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学園祭の終わりの来訪者と後夜祭のはじまり

 元婚約者と父の訪れで、忙しない1日が終わり、残すは最終日文化祭と後夜祭である。


 文化祭では最終日は出し物は15時まで、前半が猫娘で案内とカフェ店員をし、後半が騎士で案内役をやる事となった。


 前半の猫娘の時に問題は起きた。

 シュペルノヴェイルの公爵家の息子マリアンがユーリアのクラスに訪れたのだ。



「あ……」



 ユーリアの姿を見つけると、ほうけた顔になり突如動きが止まってしまったのだ。


 後ろの初老の執事と護衛と思われる型のいい男性に肩を叩かれて正気に戻る。



「これはこれはまた一段とお美しいお姿を……」



 マリアンはユーリアの手の甲に口づけすると、ニヤリとユーリアを見つめる。


 ユーリアは背筋に悪寒が走り身震いし、サッと手を引っ込めてしまった。

 気を取り直してユーリアは引きつった笑みを浮かべる。



「カラティアラ公爵家のマリアン様遠路遥々ヴァルヴィストまでお供の方を連れて、学園の見学ですか?」



 ユーリアが当たり障りのない質問をすれば、ユーリアの引っ込めた手を再度握り直し、ニヤニヤと笑みを浮かべている。



「今日は本当にここまで来た甲斐がありましたよ。惚れた女のこんなにも美しい姿が見れるなんて……。いつものご令嬢の姿もそそるが、これは一段と……」


「それで、用件は?」



 ユーリアは耐えきれなくなり、話を切る。

 それを肩を竦めてマリアンは話し始める。



「ご婚約者の方と正式に破談となったと聞きましてね……。他の虫が寄り付く前に、僕の気持ちを伝えに来たのです。この後お時間はいただけますか?」



 嫌な雰囲気である。後ろで並ぶお客さんもヒソヒソと話をしている。ユーリアはより一層笑顔を深めるとその話を断る。



「お話をお聞きしたいのは山々ですが、今はここを離れる訳にはいきませんわ。たくさんのお客様をお待たせしているのです」


「そうだそうだー!」



 猫娘の登場時間を看板に記載して宣伝してあるだけあって、男性の面々が多い中周りからマリアンにブーイングの嵐である。



「では、また時間を改めますか……。休憩時間はありますか?」


「今日は文化祭が終わった後は、後夜祭があるのでそれまでは友人達と過ごす予定なのです」


「じゃあ、明日は学校が休みなのでしょう? お時間を下さい。僕は話ができるまで帰りませんよ」


「じゃあ、僕がその話聞こうかなー」



 突如マリアンの背後の護衛の膝が折れ、腕を拘束されると大きな体の横からひょっこりとエルノが顔を出した。



「これはこれは、エルノ様……いえ、僕は……」



 マリアンは振り返ると目が泳ぎ出し、ユーリアの手から離れた。



「なんだか大事な話みたいだし、娘が忙しいようだから僕が聞くよ?」



 笑顔で話しかけているが、圧をかけている。



「いえ、その……」



 ドスンと音がすると目にも見えない速さで手刀を喰らった護衛がその場に倒れる。


 ヒィと声を出してマリアンが怯え始めると、ヴァイセルも現れ、執事に耳打ちした。



「御坊ちゃま、今日は帰りましょう。皆様お騒がせいたしました」



 執事が頭を下げてマリアンを連れ出そうとすると、小柄なエルノがよいしょと護衛を持ち上げる。



「なんだか、彼も具合が悪いみたいだから、僕が宿まで送ってあげるよ。ヴァイセル娘の手に悪いバイ菌が付いちゃったみたいだから除菌しておいて……」



 エルノはそう言葉を残すと大男を笑顔で担いで、小物感溢れる2人の後について行った。



「全く、あの阿呆は迷惑をかけて、ごめんねせっかくの文化祭が……」



 ヴァイセルはポケットからハンカチを出すと、ユーリアの手を拭く。


 そして、自分のウェストポーチから小瓶を取り出すとユーリアの手首に一滴垂らす。



「僕の香水で悪いけど、あいつの匂いよりマシでしょ?」



 ユーリアは顔を赤くさせると、ヴァイセルは微笑む。



「まさか、父さんたちが来てたのって……」



 ヴァイセルは首を横に振る。



「カラティアラ家の当主の息子の動きもあってここに来るのは早まったけど、元々はエルノさんがお忍びでここに来ようとしてるのを、陛下がついて行くと言い始めてね……」



 ヴァイセルが遠い目をする。ローラントも学園長と知り合いらしく、ついでにヴァルヴィストにいる知り合いに会いに来たそうだ。

 ヴァイセルは護衛兼エルノの暴走を止める役を担っているそうだが、なかなか難しいと言っていた。

 ちなみにエドガーは国防のため居残りだそうだ。



「近いうちっていうのは今日のつもりじゃなかったんだけど、また会いに来るからね……」



 ヴァイセルはユーリアの顔を見つめると、手の甲に口づけをした。


 ユーリアの耳元で消毒と言って笑顔を見せると、手を振ってエルノの向かった方へと早足で去っていくのであった。


 何人かいた女性陣が黄色い声を上げている。



「きゃー。王子様みたい!」


「俺の匂いで上書きみたいな……」


「うおー、あんなスマートな女とのやりとりしてみてー」


「猫娘ご令嬢だったんだな……婚約破談って事は狙えるって事だよな……」


「バカ、お前あんなイケメンに勝てるか……」



 場は騒然となり、放心状態となったユーリアは、中から顔を出したティナによって正気を取り戻しゲームの案内役として作動し始めるのであった。






 ユーリアはその後も怒涛の勢いで来る客を捌き長かった文化祭も終わりを迎えた。


 最後の客が帰るとクラスの出し物を早々とみなが座れる程度に場を片付けて、残った飲食物で小規模な打ち上げを行った。



「それにしても、ユーリア変幻自在だな……。男も女も魅了するとはこの私と同じではないか……」



 ステンが嫉妬の目で見てくるが、無視する。



「猫娘の姿もいいけど、アレは間近で見ちゃうと目に毒だよね……」


「分かるぞ。俺実はさ、ジーグルド呼んだんだけど医術クラスの奴らとカフェの出口から姿を見て逃げ帰ってったぜ」


「刺激がジーグルドには強かったという事ね……。来年は1年生も取り込めるような衣装にしなきゃか……」



 ドニとヤンが騒ぐ中、ティナだけは違う観点から見ているようだ。



「俺はアネットがずるい。ガストンさんと本気でやり合ってるのも羨ましいけど、イーヴァル先輩も本気だったんだろー」


「本当にイーヴァル先輩が飛び道具も使われてあんな風な動きは授業では見たことがありませんでしたわ……いつもは本気を出されていないのがよくわかります。」



 ベネディクトとアネットがしみじみと語り合っている。



「それにユーリアの親父さんめちゃくちゃ強いんだろ?イーヴァル先輩のこと一蹴りで重傷負わせたって聞いたぞ……」


「私も一発。あの腑抜けた表情からは計り知れない。」



 エルノは本当に普段腑抜けているが、実力は確かなのだ。

 治癒術師としての腕も目もユーリアよりも上である。



「ユーリアが一発って相当だよな。クィントン家恐るべし……」


「兄は普通。治癒術師の腕と知識量は上。」


「もはや、クィントン家の普通が分からない。」



 ベネディクトに言われるが、ユーリアも周りで言う普通が分からない。

 クィントン家は家族が独特すぎて普通の家の感覚がよく分からないのだ。



「いやー、それにしても元婚約者さん……イケメンだわー。ユーリア匂い嗅がせてー!」



 ティナに腕を掴まれ手首の匂いを嗅がれる。

 ティナはそれだけでニヤニヤと微笑み始めたと思えば、キリッとユーリアを睨む。



「イケメンの匂いに包まれるなんて、なんて幸せな事なの……」


「私は心穏やかな生活がしたい……」


「お、イケメンに未練あり!」



 ティナに食いつかれるが、ユーリアは首を横に振る。



「ヴァイセル様、観察対象。恋愛対象じゃない。」



 ユーリアの切実な表情にティナはため息をつき、頭を撫でてくれる。



「いつか、ユーリアが心からこの人って思える人が出てきたらいいね!」


「イケメンは論外。毎日他の女に囲まれるとか……」



 ユーリアの嘆きにその場の面々が頷く。



「私も確かに顔よりはお互い成長しあえる存在がいいですわ。」


「ガストン先輩だな!」



 アネットの呟きにヤンがガストンの名を出せば、ティナに耳をつままれる。



「そういう繊細な話は口にしなくていいの。」



 耳まで真っ赤にしたアネットを見て、ユーリアはニヤニヤと笑う。



「ユーリア、イーヴァル先輩に言わないでね……アネットの事はそっとしておいて!」



 考えが見透かされたようで、口止めをされてしまう。するとティナが耳打ちする。



「いい。アネットはたぶん自然とくっつくはずだわそっとしておいてあげて!」



 ユーリアはティナの言う通り、そっとしておく事にした。


 そうして雑談をするうちにアナウンスが魔術具から流れる。



「校内の生徒にお知らせです。クラスの投票、コンテストの投票用紙を提出していないクラスは至急生徒会へお持ちください。繰り返します……」



 そこでティナが慌てて用紙を配り出す。



「ごめん。みんな預かってたの忘れてた。こっちがクラスようでこっちがコンテスト用。」


「コンテスト?」



 ユーリアが首を掲げればドニが抑えてくれる。



「ユーリアは本当に無関心だね。コンテストは3つ、美男コンテスト、美女コンテスト、ベストカップルコンテストの3つだよ。」


「そう、後クラスの方は自分のクラスには入れられないから、気をつけてね。こっちは記名方式だから、無記名は点数に入らないらしいよ。」



 そういうとクラスの面々は急いで用紙に記入する。

 それをティナが受け取り、ユーリアがティナの受け取ったものに手を出す。



「私これから生徒会室に用事がある。持ってく。手伝う。」


「分かったわ。ユーリアはクラスの方持って!行くよー!」


「んじゃ、俺らは残りの片付けやっちまうか!皆後夜祭までに終わらせるぞー!」



 ベネディクトの号令で残りの片付けが始まり、ユーリアはティナの後を追い、生徒会室へ向かった。





*


「すみません。一年武術クラス投票用紙をお持ちしました……」



 息の切れているティナに優しくベティーナが受け取る。



「ありがとう、ティナ。ではお手伝いお願いしてもいいかしら……諜報活動の一環の集計よ……」



 ベティーナはクスクスと笑い、コンテストの方の投票用紙の集計をティナに頼んでいる。


 ユーリアはプラムに呼ばれて、花火の演出の最終打ち合わせをしていた。



「ねえ、ユーリア私たちの劇の演出も手伝ってよ!魔力足りるー?」



 ユーリアは少し考えて、花火の演出をティナに手伝ってもらう事にした。


 ティナはエンディングで大喜びで爆発魔法をやりまくるらしい。





*


 ユーリアは園庭にあるステージ裏側に来ていた。

 裏から後夜祭の始まりを告げる三段雷を打ち上げるためだ。


 生徒たちは続々と園庭に集まりつつある。


 舞台裏に置いてある生徒会の控える椅子に座っていると、忙しい中ベティーナが話しかけてくれた。



「ユーリアごめんなさいね。プラム先輩の案が通ってしまって……いっぱい魔力を使わせてしまうわね……」



 ユーリアは首を横に振ると指先から小さな火花を散らして遊び始める。



「学園では全然魔法使って無かったから……魔法の練習というか、魔法が使えるいい機会なんです。」



 ニコニコと笑いながら小さな花火を出して遊んでいると、シェルトに怒られる。



「遊ぶな、魔力の無駄遣いだ。その分演出に魔力を使え!」



 ユーリアは落ち込むとベティーナは笑ってシェルトを見る。



「シェルトはユーリアの事が心配なだけなのよ。

 だから、必要最低限の魔力を使ってね。」



 ユーリアは『はーい』と返事をするとプラムの合図を待って花火を打ち上げる。





*


 17時になると後夜祭始まりのアナウンスが会場に流れた。



「只今よりグランアカデミー学園の後夜祭を行います。」


『パンパンパーン』



 生徒たちのテンションも最高潮だ。

 ザワザワとした空気が流れる。


 学園長のお話中も私語が多かった。





 学園長の話が終わると、当たりが急に寒くなり空から雪が降り始める。


 学生たちは空から降ってくる雪に触れ、空を見上げて騒然とし始めた。



「ここは氷の国……1人の悩める王がいた。」



 拡声された男の声が辺りに響くと自然と皆静まり返り、舞台の上に立つ男を見た。生徒会による演劇の開始だ。



「年々魔獣の魔力が強まっていく。このままではこの国は一年中雪に覆われてしまう。」



 氷の柱が無数に立ち、全てが氷に包まれた部屋の中、氷の玉座に座り、脚を組み肘掛に肘をついて頬づえをつけば、貫禄がある。



「ベティーナ姫これへ。」



 男が声を上げれば、美しいドレスを着たベティーナが舞台へ上がってきた。



「はい、ドミニク王。」



 ドレスの裾を持ち挨拶をすれば、王は姫に告げる。



「ベティーナよ。其方は国のために身を捧げる気はあるか?」


「はい、私の身であれば、いくらでもお使いください。」


「では、魔獣の花嫁となれ……お前が産まれた時里に降りてきた魔獣が告げたのだ。お前が成人を迎えたら、自分の花嫁に差し出せと……」



 姫のはその場に崩れ、泣き出す。


 そこに2人の騎士が現れ姫に手を貸し立ち上がらせると、王の前に跪く。



「王よ。直答をお許しください。」


「許す。イーヴァル、シェルトよ。」



 顔を上げた2人はまっすぐ、王を見る。



「我々が魔獣を倒して見せます。」


「その暁には我々2人のどちらかに姫を下さい。」


「本当に倒せるというならよかろう。姫よ其方もそれで良いな?」



 ベティーナはシェルトを見つめると大きく頷いた。



「魔獣と生涯を共にする事を救ってくださる方々ですから、私は構いません。」


「そうか……では姫を褒美とする。今すぐ打ち滅ぼしてくるのだ。」


「「は!」」

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