チーム対抗戦と黒い乱入者
チラホラと会場には雪が降り始めた。季節的には12月。雪がいつ降り始めてもおかしくない。
しかし、その異変に気づいたのはルミドラだった。
「防御壁の展開!」
ルミドラ以外の生徒は何が起こっているか分からないまま、魔術師達が防御魔法で防御壁を張り始める。
ルミドラ陣営の木に触れた雪が一気に氷漬けになり、生徒たちは唖然とした。
「雪の魔法か……」
ルミドラはイーヴァルを見やり、防御魔法を展開させたままイーヴァルたちの陣営へと走り始める。
イーヴァルも防御魔法を発動させながら、ルミドラへ対応する。
「誰か一人くらい氷漬けになってくれるとありがたかったんだけど……」
降り積り始めた雪の中、二人はどんどん打ち合いしていく。
「広範囲に雪、その中に氷魔法の粒を混じらせておくとはなかなか考えたな……」
「ルミドラさんにそう言っていただくとありがたい。こっちも来年からは2人揃っては動けなくなるんでね……」
「あー、致し方ないな。シェルトは生徒会で忙しくなるだろう。」
「僕だって真面目に生徒会の仕事するつもりですよ!」
2人がやり合う中、他の面々も打ち合いし始めた。
魔法が飛び交い始めれば、イーヴァルの陣営は崩れ始める。
「やはり、2人がかりでこの魔法をしていたか? うちは防御が得意とする者がいるので、悪かったな。」
ルミドラがそう言うとイーヴァルは防御魔法の中に囲われてしまった。
ルミドラは主戦力のいなくなったイーヴァル陣営の中をかけ、みるみるうちにフラッグの元へ近づいていった。
魔術師達が雪の魔法を打ち切るも遅く、ルミドラは直接フラッグをなぎ倒した。
「——おおー!!」
「ルミドラ様最強!!」
会場からは歓声が上がり、ルミドラは静かに剣を鞘にしまった。
*
イーヴァルは全くと言っていいほど見せ場を作れなかった事を、悔いていた。
「ユーリアちゃん負けちゃったよー! だいたいくじ運が悪いよね……。ルミドラ親衛隊は相当手強いの! 分かってたけど、こっちも火力が上がったから行けると思ったのに……」
「完璧にしてやられたな。防御魔法の複数展開と魔術具による支援か……」
「防御魔法にも穴があるよ……」
ユーリアの言葉に2人は目を丸くする。
「あの防御魔法は地面には張っていなかった。術者の目を欺く魔術具の使用か、目を潰す魔術具を使用して地面を攻撃し、イーヴァル先輩が抜け出せば、勢いは削げたけどね……」
ユーリアの言っていることは正しかったが、それにさけるだけの人員が残されていなかった。
皆相対していたのだ。
反省点を見つけつつ、皆で決勝戦の行なわれる観客席へと向かった。
*
ルミドラチームとオスモチームの対決だ。
終始魔法の相殺や体術者同士の打ち合いが行われていく。
先ほどイーヴァルたちの動きを止めた術者から集中砲火にあい、消えて行った。
ルミドラはオスモとやり合いながら、弓使いによる妨害を避けて行く。
「オスモなかなかいい弓使いがいるな? 絶妙なタイミングで入ってくる」
「ああ、俺も安心して背中を預けられるって訳ですよ!」
オスモ達の間に魔法が降ってきて、砂埃が当たりに立ち込めると、一本の矢がルミドラの右肩に刺さる。
「——今の矢、うちの矢じゃない! ルミドラ先輩大丈夫ですか?」
近寄るオスモをルミドラが牽制して叫ぶ。
「まだ勝負は終わっていない。外部からの介入などに屈するわけがなかろう!」
ルミドラは刺さった矢を引き抜くと、オスモに相対する。
利き手がやられた中、剣筋は鈍ることなく、オスモを疲弊させて行った。
「ふ、オスモ悪いな……」
そう言うとルミドラは剣先から稲妻を出し、オスモは剣から感電し、その場に倒れた。
ルミドラは電光石火の如くフラッグを取り、優勝はルミドラチームとなった。
*
「ルミドラ先輩!」
ユーリアは試合終了の合図が終わると、観客席から飛び出てルミドラの元へといった。
ルミドラは合図とともに跪いていたのである。
「……ユーリアか。ドミニクに伝えてくれ……。有終の美を飾れたと……我儘を通させてくれてありがとう……」
ルミドラが目に涙を溜めると、そのまま意識を失ってしまった。
エルノが駆けつければ、手には先ほど射られた弓が握られていた。
「毒が塗られている。解毒と止血だ!」
ユーリアは返事をすると、その場で解毒魔法を展開させていく。
ルミドラの肩に手を当て、どんどんと体の内部から毒の成分を抜き出していく。
吸い出された毒は球体状に浮かび上がり、毒に侵された血も混じっているため、どす黒い色をしている。
ユーリアが集中して治療をしていくと、エルノが突然怒り始めた。
「学園のイベントに介入するだけでなく、うちの娘まで狙ってくるとは……」
手には矢が握られており、あまりに力を入れたため、真ん中から半分に折れている。
「お父様、解毒はほぼ完了。どうやら、私の出番みたい……。止血お願いね……」
「何を言っているユーリア、ここは父さんが……」
「ねえ、人が平穏に暮らしたいって言ってるのに、どんどんぶち壊してくるアホなやつに制裁を加えても問題ないよね?」
ユーリアはエルノに対し含みを持たせて話しかける。エルノは少し身震いすると、ため息をつく。
「そんなとこまでクラウディアに似なくてもいいのに……」
「学園の人間が害された今、私の管轄。父さんは医術師としてこの学園に来たんでしょ? 仕事しなきゃ……」
ユーリアはエルノを置いて、矢が飛んできた方向を睨みつける。
すると、無数の影が観客席から降りてきた。
色付きの魔獣達だ。
「テディはいないのか!」
駆けつけてきたのはルーカスだ。ユーリアは頷くとルーカスが剣を構える。
「僕は蛇苦手なんだけど……」
なんとも頼りにならない言葉を発しているのはイーヴァルだ。
イーヴァルのチームの面々もこの場に来ている。
「副会長を痛めつけたのってこいつらなのかなー? このチーム対抗戦のタイミングで攻めてくるとかバカでしょ?」
イーヴァルはそう言うと剣を手に発現させ、ニヤニヤと笑い始める。
対抗戦の直後で学園内でも強者と呼ばれるもの達が集っているのだ。
「避難は必要ない! 我が学園の若い騎士たちの力量を見てもらうデモンストレーションだ。
3年生以下のもので会場に来てる武術の心得があるものは観客席の警備を開始!」
拡声の魔術具で避難を開始しようとする観客を止めたのは、生徒会長であるドミニクだ。
主犯格が人に紛れて逃げ出さないよう先手を打ったのである。
隣に座る学園長はホッホッホーとたずさえた顎の髭を触りながら成り行きを見ている。
*
「トカゲにカエル、ヘビって何の罰ゲームなんだ……」
上級生の嘆きが聞こえる中、学園の精鋭たちと魔獣との戦いが始まる。
ズタズタと敵が倒れる中、ユーリアは怪我をしたり毒を食らった生徒たちを癒しながら、自分も戦場に立っていく。
「きゃー!」
会場に急遽悲鳴が起きる。その先を見てみれば、黒く蠢く輩がこちら目掛けて飛んでくるところだった。
ユーリアも「きゃーきゃー!!」と騒ぎ、涙目になる。
抱きつかれたルーカスは片手で敵を対峙するとユーリアに怒鳴る。
「アレは好かんが、敵だ。やれ!」
ユーリアは涙目でキャーギャー言いながら手をかざすと、こちらの会場に入ってきたアレを焼き殺していく。
火力は加減出来ていないので、自慢まで焦がす勢いだ。
「絶対こっちに来るなー!」
火の形態を変え、グルグルとアレを炙って殺していく。
「ユーリアちゃん、ちゃんと前を見ないと観客席まで魔法の力が及んでるよ!」
イーヴァルに叱責されて目を開けてみれば、観客席のある壁が黒焦げになっていた。
ユーリアは深呼吸をして魔力の量を調整し、炎をドーム状にしたもののどんどん縮小させていく。
本当は黒焦げになったものすら見たくないのだが、仕方がない。
「ルーカス先生、私今のでほとんど魔力使っちゃった……」
ルーカスに叱責され、ユーリアは治癒の裏方へと下がった。
戦場を駆け巡っては大怪我で動けなくなっている者に治癒魔法をかける。
*
魔獣の数が減り後もう少しで討伐完了となる時に、目の前に大きな漆黒の大蛇が先の割れた舌をチョロチョロ出しながら、こちらに向けて言葉を放った。
『ラディム様のお気に入りと聞いて遊んでみたが、つまらないなー』
「どういう事よ!」
ユーリアにだけ向けられた言葉のようで周囲は急に怒鳴り出すユーリアを見ている。
その姿を見て黒蛇は笑い出す。
『本当愚かなただの小娘ではないか……。つまらぬなー。』
大蛇はそう言うと、ユーリアたちに向けて瘴気を放った。
『お遊びは終わりじゃ。お前にはまた別の機会に会おうぞ!』
ヘビは観客席側を見て、一つ毒の塊を飛ばした。
他にも狙われている人物がいたのかとユーリアが焦っていると、その毒の塊は防がれていた。
「これは……」
ドロドロになった金属の塊が観客席に、溶け出していく中、ニヤリとしたのは人型のテディだ。
『何故ここに……厄介な……まあ、目的は果たされたか……』
そう言うと大蛇は辺りに瘴気を撒き散らし、姿を隠してしまった。
残された魔獣を駆除すれば、観客席から拍手が起き、デモンストレーションと言われたこの戦いの結果を賞賛していた。
「ドニー! 大丈夫?」
人々がざわめいている中、ユーリアは毒の塊を受けたドニの元へと向かっていた。ドニは放心状態のまま傍にはテディが寄り添っていた。
「テディもなんでここにいるの?」
「ルミドラ様が狙われたとなれば、次に襲われる可能性があるのはドニ様かと思いまして……」
ユーリアが首を傾げれば、ドニはテディの口を塞ぎ、その目を見つめていた。
ユーリアはそれ以上追求する事をやめた。
テディがどうしてドニを守ったのかは追々ドニの口から聞けばいい。
「テディ、今度ゆっくりドニに話を聞くから、言わなくていいよ。それより体は平気?」
「テディさんが助けてくれたから問題ないよ……」
「そう」
ユーリアはドニに触れる事なくドニをテディに任せ、他の患者を見るためにその場を去った。
一通り生徒たちを会場内から移動できる程度に癒せば、生徒会と上級生は表彰式の準備を始めた。
優勝チームのトロフィーを受け取るのはルミドラ親衛隊のメンバーの一人だ。
ルミドラはまだ意識がなく、治療院にそのまま連れて行かれてしまったのだ。
「今年は大変だったけど、よく頑張ったのう」
学園長がトロフィーを授与すれば、ルミドラチームは涙を流していた。
嬉しさとルミドラの怪我の心配とが混ざり複雑な表情の者もいる。
学園長の隣に控えるドミニクは小さな声で語りかける。
「喜べ、笑え。ルミドラはお前たちのそんな表情は見たくないぞ……」
ルミドラチームの面々は戸惑いながらもトロフィーを手にし歓喜の雄叫びを出し始め、観客席の歓声も最高潮となった。
控え室である程度治療が終わった重傷者をどんどんと治癒院へと運び、最後の1人となったところでユーリアも治癒院へと移動した。
*
ヴァルヴィスト上空を少し西に行ったところ、女の姿があった。
「なんだか、拍子抜けだわ。ラディムがちょっかいかけてるみたいだから少し遊んでみたら……」
「だいたい姉さんはいつもと違う事するからこうなるんです」
「あら。文句があるなら今回の雇用主を責めてよ……。私は影から首を締め上げるのはとくいだけど、派手な動きは苦手なのよ。ヨウコ」
ヨウコと呼ばれた黄色の狐は何も言えず黙ってしまう。
「けど、この学園にビャッコがいるなんてね……。どこうろついてるのかと思えばきちんと主人決めて守ってるじゃないの……」
「バスロレーベの王族の1人ですか?」
「ええ、今回の依頼はまず学園の信用を落とすことと、第三王子陣営の護衛の娘の暗殺と、そして第七王子の暗殺でしょう?」
「へい、そうですね」
「まあ、学園は見せ場の対抗戦で魔術具が壊れた事と避難誘導をしなかった事、護衛の娘は大怪我合わせて再起不能。第七王子には西の護りがついていると分かれば、大きな収穫でしょう?」
ヨウコは完遂されていないのではと首を傾げているが、女は不適に笑う。
「ヨウコ、雇用主からの任務が全てじゃないのよ。狐ならラディムのように悪知恵を働かせなさいな……。楽しい方がいいじゃない? 殺すのはいつでもできるわよ?」
「そういうもんですかね? まあ、あのお方が楽しめるように展開にならばいいんですかね……。イルムヒルムはあまり楽しいものではなかったようですからね……」
「ヨウコ……。あなたは学園に戻ってエドラの補助を……私の前に暫く顔を出さない方がいいわよ?」
「へい、アルシェ様、引き続き諜報活動に徹します!」
ヨウコは余計な事を言ってしまい、女に睨まれたため踵を返しヴァルヴィストへと向かった。
「あの狐、ラディム様と同じ種族なのかしら? 知性を全く感じないわ。はあ、次は何して遊ぼうかしら……」
女は優雅に空の旅をして雇用主のいるバスロレーベへと飛んでいった。




