騎士と姫と花火
3日目のコースの午後の発表会は事前にくじ引きの結果、医術コースの薬師コースから始まった。
ユーリアにとっては有益な話だが、集まった客の一部しか相槌を打っていない。
「なんだか、難しくて僕にはさっぱりだー」
今日のお相手はリュリュだ。カフェの休みは本当はラウラと取りたかったのだが、リュリュに誘われたので、リュリュと取ることにした。
リュリュ曰く、カイがラウラと学園祭を回りたいのに、なかなか本人に言い出せないため、手を貸したそうだ。
休む順番を決めている時のカイはというと、顔を真っ赤にさせていた。
そして、昨日の騎士服の反響があるかもしれないと、午後からの休みになってしまったのだ。
だが、そこまでの反響はなかったようなので、午後からは休みが取れた。
農業、商業と続き、次は体術コースの発表が始まるという時にユーリアは急に声をかけられた。
「ユーリア、いた〜!」
息を切らせてきたのはソルだ。
「休憩時間が午前中だって聞いてたから……今控え室に来たティナに聞いたら休みが午後になったっていうから……」
ソルはユーリアの隣に座っているリュリュを見て、動きが止まった。
「隣の子は?」
「錬金コースの同級生」
ソルはそうなの。というと顎に手を置いて少しの間考えた。
そして、うなずくとユーリアとリュリュの手を取り控え室がある教室まで連れて行かれる。
「え、先輩?」
「ユーリア、どういうこと? 誰?」
連行された二人は教室で用意されている衣装を見て、説明を聞き唖然とした。
特にリュリュは戸惑っている。
「あの僕、これは着れません……」
「え、僕?」
ソルはリュリュの一人称が僕だった事で冷静になって、気づいた。
「男の子!? ご、ごめんなさい。」
ソルは女の子と勘違いされて連れて来られたらしい。
リュリュはまだ成長期に入っておらず中性的な顔立ちをしていた事と、ユーリアがバーテンダー服を着ていたので、余計に混乱させてしまっていたのだ。
「本当にごめんなさい。それじゃあ、元から予定してた子に戻すわ……あまりに私のイメージにぴったりだったから……」
リュリュはほっとした顔をしたが、ユーリアはリュリュの肩を掴む。
「リュリュ。我々のクラスの衣装忙しい中手伝った。一肌脱がなきゃ!」
ユーリアが黒い微笑みを浮かべウェストポーチをゴソゴソとあさり始めるのと、リュリュの悲鳴が聞こえ始めるのは同時だった。
*
「それでは、続き増して生産クラス服飾コースの発表です。どうぞ!」
生徒会のアナウンスでコースの発表が始まった。
辺りはだんだんと薄暗くなってきており、庭のモデル達が歩く道を魔術具で灯している。
上級生から衣装が発表されていき、二年生であるソルの番となった。
ユーリアとリュリュは前のモデルが舞台袖に戻ってくると、舞台の中央へ立った。
そこに立つ姿は一人の騎士と姫であった。
漆黒の衣装に身を包んだ無表情の騎士と対照的に薄いピンク色のドレスに身を包んだお姫様だ。
姫は覚束ない歩みで進んでいく。
騎士はそんな姫を気遣いながらランウェイを歩いていく。
ランウェイの道を引き返し舞台の中央で手を振り、舞台袖に戻ろうと体を動かした時に姫が足を捻り、転びそうになる。
騎士はスッと自分へ引き寄せ、何か耳元で囁くと姫を抱き上げた。
騎士は再び中央へ視線をうつすと、ニコリと微笑み、姫は抱き上げられたまま手を振った。
そのまま二人は舞台袖に下がり、声援を聞いていた。
最後にもう一度モデル全員揃って舞台に並ぶ時も騎士が抱き上げ登壇し、一旦下ろして手を振って挨拶をすると再び抱き上げ、舞台袖に下がるまでずっと心配そうに姫を抱えているのであった。
*
「いってー……」
二人は控え室に戻りユーリアがリュリュを椅子に座らせると足首を捻挫しているようで、顔をしかめている。
「見せて……」
ユーリアがリュリュの靴と靴下を脱がせて患部を見ていく。
それを脇目で服飾コースの人たちとモデルの子たちが見ているのが分かる。
ユーリアが治癒魔法を施していると、ソルが誤ってくる。
「ごめんなさい。ヒール履いた事ないっていうのに、履いてもらっちゃって……」
「いや、いいんですよ。僕も行けると思ったし、ユーリアの押しが強かったし……」
魔法をかけているユーリアを見てリュリュが答えた。
ユーリアは魔法をかけながらリュリュの顔を見上げる。
「ごめん。せっかく先輩。デザインした。靴もこれでいかせたかった。でも痛い思いさせた」
ユーリアがジッとリュリュの目を見つめると、周りからはきゃーという声が聞こえる。
「それよりも早く着替えてこの場を離れたいよ。ユーリア」
リュリュの訴えでユーリアは治癒魔法を終えると、早々に着替えて控室から会場へと戻り、道中愚痴を聞かされた。
「僕来年は成長期きてるといいな……せめてやるなら姫じゃなく騎士が良かった!」
ソルから二人とも来年もと打診を受けていた。
リュリュもユーリアも苦笑して明確な返答はせずに逃げ出していたのである。
二人が会場に戻っても、女性陣の興奮は収まっておらず、騎士と姫の話をしている。
「さっきの騎士って絶対一年のクラスにいたカフェの店員よね」
「昨日はルーカス先生の提案でヴァルヴィストの騎士の姿になっていたって聞くし……」
「明日はあっちの教室挑戦してみようか……イーヴァル様の所よりも騎士の姿を見たい!」
「今年のイケメンコンテスト上位は彼ね……でも名前が分からないと投票できないわ……」
「明日こそは聞き出しましょう!」
そんな会話が女子たちの間で繰り広げられる中、ユーリアとリュリュは顔を見合わせて落胆していた。
傍らでは男子達が姫の正体についてざわついていたのだ。
「僕絶対ティナに女装はしないって言う」
「私も明日男装やめる」
「それ、猫姿にされるんじゃないの?」
「…………」
リュリュの言葉にユーリアは何も答えられなかった。
*
色んな話が飛び交う中、トリを努める魔術コースのアナウンスが始まった。
ティナも参加するが、各学年の先輩方も揃い魔法を繰り広げていく。
今までの発表が学術的な要素が多く含まれたものだったため。
魔法を相殺されていく迫力に皆食い入っている。
ティナも得意の爆発魔法を空に繰り広げて、ユーリアがアドバイスしたように、先輩達と組んで花火を展開させた。
観客達の頭上に繰り広げられる花火はとても綺麗だが、恐らく二尺玉くらいの花火を打ち上げたところで問題が起きた。
花火を打ち上げる高さが低く、観客席まで火の粉が迫ってきたのだ。
「ユーリアー!」
ティナの叫び声が聞こえる。
防御の魔術具はステージ前にしか貼っておらず頭上にはないようだ。
ユーリアはギリギリまで近づいた火の粉を熱さの感じないの部分で一点に集中させ、再度打ち上げた。
今度は十分に高く挙げ、冠菊のように火花が流れるように動きを調整した。
花火の終わりはやはりこれだろうと密かに満足していると、ティナにほっとした後軽く睨まれる。
ユーリアが手を加えた魔法が終えると今度は水魔法や雷魔法で幻想的な世界が繰り広げられる。
ユーリアは魔法に酔いしれ拍手を送った。
魔術コースの発表が終われば、ユーリアはこそっとティナに拉致された。
リュリュは笑って先に教室に戻ると言って去ってしまった。
「ユーリア、さっきのどうやったの?」
ティナたちの花火を見せた面々に詰め寄られ簡単に説明した。
「それにしても、あそこまで魔法の扱いに慣れてるなんて……なんで錬金コースなのよ!」
ティナの先輩魔術師たちからいろいろ言われるが、魔法の研究は故郷にいる時にやっていたので、特に興味がないのだ。
「故郷でやり尽くした……学ぶなら魔術具作り。」
「ユーリアはやりたい事やるからダメなんですよ……。魔術具作りに飽きたら気が変わるかも知れませんよ……」
ティナに援護してもらって先輩達の勧誘から逃れ、ティナに耳打ちされる。
「それでさっきのは何よ? ソル先輩にユーリアなら休みって言っちゃったけど、あんな事になるなんて……観客席からじっくり見たかった……。相手役誰?」
「黙秘」
ユーリアが口を結べば、ユーリアは別のルートから話を仕入れるようだ。
「何よ。男だけじゃなく、女子まで魅了して……まあ、いいわ。ソル先輩から聞くから……」
「あの、ティナそういえば明日なんだけど……」
ティナがニヤニヤしていた顔を一変させ、睨んでくる。
「何、男装が嫌だっていうのかしら? 昨日だって女性陣の相手してたじゃない……」
ユーリアは会場にいた女性陣が名前を調べ上げ、イケメンコンテストに応募させられそうな話をした。
「まあ、あれは名前が分からなくちゃね……。んー。でも女装やるなら猫娘ね! 明日の私との休み時間は猫娘で練り歩く事!」
「カフェでは普通のウェイトレスの服! 休み時間は仕方ない」
ティナは言質を取ったとしたり顔で、ニヤニヤとしている。
そこへ控え室に勢いよく入ってくる者がいた。
「おい、そこの錬金コースの一年。生徒会室に来い!」
ユーリアは腕を男にグイグイ引っ張られ連れ去られた。
*
「ユーリア、何をやっているのだ? お前は治癒魔法だけでなく、魔法まで巧みに扱うのだな……」
腕を引っ張っていく男とは治癒院のバイトの時にお世話になっているダーヴィという5年の医術クラスの者だ。
ダーヴィであれば魔眼も使える優秀な生徒であるため、ユーリアが魔法を使った事を見抜いたようだ。
咄嗟の事で特に隠蔽していなかったので、ユーリアの魔力を見たことのある者にはバレたかもしれない。
「ダーヴィ先輩、生徒会室って?」
「着けば分かる……」
腕を引かれるまま生徒会室に着くと、コースの発表会を終えたばかりの少しバタバタとした雰囲気の中で、ユーリアの見知った顔がいくつもあった。
「ユーリアちゃんおつかれー!」
「ユーリアったら、クスクス」
忙しく手を動かしながら、イーヴァルとベティーナはこちらに声をかけた。シェルトは脇目を振らず黙々と作業をしている。
「ダーヴィ遅いぞー!」
こちらに話しかけながらやってくるのは、以前会ったプルムだ。
「魔法コースの控え室に入っていたから探すのに手間取ったのだ」
ダーヴィはプルムの前までユーリアを連れていくと自分の席と思われるところに座った。
「ねえねえ、ユーリア。後夜祭でもさっきのでっかい花火やってー!」
プルムに手を握られたと思えば、突然お願いされる。
どうやら話を聞くに花火が打ち上げられた時に危険を察知した面々が厳戒態勢を取るとイーヴァルが急にユーリアの名前を出して笑い始めたのだという。
同じくダーヴィも目を瞑って腕を組んでいたとか……。
そこで興味を持ったプルムがイーヴァルから話を聞き、後夜祭のエンディングを派手にしようとユーリアに花火を打ち上げるよう頼んできたのだ。
「それって先生方にも許可とってるんですか?」
「大丈夫よ。今会長が学園長のところに行って許可もぎ取ってくるから!」
プルムが自信ありげに語っていると、生徒会室に一人の女性を引き連れた男性が入ってくる。
「これはこれは、ユーリア・クィントン。直接お話するのは初めてだが、話は色んな者から聞いているよ」
握手を求められて握手をすれば、椅子に座らされる。
「私は生徒会長をやっているドミニクだ。プルムが突破に思いついた事だが、中々に面白いと思ってね。演出はこちらで考えるから、花火だけコンセプトに合わせて適当に打ち上げてくれないか?」
どうやら、恒例として後夜祭の最後のダンスイベントの前に生徒会でミュージカルのようなものをやらされているらしい。
それに合わせて花火を最後に打ち上げるようになる事になった。
学園長まで話がいっているというのに、今更断れない。
「分かりました。後でお時間が空きましたら、演出内容をお教えください。こちらもどういったものを打ち上げるかお見せした方がいいでしょう」
ユーリアはそういうと小さい火花の様なものを指先から上げてパチンと破裂させる。
「これは、本当に優秀だな……中々に見所がありそうな生徒だ。ではまた後で」
ドミニクはそういうと席を外し、生徒会室を出ていった。
「よっしゃー。今年は派手にいくぞー! ユーリア。出し物終わったらすぐ生徒会室に来い! 一緒に練ろう!」
プルムは一人はしゃぎ、ダーヴィはため息をつくのであった。
ユーリアは最終日どうやらまた多忙になる様である。




