後夜祭での演奏とダンス
ユーリアとルーカスは楽器を持つ上級生のもとへと向かった。
「おい、誰か我々と変わりたい奴はいるか?」
20名ほぼ半数が挙手をする。ルーカスが即席で地面にあみだくじを作り、変わる人が決まった。
「よし、お前は笛な。俺はこっちだ。」
ルーカスは大きな弦楽器に手を伸ばす。
ユーリアは金属でできた笛をとり、音合わせをしていく。
「お前は楽器も演奏できたのか……」
そこにいたのは生徒会のダーヴィだ。
ユーリアは頷き、ダーヴィは呆れている。
「お前、ランキングに入ったから逃げてきたんだな……。別に女の子とくらい踊ってあげればいいだろう?」
ユーリアは首を横に振る。
「あの勢いだよ。イーヴァル先輩達2人に任せておけば大丈夫だよ。なんならほら、何故か生徒だけのはずなのにテディまで囲まれてるし……。全てはプルム先輩のせいだー」
「確かにな。ドミニクはルミドラ以外踊らんし……。お前の友人達も凄いことになってるが……」
「大丈夫。今から騎士の登場だよ」
ユーリアがクスクスと笑うと、ティナにはベネディクトがダンスを申し込み、アネットにはガストンがそばに寄っていく。
それぞれ一曲目はナイトに守られるようだ。
「ベネディクトのやつティナといい感じだよな。さっさと告白すれば良いものを……」
「ふふふ。鈍感さんはモヤモヤしてればいいよ。」
ユーリアの言葉にルーカスとダーヴィがため息をつく。
「数々の男を誑かしといてそれか? 人気投票で猫娘に票が集まったというのに、その格好で現れて……」
ダーヴィがしまったと口を覆った。他の上級生もこの場にはいるのだ。
「待って、それどういう事! 男なの女なのどっち?」
「そうだ。女が本当の姿なんだよな?」
「いえ、男よね?」
女性の上級生が調整した楽器を置いて、触りまくってくる。
「この腕といい、胸といい、この筋肉残念ね……」
「——猫娘の胸は本物だったぞ!!」
「作り物よ! クラスの出し物のために騎士様は身を犠牲にしたんだわ……」
ルーカスが「はあ」と、ため息をつくと2人の間に入る。
「どっちでも今はいいから曲を流すぞ? 会場の準備が整ったようだ。」
「「よくない!」」
今度は複数の生徒からルーカスが睨まれる。ユーリアとルーカスがダーヴィを睨むと、ダーヴィは手を合わせ謝ってくる。
ユーリアはなかなか始まらない音楽に、ザワつき始めた会場に向けて一人で演奏を始める。
その音色に続けてダーヴィとルーカスが、そして他の面々も続いて音楽を紡いでいく。
「あれ、騎士様いないと思ったら楽器を演奏されてるわ?」
「いやー、ダンス申し込みたかったのにー」
悲鳴が上がり、見物客が寄ってくる中、ユーリアは会場に向けて魔法を放った。
フワフワと光が遊ぶように、踊っている面々の頭上を照らしていく。
ユーリアは曲間に自分のウエストポーチから香水を取り出すと、水魔法で薄めてアロマとして周囲に香りを振りまいた。
「なんだか、いい香り。うっとりしちゃうわ……」
「ねえ、誰かに申し込みましょう。あの中で踊ってみたいわ!」
その様子を見ていたダーヴィは若干引いている。
「お前、自分がやりたくない事には必至だな。」
「よく言われますよ。けど、お嬢様方を楽しませるために一役買いたかっただけですよ。せっかくのダンスパーティーなのですから……」
ユーリアの言葉にダーヴィは呆れて、ルーカスは褒めてくれる。
「今年は何人も踊らなくてすみそうだな! お前の手柄だ」
「あれ、ルーカス先生は踊り上手なのに踊らないんですか? 女の子も大好きじゃないですか?」
「あれ、そういえば去年は喜んでダンス申し込まれてた記憶が……」
「ダーヴィ、日常生活もしばらくストーカーされて自由がなかった。夜の街に繰り出した事すら漏れてるんたぞ……。ヴィオラ先生情報だが……」
ルーカスの遠い目にその場にいる男全員が同情した。逆に女生徒からは引かれている。
*
「あ、いたー! 二人とも逃げてずるい! さあ着替えるわよ!」
ユーリアはティナに引きずられ、ルーカスもついでに連行される。
ユーリアは何故かドレスに、ルーカスはヴァルヴィストの騎士服に着替えさせられる。
「へへーん。二人とも逃げ出した報いを受けるがいいわ!」
どうやら、ユーリアはソル先輩協力の元、リュリュの来ていた服を少し寸法を直して着させたようだ。
ルーカスはユーリアのウィッグを取ると、切羽詰まった顔で見る。
「ユーリア女除けになれ!」
「んー、私も知らない人とダンスするの嫌かも」
ティナの見ていないところで握手を交わすと、ティナに連れられダンスフロアへと向かう。
*
会場に出れば、堂々とティナを尻目にルーカスはエスコートしてダンスを申し込む。
ティナはキーと言いながら、ベネディクトに宥められている。
一曲踊れば、今度は女性を引き連れたイーヴァルが来た。
「ずるくないですか、ルーカス先生。ほら、ルーカス先生が戻ってきたよ皆ー!」
するとイーヴァルに擦り寄っていた女性陣の目の色が変わりルーカスに近寄っていく。
「全く抜け駆けはよくないなー。ねえ、踊って下さいませんか?」
「こら、イーヴァル!」
遠くからルーカスの声が聞こえるが、他の男性が近づいてきている中、ユーリアはイーヴァルの誘いを受けるしかなかった。
「ふふふ。やっと踊れるね……ユーリア」
踊りながら耳元で囁かれ、ひゃっと声をあげてしまう。
「文化祭で見た中で今日の姿が1番可愛いよ!」
イーヴァルは笑顔になると、一曲踊り終えた。
怒涛のように男の人がユーリアに詰め寄ってくる中テディが近づいてきた。
「そろそろ、お時間では?」
テディが言っている時間というのは花火を打ち上げる時間だ。
ユーリアは辺りを見渡しても人の群れでティナが見つからない。テディはユーリアを抱き上げると一気に上空へ上がる。
その場にいた人達には消えたように見えただろう。
「テディありがとう」
「いえ、ティナ様の魔力からすると、もう控え室にいるようですね……」
「そっかじゃあ控え室の方に!」
*
テディはさっとユーリアを生徒会控え室の前の扉に置き、自分は猫型になった。
扉を開ければティナとベネディクトがいて、慌ててこちらに来る。
「ユーリア来ないかと思ったよー! 男達の中に投入したのは私だけど……」
「本当だよ。私も焦ったよ。ティナを探すにも人、人で……」
「ふ、私だって男の人にめちゃくちゃ言い寄られて……。でも貴重な経験ができたかしら……」
ティナはベネディクトに視線を移せば、ベネディクトはそっぽを向いて顔を赤くして部屋を出ていった。
「じゃあ、プルム先輩が来るまで待とっかー。テディさんの猫姿久しぶりー」
ユーリア達はおそらく二曲分待っているとプラムが控え室に来て呼ばれた。
ユーリアは騎士の姿に着替え済みだ。
ユーリア達はこっそり舞台の上に上がり、スポットライトを浴びる。
二人は剣とロットを天に掲げ、盛大に花火を打ちまくった。
「騎士様最高!」
「猫娘〜!」
生徒会の面々が横に並び歓声を浴びながら、後夜祭は幕を閉じた。
後夜祭の翌日はカフェメンバーで打上げをして、その翌日はクラスみんなで打上げをした。
とても充実した学園生活を迎えた後、問題は起きた。
「猫娘はどこだー?」
「騎士様は?」
ホームルーム前の時間に人がクラスに押し寄せたのだ。
ルーカスが介入してやっと難は去ったが、恐らくしばらく続くであろう。
1週間後になるとだいぶ落ち着き、ユーリアは正体を隠し通すことができた。




