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チーム対抗戦の始まりとゲル婆

 冬のチーム対抗戦がやってきた。


 チーム対抗戦は学園の一大イベントとして生産クラスによる出店も出ており、他の国からまで見学者が来ていた。


 ここで騎士としてスカウトされる事もあるようだ。



 ユーリアはイーヴァル達に武術の指南をし、シェルトの魔術具作成まで手伝った。


 文化祭から人気が集まりつつあるアネットに、スランプであるガストンにそれとなく打ち合いさせて、元気を取り戻したり、クイスマが何度言っても大剣を離さないでみっちり指導してやったり、大忙しであった。


 当日である今日はチーム登録をしていたわけではないので、治療院のバイトで治療班として待機していた。




 元気な姿を出したのはジーグルドだ。ちらほらと他の一年生もいるようだ。


 皆腕を上げるべく訪れたらしい。



「ジーグルド、バイト先ぶり!」



 夏休み期間中にユーリアのバイト先を皆と訪れて以来、時々メイドカフェに友人達と訪れるようになっていた。


 ジーグルドは顔を真っ赤にさせて怒り、ユーリアにコソコソと話す。



「メイドカフェでの姿内緒なんだよね? 僕友達にユーリアの事伝えてないから、バイトの話はこれ以上しちゃダメだよ!」



 ジーグルドはそういうと、離れていった。今日は治療院スタイルで訪れているので、たぶん普段のユーリアとは結びつかないと思うが、念のためと言うことである。



「なんだか、私たちがやった模擬戦より激しいよね……」


「皆、内申点とスカウトがあるらしいからね……。必死なんだよ」



 本当にどの班もイーサク張りの策と火力で攻めまくっている。

 イーサクの時と違うのは術者の力量であろう。どんな策であろうと向上心の高いもの達の集まりなので、防いでしまう。



「おやおや、これがジーグルド君? いつも娘がお世話になっています。」



 講師兼治療院の臨時医術師のエルノが顔を出す。



「お父様はいいから、お仕事に集中してください!」



 ユーリアはエルノを追いやろうとすると、注意される。



「ユーリアも集中しないと……いっぱい来るよ……」



 ユーリアが会場を見れば、イーサクが策を練っている班が魔法を放っているところだった。


 ユーリアが最初は披露した綺麗な花火だったのだが、途中からは観覧客側まで広がる針の海へと変わった。


 エルノが治療班側の観覧口を防御魔法で封じ事なきを得たが、観覧客席側には被害が出たらしい。


 イーサクがまた破壊力と演出に凝った策が炸裂したらしい。


 戦場の負傷者はまだ戦える様なので、戦いを続航している。

 魔術具が壊れてしまった観客席側へと急ぐ。


 国の重鎮達は護衛が防いでいるので問題ないが、一般人にまで被害が出ている。


 被害が大きく、広範囲に渡っているようだ。



「ユーリアその数字の紙は?」



 エルノに質問されたためユーリアは口早に答える。



「手遅れの人は0。重傷者は1ですぐ治療に入り、2は1の人が居なくなったら処置、最後に3は本当に軽度の人! お父様も優先順位、紙に書いてって!」



 ユーリアは治療班にトリアージを説明して、皆で会場を回った。重傷者は数名いるが、命を失うものはいなかった。


 ユーリアは最後に残る3の人を治療していく。そこには1人のおばあさんがいた。



「おばあさん、怪我したの足だけ?」



 ユーリアが目を合わせて聞いたのだが、おばあさんは目を合わせずに脂汗を流している。


 ユーリアはおばあさんの体を、魔眼と微量の魔力で包み異常な体の流れがないか確認していく。



「大丈夫だよ! 次がひ孫の試合なんだ。見させておくれ! 何日馬車にやられてきたと思ってるんだい!」


「そっかあ。ひ孫さんが出るんだね! 巻き込まれちゃって災難だったね。今軽く見て足治療しちゃうから……」



 ユーリアの顔が一瞬固まった。そして笑顔を戻す。



「おばあさん。何かお薬飲んでる?」


「え、血の巡りを良くする薬は飲んでいるよ?」



 ユーリアはそっかというとおばあさんの痛覚を麻痺させる薬を足に塗り、話しかける。



「今ね、足の痛みを取る薬かけたから、痛みが楽になるよ……。私治癒魔法まだ習っている途中だから、サポートの人呼んでくるから、次の試合までこの試合見て楽しんでて?」


「なんだい、ここの生徒なのかい。まあ、緊急時って感じだ。仕方ないけど、次はきちん見れる大人の人を連れておいで!」


 ユーリアは父を探し会場で探知魔法を使った。父を発見するとひとっ飛びで向かう。



「ユーリアどうしたんだい?探知魔法まで使うなんて……」



 エルノは経験の浅い1年生の医術師達のサポートをしているようだが、話を聞いてくれる。



「おばあさん。痛み止めを患部に塗ってある。心臓の病併発する恐れあり。血液を薄くする薬を飲んでいるため、出血量も多い! 手伝って!」



「ユーリアが助けを呼ぶって……」



 ジーグルドが顔を暗くして呟く。すると、エルノが優しくジーグルドの頭を撫でて顔を覗き込む。



「ユーリアは助けるために僕を呼んだって事は手遅れではないって事だよ。まだ大丈夫。後は任せたよ」


 そう言い残し2人は音もなくその場から消える。





*


「今の動きって……」


「エルノ先生とユーリアってやつ、医術師の動きなのか?」


「あれが一流の医術師って事よ。シュペルノヴェイル屈指の治療院の名医……戦場をも駆け抜けて命を救い続けるヒールナイトの称号を持つものよ……」



 一緒に生徒達の補助をしていたヴィオラが教えてくれた。



「ヒールナイトって確か武術も秀でていないと呼ばれないんでしたよね。ユーリアがすごいのって……」


「家系的にすごいわよ。母親は凄腕の召喚魔術師。普通の魔法はもちろん召喚で従えた魔獣だけでなく、本当の意味で従える魔獣達も多数いたわ……」


「はあ、ユーリアは両方の血を濃く受け継いでいるという事ですね……」



 ジーグルドが遠い目になるとヴィオラが肩を叩く。



「あなたはとりあえず医術師を目指しなさい。戦いなんてもの本来騎士達に任せておけば良いのよ。

 我々は戦場後方で待機でいいの!

 戦場に立ちながら治癒魔法も行うなんてどれだけの魔力が必要か分かる?

 あの人達は並の人ではないわ。」


「僕も普通の人を超えなくては振り向いてもらえないという……」



 ジーグルドは自分で口走った言葉を慌てて止めて、ヴィオラを見上げた。



「大丈夫ユーリアとエルノには秘密にしてあげるわ。」



 ヴィオラはそういうと、その場にいる他の者達は皆ニヤニヤとジーグルドを見つめるのであった。





*


「おばあさん。大人の人を連れてきたよ!」



 ユーリアはエルノを連れおばあさんのところに戻って来たが、見た目では容態は変わっていなかった。



「足の痛みひいてきた?」


「ああ、ひいてきたよ。なんだいお前さんこの都市にいたのかい?」



 どうやらエルノとおばあさんは知り合いのようである。



「あら、ゲル婆まだ生きてたの?」



 エルノの言葉に頭を杖で叩かれる。



「生きてたのじゃないわー。これからひ孫の試合だとっととこの針を外せ」


「ゲル婆、歳なんだから興奮しないで、あ、この美人僕の娘なのー。綺麗でしょ。本当にクラウディアに似て綺麗なのー!」



 ゲル婆の目の色が変わる。ユーリアを凝視している。



「ほう、これがクラウディアの子か……。多くを受け継いでいるようだな……」



 意味深な顔にユーリアの表情が固まり、エルノは間に入って笑って見せる。



「魔力使わないの。ゲル婆今結構危ないの。薬のせいもあるけど、歳考えてね……。不老の魔法使い続けて御歳何歳か分からないけどねー」



 おばあさんのかわりに頭を叩く。



「女性に歳のこと言わないの。おばあさんすぐ取りたいんだけど、結構体に負担のかかる治療になりそうなの」


「お主、最初からワシの症状が分かっていたのだろう。だからエルノを連れてきたというわけか……。まあいい治せ!」



 本人の了承を得た上で、ユーリアは足をエルノは心臓付近に触れて魔力を流していく。


 おばあさんは大きな発作が起きる事なく、元気に治った。



「さすが、クラウディアの娘じゃー。腕がいいのう。」


「僕の娘でもあるんだけどな……」



 ゲル婆の言葉に少し傷ついたように、影を落とす。



「経過観察は私がやるわ。おばあさんお孫さんの試合が終わったら、治療院に向かいましょうね! お父様、ありがとう」



 ゲル婆はエルノが去ると隣の席に座るよう促してくる。



「スザクの子よ。お主に力を残してスザクは散ったという事じゃな?」



 ユーリアは深く頷く。



「そうよ。私のせいで死んだと言っても過言ではないわ……」



 ゲル婆は笑う。



「それは違うぞ、娘よ。クラウディアはあの腑抜けと連れになる事を選んで、お前に全て託したんじゃ。自分はこの男と添い遂げるからとな……。魔力が多すぎて自由に死ぬ事もできんよ。」



 ユーリアはゲル婆を見る。ゲル婆の正体がわかった気がしたからだ。



「まあ、お前を守りたいという母性から、お主に魔力を注ぎ込んで産まれたんじゃろうがな……」



 ユーリアはゲル婆を見て微笑むと会場を見つめた。

 イーサクがまたあの花火を打ち上げたのだ。


 ユーリアは指をパッチンをすると会場席側に落ちてくる針を全て溶かしてしまった。



「お主はまた、派手に魔法を使いよる。はあ、エルノに似たのかのう? その思案のなさは……」


「私の魔法に気づくってことは相当な使い手でしょう?」



 ゲル婆が「違いない。」というと2人は笑い合った。



 イーサクは破れ次のチームが会場へと入場する。



「そういえばひ孫って誰なの?」



 ゲル婆が指差したその先にいたのはユーリアも見知った人だった。



「え、シェルト先輩なのー?」


「そうじゃよ。決して、戦う訳ではないが、あやつの作った武器が力を出すのだろう? あやつがやりたい事を家の誰か1人は見届けなければなあ」



 どうやら、ゲル婆は若かりし頃、執事姿のイケメンに惚れて身が老いる事になったらしい。

 恋は盲目、そして自由なのじゃと名言を残しつつ、ゲル婆は模擬戦を見ていた。



イーサク 第25部に登場した。体術クラスの1年生でジーグルドを大怪我させる策士です。

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