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治療院のバイトと父との心配

テディにもらった鍵をようやく行使した父の登場です。

 朝起きればベットに温もりを感じる。

 テディかと思い抱きつけば、あの男がそこにいた。ユーリアは飛び起き、その男の頭をとりあえずピシッとたたき朝シャンをしにいった。 



「最悪……」



 ベットから起きな朝の男を尻目に、ユーリアはまだ帰らないテディの分の朝食も作った。



「ん〜、いい匂い。ユータンの朝ごはん!」



 飯ができれば、起き上がってきてモシャモシャと食べ始める。



「鍵どうしたの?」


「あ、テディにもらったよー。美味しいな!」



 ユーリアはため息をつき、自分の分の食器を洗った。

 男は自分の分の食器も持っていき、ユーリアに洗ってもらう。



「ねえ、ユーリア頼むよ。今回はあまりお金貰えてないの……。このままだとパパは誰かに拾ってもらうまで路上生活になっちゃうの……」



 エルノが小芝居を始めたことにさらにユーリアは鬱陶しくなり、同居する事を許した。



「今学期いっぱいだからさ。とりあえずは……」



 そう言われるとユーリアはエルノを置いて先に登校した。





*


「最悪ー」


 ユーリアは学園へ着くなり、机に突っ伏し一人嘆く。

 ティナとドニはその様子にユーリアのそばにやってきた。

 ユーリアは朝の惨事を皆に説明する。



「それは災難というか……驚くね」


「ユーリアのお父さんはいいじゃない。普通にしてたら、イケメンよ?」



 ユーリアはティナの言葉に首を横に振る。



「朝から酒と女の香水の匂いがする父親ってどうなのよ?」


「んー。ユーリアのお父さんならおかしくないというか……。でも娘のベットに入ってくるなんていいじゃない! 仲良いのよ。」


「そう、思えないよ。それこそトラウマだよ。」



 トラウマという言葉にドニは反応する。



「トラウマって……」



 ドニの言葉にユーリアは誤魔化す。



「ドニはああいう男になっちゃダメだよ。いつか裏切られて刺されて娘の世話になるようになるんだから……」


「なんとなく、分かったよ……。僕はそういう風にならないよ……。絶対に」



 ユーリアとドニは遠い目をする中、ティナはニヤニヤと微笑んでいるのであった。





*


「はあ」


「どうしたんですか? ユーリア先生?」



 治療院のバイトに入れば、実戦経験の浅い治術補助の生徒であるヘルミが話しかけてくる。


 彼女は実戦経験は浅いが学年では4年生にあたるので年齢的には先輩である。

 だが、錬金コースの1年生である事は伝えていない。



「いや、なんでもないです。少し気が重いだけで……」


「大丈夫ですよ。今日は人数が少ないですが、夜勤はアンセルム先生もいらっしゃいますし……」



 アンセルム先生は治療院の常駐医術師の1人で、この治療院の中でも救急医療に長けた男である。


 だが、ユーリアの心配事は父親の事で仕事の事ではない。



「急患が来ないには越した事ないですけどねー」



 今日の勤務時間は0時までである。

 確かに若干上の空のため来ない方がいいが、そうも言っていられなかった。



「ユーリア先生。急患です。アンセルム先生が緊急施術中ですので対応お願いします!」



 医術補助の女性が来たところで、ユーリアは診療室へと急いだ。



「先生、この女の子さっきまで意識を失っていたようで……保護者の方は後から来ます。」



 必死に10歳前後の女の子を抱えているのは、イーヴァルだった。


 話を聞くとたまたま街中を走り疲れて、息も絶え絶えな夫婦を見つけ、身体強化を使って一足先に来たらしい。



「親御さんがいないって……とりあえず、ベットに寝かせて下さい。」



 ユーリアは緊急という事で、まずは女の子の容態から確認する。



「呼吸はありますね……。脈も異常なし……。となると」



 ユーリアが軽く女の子の体に魔力を流す。



「とりあえず後はご両親が来てからですね……。後はアンセルム先生の判断を待った方が無難か……」



 ユーリアは女の子の傍の椅子に座り、イーヴァルに話しかける。



「いいですか、イーヴァル先輩。緊急時とはいえ、意識の失った子供を身体強化を使ったスピードで運ぶのは危険です。

 今回は無事ここまで辿り着けましたが、下手したら患部に負荷をかけて大変な事になりますよ……。」


「はい。……この声にその眼鏡って……ユーリアちゃん?」



 イーヴァルは驚く。ユーリアはここでもまた別のウィッグをし、眼鏡をかけ変装していたのだ。



「ええ、そうです」


「また、化けてるね……」



 イーヴァルの言葉にため息をつきながら、女の子の額に手を当てる。



「先輩と会う予定はありませんでしたから……」


「そうだよね。ここでバイトなんて錬金コースだと大変だよね……。それでこの子大丈夫なの?」



 ユーリアは首を横に振る。



「今は容態は安定しているので大丈夫ですが、このまま放置するのは危険です。

 この症例だと私にもなんとも……常勤の先生に一度伺ってみたほうが確実ですが、とりあえずご両親が来るまで待ってみましょう」



 ユーリア達はイーヴァルと共に、両親が治療院に来るのも待った。




*


「む、娘はここですか?」


 ずっと走ってきたのだろう。息も切れ足に手をついて限界ギリギリの様子で、両親が診察室へと入ってきた。

 後ろにはシェルトが控えている。



「この子のご両親ですね? 今は容態は安定しています。」


 両親はほっとしたのか体の力を抜き、しゃがみ込む。

 ユーリアは椅子を勧めて座らせると、話を聞き始めた。



「娘さんは最近よく気を失ったり変調を伝えていましたか?」


「頭が痛いと言うことはありましたが、気を失ったのははじめてなのです。」



 ユーリアは「そうですか……」と呟くと、女の子の頭を撫でる。女の子は気持ち良さそうにニコッとして眠りについている。



「詳しい診察方針は他の医術師と相談してになりますが、頭に魔力の塊が出来ています。」


「魔力の塊ですか?」


「うちの子に魔法が使えるんですか?」



 両親は我が子が魔力持ちである事を知らなかったようだ。

 2人とも驚いて顔を見合わせている。


 そんな時診察室にエルノが入ってきた。



「話は聞かせてもらったけど、ご両親はご存知なかったのですね……。

 魔力回路は血縁で継承されますが、必ずしもと言うわけではありません。

 片方の親が魔力を持たない場合、その子も魔力回路を持たないで生まれてくることもあります。」



 娘の父親が思い出したかのように呟く。



「そういえば、うちの曽祖父の母親が魔力持ちだったとは聞いているな……」


「ユーリア、魔力持ち同士でも必ずしも魔力持ちが生まれるとは限らない。どこかで魔力持ちでないものが家系に混じっていれば、そちらの傾向が出ることもある。」



 ユーリアは先祖返りや遺伝子を思い浮かべて頷く。魔力については劣勢遺伝子という可能性が高い。だから魔力持ちの人数が少ないのかと納得する。



「お二人が魔力を持たないのであれば、兆候に気づかなかった可能性はありますね……。失礼、私にも見させて下さい。」



 エルノは少女の額に手を触れて魔力回路を確認している。



「んー。魔力の塊が脳にあるのか……。幼い子には負担になるな……」



 エルノは両親に魔力の塊を治癒魔法で体の負担にならないように徐々に小さくしていく治療方針を伝えた。


 とりあえず、今日は治療院に入院する事となり、明日本人の目が覚めてから、再度両親の了承を得て治療を開始する事となった。





*


 治療院の待合室では4人が集まり、小休憩をしはじめた。



「お父様なんでいるのよ!」


「ふふ、僕は今日深夜番なの。早めに来てたら、急患入ったからそっちの手伝いしてたんだけど、ユーリアがピンチだって話が来てね!」



 その親子の様子を見てイーヴァルが笑う。



「本当にお二人は仲良しで羨ましいですね。ね、シェルト?」


「ああ。」



 シェルトの表情は前と違い明るく、2人の中が元に戻ったことがよく分かる。



「イーヴァルも父親とこうなるといいな……」



 シェルトの呟きにイーヴァルは嫌な顔をする。



「ねえ、シェルト。それは関係なくない?」


「男の子だからねー若い時は父親なんて鬱陶しいだけだよね……」


「お父様の場合は現在進行形でしょ? おじい様の話なんてほとんど流しているじゃない」



 イーヴァルはクスクスと笑うと頷く。



「うちの父とは本当に分かり合えないんですよ。あの頭でっかち!」


「だよねー、僕も分かる。子供持てば親の気持ちがわかるって言うけど今だにわからないもん」



 2人で共鳴し合っているところで、ユーリアとシェルトはため息をつく。



「お、お二人さん気が合ってるようだねー! でもうちの子はやれないよ。お嫁になんていかせないからー!」


 エルノはユーリアに抱きつき、頬擦りし始める。

 ユーリアは表情が死んで、されるがままになっている。

 抵抗する気が起きない。



「聞いてよイーヴァルくん。ユーたんはひどいんだよ。ディオンやテディとはお風呂入ってくれるのに僕とは入ってくれないんだ……」



 ユーリアは無表情のまま事情をイーヴァルに話しかける。



「兄様とは両親が外出している時にジェルジュがごねた時に入ってるだけだし、テディは猫型で入ってるんです。なんでこの歳になって父親とお風呂に入らなきゃいけないんですか……」



 イーヴァルとシェルトは「テディさんとも入ってるの……」と驚いているが、魔獣だし昔から入っているので気にしない。



「ディオンさんはしょうがないとして、テディさんはアウトじゃない?」


「ユーリア人型の事を想像してみろ……いや、まだ心は幼いのか……」



 シェルトの呟きにエルノはため息をつく。



「幼いのか幼くないのかよく分からないよね……テディと入れるなら僕とも入れるじゃない。最後に一緒に入ったの5歳だよ! しかもクラウディアと一緒にだし!」


「私が新しいお母さんの邪魔するのはいけないでしよ? 自分だって何も言わなかったくせに……。今更どうのこうの言われても入る気になれません」



 シェルトは2人の言い分にため息をつき、イーヴァルはポンと手を打つ。



「そうだ。今度の休み期間は温泉でも行ってくれば?うちの地元の方雪深くなっちゃうけど、それはそれで絶景だよ!」



 エルノは大喜びでイーヴァルの手を取り喜ぶ。



「それなら、いーね。僕は仕事ってことになってるし、2人だけでデートができる!」


「そういうのはビルギッタお母様として下さい! 私は当直室に戻ります。」



 ユーリアはエルノを払い除け、2人に挨拶するとさっさと行ってしまった。

 エルノは肩を竦めると、2人に言う。


「ユーリアも複雑な子なんだよね。父としては彼女をしっかり身も心も守ってくれる人がそばにいて欲しいものだ。

 喧嘩に巻き込むような男は言語道断だよ。」



 エルノはそう言い残すと2人に帰るように告げ、自分も当直室へと戻った。





*


「ゆーたん待って〜」


 走ってユーリアに追いついたエルノは、ユーリアに後ろから抱きつき満足しながら歩く。



「重い!」



 ユーリアが怒っても聞く耳を持たず、離れない。



「ユーリア。君には僕がいるからね。どんな事があろうとも守るから、パパのお嫁さんになるって言ってー! じゃないと離さない。」



 ユーリアは肘打ちしてエルノから距離を置くと、舌を出して逃亡を謀った。



「誰が言うもんですか! わたしは一生誰とも恋愛なんてしません!」






「それはそれで不安なんだが……誰かよりかかれる人間がそばにいないのは辛い事なんだよ? ユーリア」


 エルノは嬉しいような悲しいような複雑な気持ちで、ユーリアの背中を見るのであった。



父はユーリアが男2人の喧嘩に巻き込まれたと知って心配です。


ちょうど二人に会えたので雑草駆除も踏まえています。

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