保護者の暴走参観日と猫娘
ユーリアは訓練場が空くまで隅の方に座って待っていると、イーヴァルに耳打ちされ、ユーリアはそれを聞いてニヤリと笑う。
どうやら猫娘二人が学園内を出歩いていると聞いて、ガストンが忙しいイーヴァルを無理やり連れ出し探していたようなのだ。
どうしてもアネットの猫姿を拝みたかったらしい。
「それなら手合わせより、どこかで休憩を取ればいいじゃないですか?」
ユーリアも耳元で返せば、イーヴァルは答える。
「女の子の落とし方もいろいろあるんだよ。アネットの場合はお洒落な環境より、手合わせのほうが心躍るだろう?」
さすがはイーヴァル先輩である。女子に合わせたデートプランが提案できるらしい。
ふむふむと頷いていると、ユーリアにまた耳打ちする。
「ユーリアちゃんなら、甘いものさえあれば落ちてくれるのかな?」
クスクスと笑い、ユーリアは少し考えてうんうんと頷いてみせる。
「参考にするよ。」
と冗談交じりの会話が終わり、手合わせが始まった。
アネットとガストンはガンガンやりこみ、真剣そのもので手合わせしている。
ユーリアとイーヴァルについては、軽く二人の様子を見ながら打ち合いをしている。すると、オスモから叱責される。
「お前ら、場所貸してるんだ派手にやれー! 宣伝するくらいの勢いでやっていいから本気出せ!」
イーヴァルは執事服、ユーリアは猫姿だ。お互いに顔を見合わせ肩を竦めると、イーヴァルは執事服の上着を脱ぎ捨てて、ユーリアは剣を捨てる。
「ユーリア?」
武器を捨てたユーリアを不思議そうな表情で見るイーヴァルだったが、ユーリアはスカートの裾をめくり両足に仕込んでいた暗器の魔術具を取り出し、体制を低くする。
ユーリアは低い体制からジャンプすると、イーヴァルに短剣を交差させ飛びかかる。
「猫娘の本領発揮かい?」
「最大限にこの場を利用させてもらいます」
パッと距離を取って襲いかかるタイミングを見計らっていれば、イーヴァルも執事になりきり、胸の前に手を当て頭を下げてこちらを見る。
「では、私もやんちゃなお嬢様をおもてなし致しますか。」
イーヴァルはニヤッとすると飛び道具のナイフを投げつけ、距離を詰めて剣を振るう。
ユーリアは全て払い退けると剣を防ぎ、剣先をいなし、回し蹴りを喰らわせようとして、止められる。
「この格好で回し蹴りって……ごちそうさま。」
ユーリアは急いで足を戻し、顔を真っ赤にさせる。
「見た?」
「パニエがフワフワとしてるからよく見えなかったけど、ふふ。」
ユーリアは怒涛の攻めを見せる。イーヴァルもそれを受け止めていく。
そこに邪魔者が入ってきた。
「僕もまーぜーて!」
エルノは二人の間に入り、早々にイーヴァル先輩をフィールド外に蹴り飛ばすと、ユーリアと同じく暗器を使い、激しく打ち合い始めた。
「その格好露出が多すぎる。雑草を増やす気かー!」
「学園の行事での衣装なんだから文句言わないで、それにこれ着ないと怒られる」
「ティナちゃんかな。……んー。彼女をどう釣るか。せめて騎士の服くらいにしなくては……」
エルノは悩みながらもユーリアの攻撃を防ぎ続けている。
「もー、せっかくイーヴァル先輩との演出の邪魔しないで……!」
「私にとっては娘に寄り付く虫は全て邪魔者だー!」
エルノが嘆き隙を見せたところで、ユーリアは懐に入り込みトドメを刺そうとするが、逆に背中を取られ首に短刀を突き付けられる。
そのまますっと胸元までナイフを滑らせ、心臓の真上にナイフが置かれた。
「ふふ。僕に勝つのは後20年はかかるね……」
「あんまり無理しないの。またガタが来るよ」
パッと離れたエルノの方を振り返って、ユーリアは背伸びをすると、エルノは少し屈んでおでこをくっつける。
「よし、問題なし……本当無理しないでね」
「うん。無理しない!」
ニコニコとするエルノに対し、その場は騒然となっていた。
あまりに早すぎる打ち合いに、皆の目が点になってしまったのだ。
ユーリアは顔を手で覆うと、その場にへたり込んだ。
「アハハハ、お主は平穏とは行かなそうだな。そろそろ行くぞエルノ。
ルーカスも話が聞けてよかった」
「はっ!」
イェンニの傍にはローラントとヴァイセルそしてルーカスがいたのだ。ルーカスは胸に手を当てると、サッとユーリアに手を伸ばす。
ユーリアはその手を取り立ち上がると、ルーカスに頭を撫でられた。
「お前は何故何度も何度も忠告しても目立つんだ?」
「でも正体はバレてないでしょ?」
「イーヴァルあたりから漏れるぞ……」
ユーリアはイーヴァルを探すと、蹴られた腹を抱えて歩いてこちらのほうに来ていた。
「お父さん強いですね……。一発で蹴り飛ばされるとは思ってませんでしたよ……」
ユーリアはイーヴァルに近寄り患部を見ようと、ボタンに手をかけるとイーヴァルに手を掴まれた。
「焦る事ないよ。ほら、あっちの人目がないとこで診察するなら見て?」
イーヴァルが痛みに耐える顔で、ニコニコとしている。
「お、それから僕が見てあげるよー。本職だよー!」
エルノはイーヴァルからユーリアを引き離すと、その場で服を脱がせ、患部に手を当て治癒魔法をかけて行く。
「内臓破裂と肋骨何本かだけだから問題なし!もう治ったよ!」
笑顔でイーヴァルの背中を叩き、イーヴァルは頭を掻いている。
ローラントはというと、苦笑してエルノに話しかけている。
「エルノよ。医学的に内臓破裂は重傷なのではないか? いくら娘の可愛い姿と手合わせしたいからと、学生相手にムキになりすぎじゃ……」
またもやイェンニは大笑いしてローラントの意見に頷く。
「親バカだからな、独占したくてしょうがないのだろう。いいかユーリア。人前で男の服を脱がすのはよくない。そういうのはせめてエルノの居ないところでやるんだ。」
高笑いするイェンニをエルノが睨みつけ、イェンニはそれも気にせず笑い続けている。
「そうだ。お主のクラスに案内しろ……。そこの若僧の治療も終わったのだろう。おい、もう1匹の猫。クラスにいくぞ!」
アネットも呼ばれてユーリアと2人、シュペルノベイルからの来客をもてなす事となった。
*
残された面々は唖然としつつ、ガストンががイーヴァルに手を貸し立ち上がらせる。
「おい、イーヴァルアイツとあの父ちゃんの動きって……」
「隠密だろうな……」
ルーカスが腕組みして会話に入ってくる。
「何だか、あの子は本当にいろいろな事隠していると思ったら、家が家なのかもしれませんね……」
イーヴァルがルーカスに話しかければ、ルーカスは深く頷く。
「あいつが自由になれないと言っていた一つの要因があるのだろう。一介の医術院が伯爵家同等の力を持っているという事だったが、そういう事か……体術、魔法、治癒魔法を使いこなす訳だ」
「アネットちゃんは違うよね? ルーカス先生。」
ガストンが縋る目で、ルーカスを見ている。
「知らん。実家が体術の道場の門を構えてることしか知らんが、今までの授業でそんな動きは見せていない。」
アネットは根っからの体術者の動きしか見せていないため、その観点からは否定できる。
ほっと胸を撫で下ろすガストンは、イーヴァルの方を叩く。
「男として惚れた女より弱いのはなー」
「え、なのんこと? 僕は女性皆に優しくするから、特定の女の子とは仲良くしないよ!」
イーヴァルは戯けて見せ、笑っている。一方で苦い顔になったのはルーカスだ。
「お、ここに悩める男がいた……。いてて。」
ルーカスにガッツリ頭をグリグリされて、ガストンは無駄口を叩けなくなる。
「俺は別にアレを特別扱いなどしていない。黙れガストン。」
「先生無理しなくても表情に出ちゃってますよ……。痛い……。僕病み上がりなのに……」
イーヴァルもルーカスに拳骨を喰らい、それ以上の軽口は叩けなくなってしまった。
「お前ら元気が有り余っているようだな。オスモ場所貸せー! コイツらに特別指南だ!」
ルーカスがバシバシ2人を同時にしごいていく。
オスモが俺たちの出し物が……と呟くが、見物客が絶えることはなく人はたくさん集まって来ていた。
*
ユーリアがクラスに招けば、イェンニとエルノがゲームに挑戦した。
ローラントとヴァイセルはカフェで飲み物を買い、待っているようだ。
椅子は特になかったのだが、5脚ほど店内でグループの友達を待つスペースを作っていたので、そこに座っている。
「いや、この飲み物は美味しい。さすが我が弟子の入れた飲み物よ……この塩がいいのう。」
ローラントには甘すぎないノンアルコールのソルティードッグを作った。
使い捨てのカップの縁には塩を散りばめている。
「これも面白いんですよ。さっき一口もらって飲んだんですけど、中の粒がまた面白い。」
ヴァイセルに作ったのは、甘くないタピオカミルクティーである。
先ほどユーリアのイチゴミルクタピオカを一口飲んで、食感が気に入ったらしい。
「お主らは仲がいいのう。2年後が楽しみじゃ。」
「2年後?」
ユーリアが首を傾げれば、ヴァイセルがローラントの話に割って入る。
「ローラント様今はまだ……」
「何じゃまだ何も行っておらぬのか……。あのエルノすら気を使ったというのに……。この臆病者が! 男はビシッと行くものだ!
いつまでもそういう態度を取っておるから距離を置かれるのじゃ!」
2人の話についていけないユーリアは、ローラントの顔を見ていた。
「何でもないよ。ユーリア……少し周りがね……」
ローラントがため息をつき、ヴァイセルはユーリアから目を背ける。
「何だ何だ。ローラントが声を荒げるとは珍しい。」
ゲームを終えたイェンニがニヤニヤとやってきた。
エルノは困り顔だ。
「ヴァイセル君、本当に君は……」
「本当にエルノの若い頃にそっくりだ!」
イェンニの一言にローラントが吹き出す。
「イェン二様にローラント様までひどい。」
エルノはプンと頬を膨らませる。
「ねえねえ、娘ががシャカシャカした飲み物が飲みたいんだけど、何かオススメはあるかなぁ?」
ユーリアは適当にシンデレラを作って出した。
エルノは涙を流して喜んでいる。
「甘い、甘いよ。娘よ僕が甘いの苦手なの知っててシロップ入れたでしょ……」
「飲めないならいいよ。私が飲むから……」
先程の訓練場でのお返しとばかりに、ユーリアはエルノの苦手な甘いものをチョイスしたのだ。
「いや、娘の作ったものは最後まで飲むよ。」
エルノが無理やり飲み込んでいる中、ユーリアはイェンニにもノンアルコールでグラスホッパー風を作り渡す。
「ほう、これはミントの香りで甘味がスッキリしていて美味いな……なかなかの腕だ。」
「イェンニ様ずるーい!」
「飲まないならいいよ!」
駄々をこねるエルノの飲み物を取り返し、ユーリアは全て飲み干してしまった。
涙ぐむ父親に新しい飲み物を提供する。
「はい、これなら飲めるでしょ?」
砂糖抜きのもはやカフェオレである。父の好きな濃さにしてあるため、父は大喜びだ。
「ユ〜たん……僕はいつ死んでもいい!」
「それじゃあ、喉も潤したし、いつまでも邪魔をするわけにはいかん。ではまた遊びに来い!」
イェンニが飲み物を手に店を出ると、皆お辞儀してエルノを引っ張り教室を後にした。
ヴァイセルはウィンクするとユーリアに告げる。
「近いうちまた会いにくるよ!」
ユーリアは首を傾げると、その姿に微笑み姿を消した。
*
「おい、聞いたか? あの猫娘の名前ゆーたんって言うらしいぞ! コンテストで投票できる!」
「ああ、目的は果たしたな俺ら萌え袖猫娘の名前はゆーたん……あんな優男なんて関係ない! 今年はゆーたんを一位にするぞー!」
「「おー!」」
イェンニ達のすぐ後にゲームをしていた男子グループから、エルノが興奮のあまり残したあだ名が名前だと思われ学園内に広まったのである。
「ねえ、あの猫娘にウィンク送ってたのって……」
「アレってでも学生じゃないわよね……」
「関係ないわ。文化祭に訪れたのですもの。一時でも心奪われればそれはコンテストに投票してもいいと言うことですわ」
「また会いにくるよってあんなイケメンから言われたい……」
ウィンクに心を射抜かれたカフェ内にいた女子達からヴァイセルの名前が漏れ、後々ランキングに入ることとなってしまった。




