力の波動から間違いありません。

 それ以上はなにも存じ上げません。お力になれず申し訳ありません」


「そうか、君は大変優秀な生徒じゃからのう。何か知っているかと思ったが、分からぬか……。今度お供の者に聞いてみてくれ……。ドニくんも先ほど呼び出したのだが、なぜ命を狙われたのか聞いても答えてくれん」


「イルムヒルムが絡むとなると、組織が絡むのか……」


「ルミドラ及びドニが西の地バスロレーベの出である事以外今のところ共通点はないようだな……。という事は今度は西の地で何か起きるという事か……」



 先生方の憶測が飛ぶ中、質問してきたのは魔術の総括担当をするフレドリカ先生だ。



「ユーリア、あなた魔術具に残った魔力の残骸を回収したと聞いたけど、それを渡してもらえないかしら?」


「はい」


 ユーリアはウェストポーチから取り出し、フレドリカに渡す。



「ほう、魔力を結界の魔法陣で閉じ込めたか……。魔眼が開花している上に、他人の魔力の残骸を集めるとは……其方魔術コースに移動しないか?」


「いえ、私は魔法の研究をする気にはなれませんので、今は魔術具の研究のみで結構です」


「じゃあ医術クラスの講師はどうだ? 聞くに一年生の1人の魔眼を開花させる手助けをしたようだが、他の者にも指導してやれないか?」



 魔術コースを断れば今度は医術クラス総括のエクムント先生に講師をと強請られる。



「そういう仕事は生徒の領分ではございません。私の父が今医術クラスの臨時講師をしておりますので、父が指導できるかは分かりませんが、そちらにご相談ください」


「分からんとは?」


「私の指導をしていたのは祖父のトルスティです。父も祖父から教えを請うていたようですので、恐らくとしか言えません」


「確かにエルノは国防の方にも携わっていたと聞くからな……。子の教育はあのトルスティ様に任せたという事か……。残念だがわかった。エルノ先生に聞いてみよう」



 残念そうにする2人を置いて、学園長にお暇を願い出れば、聞きたい事はそれだけだと学園長から治療院に帰る許可をもらった。


 残念と2人の先生から言われるが、まだ虎視眈々とユーリアのを狙っていそうな目をしていた。





*


 ユーリアは治療院へと戻りルミドラの病室に来ていた。扉を開ければそこにいたのは、ルミドラのベットの前の椅子に腰掛けているドミニクとエルノだった。

 エルノはユーリアを見ると、こちらに歩いて来て、そっと肩に手を置き首を横に振った。

 どうやら、いつ目が覚めるか分からないらしい。

 エルノは病室を後にする。

 ユーリアはトボトボと病室に入っていった。



「ドミニク会長……」


「ああ、ユーリアか……ずっと眠っているのさ。

 綺麗だろう? いつ目が覚めるか分からないらしい」



 ドミニクは目を開けないルミドラの頬に手を当て、目を潤ませている。

 ユーリアは首からかけているペンダントを握り締め、自分の無力さを痛感した。



「ユーリア自分を責めるな。戦場で起こった事だ。お前があの場にいたとしても矢は受けていただろう?」



 ユーリアはコクリと頷き、目に涙を溜めた。

 ドミニクは「全く」と言うと立ち上がり、ユーリアを抱きしめた。



「ルミドラの事は仕方がない。これから先どう治療していくか考えてくれ。わかったな?」



 ユーリアはドミニクの肩に自分の体を預けて泣いた。ドミニクは落ちつかせるようにトントンと背中をさすってくれた。



「ドミニク先輩、これじゃあ逆です。私が慰められるのはおかしいじゃないですか?」


「仕方がないだろう? 紳士として泣いてる女をほっとけない。」



 ユーリアはそういうとドミニクの頭に手を伸ばし、頭を撫でる。

 ドミニクは驚いた表情になるが、クスッと笑って撫でられ、目を合わせる。



「先輩泣いてもいいですよ? 医術師には守秘義務が存在します。見たものは誰にも言いませんよ?」


「お前のおかげで涙は引っ込んだよ……。お前こそ泣きやめ。」


「そんなあ」


「なんだ不満か?」


「不満というわけでは……」


「じゃあ少しだけ肩を貸せ」


 ドミニクに強く抱きしめられ、ユーリアも抱きしめ返す。

 どのくらい時がたったか分からないが、ドミニクが口を開く。



「どうしてルミドラが狙われたんだ……。何故私がいないところでこうなる……」



 ユーリアはなにも言わずにドミニクの頭を撫でて、背中をトントンとする。



「前々から分かっていた……。俺は魔力持ちではない。守ってやれないんだ……」


 自分の力に対して嘆くドミニクに、ユーリアは同じ魔力持ちである女として答える。



「魔力持ちとして言っておきますけど、身体的に守るだけが全てじゃないですよ。そばにいるだけで心が穏やかになれる、そういう相手であれば魔力は関係ないと思います。」



 その言葉に涙に濡れる目でユーリアを見つめた。

 ユーリアはドミニクの目元を拭い、微笑む。



「ユーリアおまえもたまには的を得た話も出来るのだな。」


「なんですかそれ? 私ドミニク会長とそんなに話してないのに、周りからどんな話を聞いているんですか?」


「ん、超がつくほどの鈍感娘だと聞いている。」


「誰ですか! そんな話をするのは!」



 ユーリアが怒って頬をむすっとさせれば、ドミニクはユーリアの頬をプスッと指で小突いて顔を近づける。



「内緒だ。」



 ドミニクはため息をつくと、その場にある椅子に腰掛けルミドラを見つめた。ユーリアもルミドラを見る。


 外傷はすでに治癒魔法で治してあり、何故眠り続けているのか見た目では分からない。



「いつ起きてもおかしくない顔してるのにな……」


 ドミニクは感情的になり、ユーリアも頷く。

 ドミニクは再びユーリアの肩にもたれ掛かり、力を抜く。


「大丈夫です。目が覚めるまで私が何かできないか探ります」


「そうか……」



 ユーリアはドミニクを抱きしめる。


「私の知る物語では、目の覚さない姫に口づけすると目を覚ますっていうのがありますよ。」


「なんだその物語? じゃあ、感傷に浸りたいのに冗談を言ってくる姫の唇を奪ったらどうなる?」



 ドミニクは抱きしめられた状態のまま、ユーリアの唇を親指で触れ、見つめてくる。



 ガラガラっと扉の開ける音がしてそこに入ってきたのは、ヴィオラの案内するルーカスだった。



「あら、お邪魔だったかしら……」


「なに? お邪魔ー?」



 後ろの方からはイーヴァルの声も聞こえるが、ユーリアはドミニクの目を手で覆い、少し治癒魔法をかけてさっと身を離す。


 ドミニクがユーリアを見つめる中、ユーリアはウィンクして見せ、ヴィオラのところへと歩き出した。



「別にお邪魔じゃないですよー。私の方がお邪魔になりそうなので退散します。」



 ユーリアはそういうと病室から出た。やることがあるのだ。やれる事を一つひとつやっていこうと思えた。





*


「おい、ドミニク……今のはなんだ?」



 ルーカスが聞けば、ドミニクは苦笑して答える。



「弱ったところにあれは……毒ですね。」



 ルーカスはその思いに賛同して、手を出して何故か2人は握手して抱きついた。



「何を2人分かり合っているんだか……まあいいわ。」



 ヴィオラとイーヴァルはルミドラを見つめる。



「さっきまであんなに強い姿見せてたのに……。不思議ですね……」


「ルミドラのためにも今回の背後関係を探らねばならぬな……。せめて何故狙われたのか調べなくては……」


「ドニという少年も狙われたのよね?」


「ああ、まずはドニから切り崩すか……。いやそこはユーリアを使うか……」


 ルーカスが布石を考えているとイーヴァルはそれを否定する。


「ユーリアちゃんは使っちゃダメですよ。イルムヒルムの二の舞になります。ドニ君を説得して思い当たる事があるか聞いてみましょう!」


「生徒会としても情報を集めるぞ、イーヴァル。ルーカス先生ドニくんの件は任せました」


「動く前に待って……。さっき職員会議でユーリアが言っていた事なんだけど……。どうやらイルムヒルムにいた女が今回の大蛇らしいわよ。」



 ルーカスは宿敵と言わんばかりに拳を握り締める。ヴィオラはというとクスッと笑う。



「ルーカスの事を陥れた女が大蛇とはね……。まあ、皆今回の件、例の組織が絡んでいるのは間違いないわ。

 調べるのであれば最新の注意を払って……」


 皆は了解と頷いた。






*


 ユーリアは治療院の夜勤である。急遽患者数が増えたため増員されたのだ。


「テディ行くよ!」


 ユーリアはペンダントにいるテディに話しかける。

 今晩は、なかなか目が覚める兆候のないルミドラをテディにも見てもらうのだ。


 人間と魔獣では見えるものが違うため、念のためにその目を使ってもらう。





*


「ユーリア先生、こんばんわー!

 今日は対抗戦大変だったらしいですね……。

 ステップアップのためにもユーリア先生の処置を見たかったです。」



 ヘルミは今日夜勤のため日中はバイトに出ず、寝ていたらしい。トリアージは相当最先端な考えらしくここでも噂になっているようだ。



「俺も今日は寝てたのに、飛び起こされたからなー。ユーリア先生今日の活躍ぶりは聞いてるから、そのまま今晩もがんばれ!」


「いや、先生私も仮眠取りたいです。不眠不休なんですけど……」


「家に帰ってシャワー浴びる余裕はあったんだろ?この忙しい中いい匂いさせやがってー!」



 頭をガシガシとされるのはアンセルム先生だ。どうやら夜勤明けで寝ているところを、急に起こされて機嫌が悪いらしい。



「エルノ先生は休むし、ほかの先生もよー。日中働いたからって来ねえし、俺に過労死しろってか? あのじじいども……」



 アンセルムは比較的医術師の中では若い方であり、いつも忙しい時期に仕事を押し付けられがちだ。



「お父様休みなんだ……」


「ん。お父様ってエルノか? 俺と同じくらいの歳なのにこんなでかい子供がいるって……俺嫁もいないんだけど……」



 アンセルムは医療に従事しすぎて、嫁がいないとよく愚痴っていた。若い女は職場にいても学生ばかりだとも……。


 自分の枯れ具合を嘆いて、仮眠すると仮眠室行ってしまった。



「私は見回りしてくるわね……」



 ユーリアは先生が当直室からいなくなるのを見計らって、ルミドラの病室へと向かった。




*


「テディいいよ」



 テディは人型になると、ルミドラの姿をよく見る。

 手に触れたりして、よく魔力回路を見ているようだ。



「こんなお美しい方が眠りについているとなると悲しいですね……」


「それで何か分かったの?」


「私は治療の専門ではないので詳しくは分かりませんが、どうやら毒によって魔力回路の一部が壊死しているのではないかと思われます」


 ユーリアはともかく、エルノもそんな事には気付いていなかった。

 となると、答えはひとつである。



「シェルト様同様、魔獣の血が少しばかり流れているのではと思われます。」


「はあ、となると詳しいのは……」


「魔獣でいう医術師はゲンブですからね……。頼りたくはないですが、ユーリア様は縁があったようですし……」


「これもなにかの巡り合わせって事ね。冬休みになっても目が覚めない時は……」


「そうですね……」 



 人の魔力回路に異常がなく、上位の魔獣にしか見えない部分があると言う事は、何者か上位の術者に隠蔽されている可能性が高い。


 ユーリアが見れない以上、治癒の使い手であるゲル婆に意見を聞く事になる。


 毒の一部も回収したものがユーリアの手元にあるため、それをゲル婆に見てもらったほうがいい。


 テディとユーリアはルミドラを見つつ、冬休みの日程を決めるのであった。


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