故郷の元婚約者の来訪
「今日という今日は観念なさい!」
その言葉から今日の文化祭は始まった。
昨日の出し物の後園庭に人気のクラスが張り出されたのだが、どうやら4番手だったらしい。
一人一人に票が持たされているため、まだ生徒たちの票は入れられていないのだが、ティナは取るなら絶対一位だと意気込んでおり、今日こそは朝から猫娘の格好でいてほしいと言われたのだ。
昨日の約束では休憩の時だけと言われていたのに解せない。
ユーリアは結局猫娘の格好で札を持ち宣伝のためベネディクトと組んで学園内を適当に歩っていた。
好機の目で見られているのが分かるが、それが今日の任務であるため、ユーリアはあえて無表情のまま歩いていた。
「ユーリア、なんか俺までいたたまれない気分なんだけど、隣歩いてるだけで嫉妬されるとか、俺今日から学園で生きていけるかな」
「しょうがないよ。ティナからボディーガードやる様に言われたんでしょー!」
「それは、そうなんだけど……」
ユーリアは二人が最近いい雰囲気を出しているのを知っているので、あえて突っ込む。が、反応が少なくてつまらない。
「ユーリアにボディーガードとかいるのかよ」
「さすがに学園の真ん中で負傷者出すわけにもいかないから、囲まれたらベネディクト囮にして逃げるね」
「おいおい、それって……」
ベネディクトが男たちに囲まれる事を想像して顔を青ざめさせた。
ユーリアはクスクス笑うと冗談と言った。
「大丈夫だよ。猫娘らしい動きして巻くだけだから。ベネディクトも私が引き付けている間に逃げてね。じゃないと何されるか分かんないよ」
「おいおい、それまじで笑えねえ奴」
ベネディクトと話していれば、後ろから急にハグされる。
「会いたかったよー。ビルギッタがいるとどうも甘えられないからさー」
隠密スキルまで使って急に抱きついてきた犯人が声でもろ分かりだ。
「お父様、やめて下さい。人目につくところでこういう事はなさらないで下さい」
ユーリアが鳩尾に肘打ちを入れ、足蹴りを喰らわそうとする。
「端ないぞ、その格好で足を上げないの」
鳩尾を抑えた父エルノが、手で足を掴むとそのまま足を下ろさせて足に抱きつく。
「ダメ、絶対こんな短いスカート。この綺麗な足を害虫どもに見られるなんて許さない」
そういうとぱっと立ち上がり自分の上着をユーリアに腰に巻きつけた。
「よし、これでOK。肩のところも気になるなー。ヴァイセルも脱いで!」
こんなところに何故かシュペルノヴェイル御一行が来ているのだ。
父、陛下、ローラント、ヴァイセルの4人だ。
「元婚約者ので悪いけどこれを着なさい!」
エルノはユーリアにヴァイセルが脱いだ上着を着せて満足しているが、ユーリアはうまくヴァイセルに目が合わせられない。
「クスクス。エルノは相変わらず過保護だな。足くらい海では幾らでも出していたぞ! 水着も来ていたらしいからな。」
陛下の言葉にエルノが絶句する。
「まさかビキニなんて着てないよね? そこのベネディクト君どうなの?」
急に話をして振られたベネディクトは顔を赤面させ、しどろもどろになっている。
それをイエスとみたエルノはユーリアに詰め寄る。
「若い男女がいるところで薄着はいけないよ! 全て隠さなきゃ……」
「私も隠したかったけど、上着はディナとテディに、下はジェルジュに持っていかれたんです!」
エルノが一人で説教モードにはいっている中、ローランドが見かねて口を開いた。
「エルノよ今は娘の話よりも、ルーカス殿の場所を聞くのであろう?」
エルノが腕をポンとすると、思い出したようにユーリアへ聞く。
「ねえ、ルーカス先生どこにいるか分かる?」
「ルーカス先生は基本訓練場の大術指南のところにあるとは、思いますが進出鬼没で……」
「じゃあ、強制的に探知魔法使っていいよ!」
エルノが簡単に言うが。あまり探知魔法は使いたくないのだ。だが、父に押されて使い、訓練場付近にいる事が場分かったので伝える。
「お父さま、ルーカス先生はやはり訓練場にいるようです」
エルノはふむふむといい、ベネディクトとに訓練場までの道のりの案内を頼んだ。
「何故わざわざルーカス先生を訪ねて来られたのですか?」
「雑草と害虫の駆除」
ユーリアの質問にエルノが答えると、イェンニ陛下がニヤニヤとしてユーリアに告げる。
「そうだ。ユーリア。一人でそのような可愛らしい服を着て客寄せするのも大変だろう。ヴァイセルを貸す。ヴァイセル、ユーリアを守れ」
「御意に」
ヴァイセルが胸に手を当て片膝をつけば、イェンには頷きローラントとエルノを連れてベネディクトの案内について行く。
ベネディクトも困惑しており、ユーリアの父以外はよく知らない。
それでも、ユーリアにジェスチャーでごめんとすると親指を立て、答えてくれた。
*
残された二人は気まずい雰囲気が流れた。とりあえずユーリアはさっき腰に巻かれた邪魔な服を外し、上に羽織らされていたヴァイセルの上着も返す。
「ヴァイセル様お返しいたします。父がご迷惑をお掛けいたしました」
ユーリアは精一杯謝る。そして、何を話していいかわからず、その場を後にしようとした。
「私情はなしに陛下の命令は完遂させてくれ。」
真剣な面持ちでユーリアを見つめ、ユーリアは同意する。上着も羽織らされたままだ。
「それでは、ベネディクトが来るまでは……」
二人はゆっくりと話をしながら付近を歩く。
以前の二人の関係性が懐かしい。
「ねえ、ユーリア。私は嬉しいよ。また君とこうして仕事だとしても会えて。この前はテディさんに連れて行かれたからね」
ユーリアが好きそうなアイスを一つ買ってくれると、歩いて食べながら言われた。
婚約者どうこう抜きで会える事は嬉しい。
だが、逃げ出した手前どうしても顔が引きつってしまうのだ。
「後から、お店に遊びにいくね。ランキング形式っていうのに陛下もエルノ様ものりのりで……午後からならいるのかな?」
「はい、午後からはカフェにいますよ」
ユーリアはペロリとアイスをたべ、その様子を見てヴァイセルが笑っている。
「ユーリア、婚約関係の事は忘れよう? 今はただ久々の再会を楽しもうね」
ユーリアが気まずそうにしているのを気遣ってか、ヴァイセルが告げた。
ぎこちない笑みを返したユーリアの頭をワシヤワシャっと撫でた。
「私はただの学院の先輩。そして陛下の犬に戻った。今日は少しの間だけど楽しもう!」
ヴァイセルがそういうと、ユーリアの手を掴み、自分に引き寄せるとアイスをパクッと大目に食べた。
「あ、ヴァイセル様食べ過ぎです……」
「これからいろいろ食べさせてあげるから、このくらいにしといたほうがいいと思ってね」
顔をムスッとさせていたユーリアにヴァイセルは微笑んで返す。
次の甘いものも買ってくれると言うのであれば問題ない。
ユーリアはすぐに機嫌を直して残りのアイスを食べ始めた。
「うおー」という男の叫び声がちらほら聞こえたが、何かあったのだろうか。
ユーリアはヴァイセルに手を引かれ、出し物が多く出ている教室の並びに歩いて向かった。
お料理体験教室では二人でお菓子作りをし出来たものを交換して食べたり、お互いに魔術具作りをして贈りあったり、武術の指南の場ではお互い何故か指南したりした。
身体が温まって来たところで自分のクラスに戻り並んで一緒に体験しようとすると、先に戻って来ていたベネディクトを見つけた。
「ベネディクトごめん。先に帰って来てたんだ」
「お前の父親にようは済んだから、お前のことはその男に頼んで自分はクラスに戻るようにって言われたんだ。おかげで列整理だぜ……」
ユーリアが昨日騎士の格好をしていたおかげで女性客が急増しているらしい。
「じゃあ、ヴァイセル様と一回体験したら、戻るよ!」
「うん。私もイェンニ様の元へそろそろ戻ろうと思ってた所」
ヴァイセルとユーリアは息のあった動きで高得点を出した。
ランキングには載せられないが、二人で微笑みあった。
ヴァイセルに自分のクラスのカフェで飲み物とクレープを買ってもらい、それを食べ終わるまではその辺をブラブラしていた。
教室の前で借りていた服を脱ごうと手にかければ自然とヴァイセルが手伝ってくれる。
それをそのままヴァイセルは羽織るとイェンニの魔力のする方へと去ってしまった。
*
ユーリアはそれを見送り自分の教室のカフェ部分に入れば、休憩室にすぐさま連れ込まれる。
「ユーリア随分この忙しい時に楽しんでいたようじゃない。ここに来た男どもからあれは彼氏なのかって聞かれて、案内役がたじたじだったわよ。
そして、なぜか訓練場の先輩たちの出し物が賑わってたって情報も入ってるけど……」
ティナによるとユーリアとヴァイセルが寄った場所でいろいろな噂が回っているらしい。
男物の上着を羽織った猫娘が男とデートしていると噂になり男客は嘆き、あの男もここのクラスのものなのかとヴァイセルの身元をしつこく聞く女子も出て来ているらしい。
「ユーリア、昨日と変わらなく女子も多いんだかど、男子はやっぱり少ないのよ……。アネットにも来て貰ったから看板持って一周したらその姿で店員よ!」
ユーリアのせいでアネットも巻き添えくらい、二人が滞在する時間を書いた看板を持ったユーリアたちが、学園内を一周したのであった。
途中園庭でご飯休憩も取るようティナから支持があったため早めの昼食タイムだ。
「ユーリアそれだけですの?」
「朝から食べ過ぎてあんまりいらない」
ユーリアはいつものように甘いものを書い、タンパク質はアネットから貰い、甘いものもアネットに食べさせてあげる。
「おい、あれ一年の……」
「誰か声かけろよ……」
園庭を通る男性達が立ち止まりザワザワし始めた。
ユーリアは気にしないが、アネットは恥ずかしそうだ。
「そろそろ行こうかー。いっぱい食べたし、散歩して……」
「おいそこの猫耳、これから訓練場へ行こうぜ!お前らアピールタイムでいい動きしてたろ? 手合わせ願いたい」
さっきヴァイセルと訓練場へ行った時に見かけたので5年の先輩だ。
アネットは手合わせというワードに惹かれているのが、見てて分かったのでユーリアはその先輩についていく事にした。
アネットは剣を構え、その先輩と打ち合いをし始めた。
「さっきは男の人と回ってたでしょ? あれ彼氏なの?」
訓練場にいた女性に話しかけられる。
魔術の指南をしていたのでここのクラスの先輩なのだろう。
「彼氏じゃないです。故郷の時の学院の先輩なんです」
「なあんだ。そうなんだ。よかったわね」
一緒にいる男性に話しかけているようだ。
顔が真っ赤である。
そして、アネットの打ち合いが終わり、ユーリアはその場を後にしようとすると、イーヴァルとガストンが二人で訓練場にやってきた。
「よかったー。まだ二人がいたねガストン?」
イーヴァルがニヤニヤとガストンに肘打ちすれば、ガストンは少し鬱陶しそうにするがガストンの目線はアネットに真っ直ぐである。
「オスモ先輩場所貸してー!後輩達と少しだけ手合わせしたいんだー」
オスモと呼ばれたのは先ほどユーリア達を訓練場まで導いた男である。
「イーヴァル。文化祭の間はそういう場じゃないんだ」
オスモは険しい顔でイーヴァルを睨むが、イーヴァルは肩を竦めて見せる。
「だって、文化祭中じゃなきゃこんな可愛い姿の女の子と手合わせできないだろう? オスモ先輩ずるい」
イーヴァルの訴えに先程声をかけて来た女性もオスモを責める。
「確かに、自分だってたまたま見つけた猫娘連れ込んで手合わせしてたしね……本来こちらに来るのを待たなきゃいけないのにほぼ無理やり連れてくるとか私情挟んでたでしょ」
オスモは咳払いしてそっぽを向くと、訓練場を指差し許可を出す。
「次開いたら、二箇所入れ!」
ユーリアとアネットは話に流されるまま、アネットはガストンと、ユーリアはイーヴァルと手合わせする事となった。




