突然の父の来訪と婚約者不明の謎
「ユーリア、泊めてー!」
チーム対抗戦の指導とバイトで忙しい中、押しかけてきたのは我が父エルノである。
「パパね。ここの治癒院で働く事になったのー。で、アパート見つかるまでは、ホテル代もったいないから泊めて欲しいの」
ユーリアは睨む。自分の働いてる先でも会うというのに、家までこの過保護な父親と一緒にいなくてはならないなんて耐えられない。
「ベット一つしかないから無理」
「大丈夫だよ。ソファでも床でも寝れるから……僕これでも冒険者だったんだから……」
「嫌なのはイヤ!」
始業のチャイムがなる。
「授業始まってるからー!」
そう、学園内の廊下で捕まっていたのだ。
泣きついてくる父を引き剥がそうとしていると、ヴィオラがこちらにやってきた。
「エルノ先生、全く……これから授業なんですから……。ほら、ユーリア行っていいわよ」
「イヤだ。泊めてくれないと授業行かない!」
ヴィオラは何がエルノに囁くとユーリアから離れる。
「まさか、先生父が講師でもやるんですか?」
「そうよ。三学期が終わるまで医術の臨時講師をされるわ。もちろん治療院の夜勤などもされる予定よ」
ユーリアは頭を抱えて、エルノを見た。
「また、放課後に迎えにくるからね。今晩はパパとご飯ね!」
「エルノ先生今晩は懇親会ですわ。諦めてください」
ヴィオラはエルノを引っ張っていくと、ユーリアは急いで教室に戻るのであった。
その後はエルノを校内で見かけたり、治療院のバイト先であったりしたが、何のためにここへ訪れたかは聞かせてもらえなかった。
*
「にしてもエルノ今回はまた急ね……」
「ああ、一応学園長からは話が来ているのだろう?」
「闇組織に不穏な動きありね……」
「目撃証言がある都市で情報収集するのはベストだろう?」
ヴィオラとエルノの二人は、学園都市のバーで酒を飲んでいた。
「正直にユーリア様がご心配だとおっしゃればよろしいのに……ブラストックにございます。」
テディの夜のバイト先でもある。エルノはテディから赤い酒をもらい、飲む。
「それで、テディ君。アイツらの情報は?」
テディはグラスを磨きながら答える。
「まだ、派手な動きは見えません。魔石を買い集めている程度なので犯罪の匂いはまったくありませんよ。キメラの反応もありません」
テディの話に安堵するエルノと、その様子を見て微笑むヴィオラがいた。
「あなたがこんなに子煩悩だとはね……。ユッカが見てたら大笑いよ。人の事馬鹿にしておいてって……」
「そうかもしれないね……。ディオンも元気にやってるよ……。ユーリアがこっちに来たから、跡継ぎ争いからも外れて自分の研究に身を注いでいるよ」
ヴィオラはため息をつき、エルノを見る。
「ユーリアの婚約者が正式に決まらなかった理由はそこにもあるのでしょう? 新しい奥さんの子供が魔力持ちって分かって良かったわね……」
エルノもまたため息をつきグラスを一気に空けた。
「それも問題なんだよー。うちの娘が学園から帰ったら嫁ぐ方向に話が移行してきてね……。ヴァイセル君辺りならまだ良かったけど……」
「ユーリア様がひどく拒まれてしまいましたからね。まあ、今回は全てタイミングが悪かった。
ジェルジュ様の魔力持ちと分かるのが学園に旅立つ直前であった事と、ユーリア様の誤解がありますからね……」
テディはエルノにチェイサーを出し、エルノは睨む。
「まだ飲めるよ! んー、ユーリアがまさかヴァイセル君と陛下の仲を疑っていたとは思わなかった……。未成年っていうだけでなく、ディオンとの婚約話も派閥の中であった中、対外的にヴァイセル君のことは教えられなかったからね……。内々に事を運び過ぎたよ……」
「本当です。ユーリア様はヴァイセル様のことをずっと幼少よりお慕いしていたというのに……。どれだけ傷ついて来たことか……」
テディはわざとらしく目線を下げ悲しみを演出している。ヴィオラはそれを見て笑うとテディに聞く。
「あなたなら、ジェルジュが魔力持ちと分かっていたんじゃないの?」
魔眼では人の魔力回路は初めて魔法が出現し、魔力が通り始めてから明らかになるため、見分けがつかないのだ。
しかし、上位の魔獣であるテディには人の感覚とは違う可能性がある。
「いえ、私も皆さんと同じですよ。魔獣と言えど万能ではございません。
分かっていればユーリア様にお教えしております。」
エルノはため息をつき、ヴィオラに言う。
「テディ君はユーリアの命令でないと動かないよ。召喚魔獣だからね……。
ユーリアに毒を盛った今の奥さんのこと暗殺しそうになった時はびっくりしたよ。
6歳の女の子がこのテディ君を止めたんだからね……」
「ていうか、あなたの奥さんって……」
「ハルットゥネン家の三女だよ。元から僕にって話があったけどクラウディアがいたからね……」
「ああ、それで……確かその家ってクィントン家と並んで裏稼業に手を染めているわよね」
「そうなのですよ。全くわざわざ敵視されているあんな危険な家の女と、結婚されるとは思わなかったですよ。いくらクラウディア様の真相を知るためとはいえ……」
エルノは首を横に振り、テディを見る。
「それだけが目的じゃないさ。ユーリアの事を守るためにも強い女がそばにいてくれると安心だったからね……。ユーリアも分かっているのだろう?テディは過保護なんだよ。」
「過保護と言いますが、同じ暗殺稼業の娘として育てるために、何回も命の危機に晒す必要はありますか?
ユーリア様はそれが分かっていますし、ジェルジュ様が、跡取りになる事をお望みですから、私は何も動きませんが……」
「そうだよ。彼女はきついけど、全てはユーリアを思ってなんだ。嫁がせようと必死に動いているのも本人が家に残る事を望まないし、女が稼業を継ぐ重みを知っているからこその動きなんだ……」
テディはそれにしては追い出そうとする匂いがプンプンとしますがと小声で呟く。
エルノはため息をつきテディを見つめた。
「テディ君。ビルギッタを嫌っているのは分かるが、ユーリアはある意味ビルギッタに賛同したいる。
アイツが学園に旅立つ時に言った言葉知ってるか……」
テディは首を横に振る。
「私が帰ってくるまでにきちんと派閥をまとめ上げて下さい。でないと私は今度こそ自由を失ないます。だとさ。思い出しただけでこっちは胃がキリキリするよ。」
ヴィオラはテディに言って、エルノに再びチェイサーをもらうと、エルノの背中をさすり話し始める。
「ユーリアも結構言うわね……。まあ、殺されそうになったり、婚約話を持ち出したのは新しい奥さん側って事だったから、ユーリアの柵を作っていった一人という事にはなるのでしょうけれども……」
「私はあの方が嫌いですから、仲を取り持つのはエルノ様のお仕事です。
まあ、ユーリア様も一定の距離感を保たれているようですから、問題はないでしょうが」
テディは冷たい視線をぶつけると、エルノは胃を抑えて水を飲む。
「まあ、いいんだ……今は妻もいないしユーリアにいっぱい甘えられる。ね、テディ君お願い僕をユーリアのお家にー!」
「ご自分でご説得されて下さい。わたしは一介の召喚魔獣ですから……」
「テディ君冷たいって事で、今晩はヴィオラのお家に泊めさせてー」
エルノがヴィオラの手を取ろうとすれば、ヴィオラは払い除ける。
「あら、エルノ今日はホテルに泊まりなさい。
それとも数々の浮名を流していた事、ユーリアに教えて差し上げましょうか?」
エルノはものすごい勢いで首を横に振り、テディに話しかける。
「ユーリアのお家の鍵貸してよ……ユータンと寝る〜今日は皆にいじめられたから……癒されたい」
「まあ、今日だけですよ?浮名とやらをまた作られても困りますからね……」
テディ指を金属に変えると形を作り、エルノに渡す。
「テディ君っていつもこうやって合鍵つくってるの?」
エルノの驚きの声にテディは頷く。
「便利ですよ。鍵なんて無くてもどこへでも入れます。その鍵は一回使うと効力を失いますから、明日中にユーリア様を説得してくださいね……」
テディの黒い笑みにエルノは明日からホテル暮らしになりそうだと感じた。




