文化祭初日、私は執事ではありませんが…
ティナはとりあえず人の入り具合を見てからという事で猫耳は封印し、自分たちの教室へ向かい、最終チェックと当日の材料を少しずつ切り始めた。
主にカフェは錬金コースの担当なので、ラウラとリュリュと包丁で切っていく。
「ユーリアそれなーに?」
ユーリアが綺麗に盛り付けて皿に置いていた料理を指す。
「サンプル見ると食べたくなる」
「じゃあ、これは何だ?」
カイが指差しているのは小さい器に乗せたタピオカもどきだ。
「食べたことがない。試食。皆も一回飲んでみる」
ユーリアは少しずつタピオカミルクティーもどきを配っていく。
皆恐る恐る飲むと微妙な顔つきだ。
美味しそうに飲んだのはラウラだけだ。
「これは、きっと女の子向けね。私はすごく美味しいわ」
ユーリアはラウラの手を取り喜ぶ。
やはり女子受けはいいようだ。
「よし、準備が終わったな。最初に休憩入る組は抜けていーぞ!」
カイの言葉に連勤コースの3人が休憩に入る。
「これ、食べ歩く」
ユーリアはチュロスを男子3人に渡し、宣伝させることにした。
「甘いの苦手ならこっち」
コッペパンにソーセージやハムを挟んだものだ。
「ユーリアが考える食べ物ってなんだか独特だね」
リュリュに突っ込まれるが、ユーリアにとってファーストフードはこちらが基板ではないのだ。
「珍しさが売り!」
ティナにも言って、それぞれ魔術コース、体術コースの子たちにも飲み物や軽食を食べ歩いてもらう事になった。
「小腹が空く時間だものね。匂いに誘われて来てくれるといいけど……ユーリアあの衣装着たくなくて必死ね」
「客寄せならこの格好でする!」
「ふふふ。がんばって……」
*
いよいよ文化祭のスタートだ。
早速数人の男性グループがやってきた。
「ここか、トピアス先生が熱中して図面を書いていた魔術具があるのは?」
案内をするティナが聞かれたらしく、ユーリアが呼ばれた。
明らかに研究者のような見た目の青年たちだ。
「魔力に触れると光る魔術具なら使ってる」
「間違いない。行くぞ!」
ティナの元へ詰め寄る男たちはティナから一通り説明を聞く。
「ここから入って暗闇を進むと魔女からボールを貰えます。それを光る的に当てて下さい。
動かない的は5ポイント、動く的は10ポイント、人型の魔獣に当てれば30ポイント、更に素早く動く的が点在しているのですが、それにぶつけられれば50ポイントです。
制限時間は魔女からボールを預かって5分です。
それではご武運を」
インドア派の青年たちの叫び声が聞こえてユーリアはとりあえずカフェでは客がゆっくりできた方がいいので、防音の魔術具をカフェ側に展開した。
アピールタイムの反響がよかったのかちらほらと人がいいタイミングでやってくる。
ゲームを終えてカフェにきた女の子たちがユーリア目掛けてやってくる。
「アピールタイムの時にいた店員さんだー! お兄さんが作ってくれるの?」
「お嬢さまのお望みとあらば、お作りいたしましょう」
ユーリアが微笑みを浮かべれば、女の子たちから黄色い声が上がる。
「オススメは何ですか?」
「お嬢さまは甘いのはお好きですか?」
「はい!」
「では、お飲み物でしたらこちらのもちもちミルクティーか苺ミルクが美味しいですよ。新食感で結構お腹も膨れるんです。材料も生産クラスから直接仕入れていますので、新鮮な物をご用意しています」
「え、どうしよう。クレープって言うのも気になるけど……」
女の子が悩んでいるので自分がよく使う手を提案する。
「お飲み物も迷っているのでしたら、違う種類を買って少し飲ませて貰えばいいですね。クレープはシェアすればよろしいかと。その方がいろいろな物がこれからも食べれますよ?」
「はい」
女の子たちに紙を渡すとどの食材を入れて欲しいか記入してもらう。
そしてユーリアがクレープを作り始めれば、女の子たちはぽーっとその手捌きを見ている。
ユーリアが商品を渡すと女の子が鼻をクンクンとさせる。
「お兄さんいい香りがする……」
女の子は思わず口にしてしまったようで、顔を赤らめている。
「え、食品の匂いがついてしまいましたかね……」
「そのなんというか……食べ物の匂いではないとは思います……」
益々顔を赤らめた女の子にユーリアはあーと、自分のポシェットから小瓶を出すと、その辺にあった食べ物のオーダーの紙に一滴垂らす。
「この匂いですか?」
紙についた匂いを嗅ぐと首を大きく縦に振った。
そして、その紙をきゅっと握っている。
「はい、この匂いです」
ユーリアはその様子が可愛くてクスっと笑うと女の子の問いに答えた。
「この匂いは僕が普段つけてる香水の匂いですね……。よく食べ物の匂いが充満している中気づきましたね……」
益々、恥ずかしそうにする女の子が紙を返そうとして手をユーリアに伸ばす。
「あ、あのこれ……」
ユーリアはクスクス笑うと受け取り、変わりにポシェットから小さな便箋を出した。
「あなたのお名前は?」
「カーリです」
「カーリ様ですね……」
ユーリアは便箋に『カーリ様またお会いできるのを楽しみにしています。』と書いて香水を一滴垂らして渡した。
「他の皆様には内緒ですよ。匂いに気付いて下さったので特別です」
「いいんですか? ありがとうございます!」
女の子は嬉しそうに紙を受け取ると匂いを嗅いで、顔を赤らめながら手を振り店を出て行った。
ユーリアはお辞儀をして微笑む。
一連の流れを見ていただろうラウラに言われる。
「なんだかユーリアのところだけお店が別よね……」
「女のくせに女にモテやがって……」
「羨ましいって言えばいいのに」
カイの零した言葉にリュリュがツッコミを入れて、次の客がゲームを終えてこちらにやってくる。
「黒髪ツインテール猫娘はどこだー! ユーリアどこだー!」
またもやユーリアに駆け寄ってきたのは、メイド喫茶でお世話になっている店長のクヌートだ。
「恥ずかしいからやめて下さい。知り合いと思われたくありません」
ユーリアがそう告げると、クヌートはユーリアを睨みつける。
「なんだとー。俺の人生にとって美少女は1番大事なんだぞ!」
ユーリアはしらけた顔で話を流す。
「ご注文はいかがされますか、オーダー表に書き込んでください」
「どこにいるか教えてくれれば、買う!」
「子供じゃないんですから……あ、このもちもちミルクティー店でも使えるかもしれませんね……。女性向けだから、この機会に有名になってこれを店で出せば女性が来店するようになるかもしれませんね……」
「なに!?」
クヌートは考えた結果、コッペパンとタピオカ苺ミルクを購入する。
「この自分で具材を選べるのは新しいな、いろいろな組み合わせが試せる……。だが、余る食材も出てくるのではないか?」
「全体的にまだあまり仕入れてません。今日の傾向を見て買い足していく予定です」
「ほう、さすが経営には強いなユーリア!」
「アハハ。店長のように経費と言って無駄な物を買ったりしませんよ」
店長はニヤッとドヤ顔でユーリアを見据える。
「無駄な物ではない。俺のモチベーションを上げるためにはコスプレは大事なんだー!」
「はあ、それではまたのご来店をお待ちしております」
ユーリアは要注意人物を追い出すと一息つく。
「あれってまさか店長ってバイト先の?」
「そう。メイドカフェ。あの人の趣味が4分の3を占めてる」
ラウラの憐みの眼差しに、ユーリアは遠い目をした。
「猫耳娘は自分だって名乗ればよかったのに」
リュリュがふざけてユーリアに言ってくるが、ユーリアは首を横に振る。
「あの人に言ったら面倒。絶対猫イベント」
「ユーリア、そういえばさっきから思ったんだが、接客中言葉が聞き取りやすいんだが……」
カイに言われて気付いたが、確かに口調が接客時には普通に戻ってしまっている。
「面倒だから、お客さんにお客さん呼んでもらえないと猫コスプレになる……。接客は笑顔と話が大事。普通の言葉がんばる」
「ユーリアって本当は普通に話せるんだね……。片言しか話せないと思ってたよ。」
ラウラにも言われるが、諸事情があるのだ。
「ごめん。ラウラ頑張れば普通に話せる。」
「別にいいんだけど……接客中のユーリア別人みたいね……。猫の時もそうだったけど、ユーリアって……」
「ラウラお客さん!」
ゲームを終えて出てきたお客さんが来て話は途中で終わった。
ユーリアのやり方を見ていた面々は上手に盛り付けをしお客さんに渡せている。
それからも続々とお客さんが入ってきてあっという間にユーリアの休憩時間となった。
*
「ユーリア、アネット早くいこー」
ティナとアネットと3人で休憩時間を合わせて他のクラスを見て回る。
他の皆が慣れるまで様子を見てたので最後の休憩時間になってしまったのだ。
2時から3時半まで今日は休憩できる。
「お腹ペコペコだよー。すぐ食べれるとなると……園庭の露店行こー!」
園庭にはいくつもの一般の人や生産クラスの人が露店を出しているので、すぐ何かしらありつけるのだ。
ティナは当然ガッツリ炭水化物を選び、ユーリアはデザート系アネットはタンパク質系を購入する。
テーブル席エリアへと足を運ぶと見知った顔がいた。
「あれ、ティナちゃんにユーリアちゃん。これからそっちの教室行こうと思ってたんだよ。今から休憩かい?」
イーヴァル先輩達が周りの女子達の視線を集めながら食事を取っていた。
ティナは手招きされると相席でご飯を食べ始める。
最近イーヴァルのそばにいるせいか、この痛い視線に慣れてきた気がする。
「私たちは3時半までお休みなんです。先輩達は?」
「僕たちは3時からはクラスの手伝いかなー。午前中は生徒会の方で動いていたし……3時からはダンスがあるからね……」
「突飛な発想をするから自分に返ってくるんだ」
イーヴァルはシェルトに怒られている。1年生に負けたくないからと華を出すために、ダンスをやる事にしたらしい。
「俺はよかったぜー。ダンス楽しかったしな……。ねえ、アネットちゃん」
ガストンが斜め向かい側に座っているアネットに手を振る。
アネットは顔を赤らめると、パクパクとお肉を食べ続けている。
「あら、顔赤らめちゃってかわいい」
ガストンは手を伸ばすとアネットの頬を突く。
アネットは益々顔を赤らめる。
「ガストン先輩アネットはこういうのなれてないから、あんまり触らないでー! 武芸に一筋な子なんです」
ティナに怒られるとガストンは肩を竦める。
「はいはい、分かりましたよー」
「はあ」
何故かシェルトがため息をつく。ユーリアが小首を傾げていると、イーヴァルがユーリアの耳元で囁く。
「ガストンはね。気になる子に触りたくなっちゃうんだよ。アネットちゃんのこと気に入ったのかな?」
ほうほうと頷きガストンを見ると、ガストンはいーを睨んだ。
「余計なこと今言っただろ!」
「何も言ってないよねー。ユーリアちゃん?」
ユーリアはイーヴァルの言うように何も聞かなかった事にする。頷きながら答えた。
「何も聞いていない」
ガストンはケッというとそっぽを向いてしまった。
「そうだ。この後暇かい、せっかく会えたから、ベティーナのクラスでやってるお化け屋敷行こうとおもうんだけど、どうかなー?」
イーヴァルは話を変えてティナに話しかける。
ティナも乗り気で頷き、ご飯を掻き込みむせる。
「全くほら、これでも飲め!」
ガストンはティナに自分の飲んでいた飲み物を渡しティナもそれを飲み込んだ。
「うげー、死ぬかと思った。ありがとうございます」
「そんながっついて食うな……全く」
ガストンはそういうと、そのままティナから預かった飲み物を飲む。
何故かそれを見てアネットが再び顔を赤らめた。
「お、アネットちゃん羨ましかった? 俺の飲んでみる?」
ガストンがアネットの方に飲み物を渡そうとするが、アネットは首を横に振る。
「ガストンさんアネットは純粋なのー! そういう事しない!」
再びティナに怒られたガストンは面白そうに飲み物を飲みながらアネットを見ていた。
*
「それじゃあ行くか!」
ガストンの声で皆ベティーナの教室へと向かった。列に並んでいると教室の中からは悲鳴が聞こえる。
「それでは、闇の誘惑にあなた達は耐えれるでしょうかクスクス。せっかくだから男女二人でペアを組めよ! イーヴァル。」
先輩同士は知り合いのようで案内をしていた青年に声をかけられ、イーヴァル、ティナペア。シェルト、ユーリアペア。そしてガストン、アネットペアでお化け屋敷に入っていく。
先導しているティナからは叫び声じゃなく楽しくお喋りしている声がするが、ユーリアはこの環境が怖くて仕方なかった。
昔からこういうところは苦手なのである。
自然とシェルトの腕を掴んでいたようで、シェルトにため息をつかれ、我に返り手を離した。
「いい。怖いんだろ。捕まっていろ」
ユーリアはシェルトに捕まりながら、きゃーと悲鳴を連発させていく。
最後に女の人が肩に触れてきた時にはシェルトに抱きついてしまったのだ。
「くすくす、ユーリア私よ」
声を聞けばそれはベティーナだった。妖艶な衣装をきて笑っている。
「シェルトもいろいろと大変ね。おしゃべりしてたいけど、先に進めそうなら進んでね」
ユーリアは頷くとシェルトの腕をガッツリ掴み、お化け屋敷から出た。
先に待っていたティナはユーリアを見て驚いている。
「ユーリア? 怖かったの?」
「……ティナ」
ユーリアはシェルトから離れてティナに抱きつく。
「私こういうの苦手で……結構怖かったの。」
「役得だなシェルト」
「うるさい」
ユーリアが怖がる中二人でコソコソと何か話しているようだった。
そして、最後に出てきたアネットは平然の顔をしてどちらかというとガストンのほうが顔を青ざめさせていた。
「あ、きた。ガストンダメなら行かなくてもよかったのに……」
「お前わざとだろう。女の前で尻尾巻いて逃げれるか!」
アネットは目に見えない存在を信じないタイプで黙々と前に進んだらしく。一回ガストンがどうやら怖くなってアネットに抱きついたらしい。
アネットは優しくガストンの背を撫で落ち着かせてゴールを目指したと言っていた。
「立場逆じゃないガストン先輩」
「うっせ。人には向き不向きがあるんだよ」
ガストンは顔をツーンとさせて怒っている。
「ガストン先輩お気になさらないで、私は気にしていませんから」
アネットが優しく声をかけると、振り返ったガストンが、世話かけたなと一言言った。
「ええ」
二人の関係が一歩進んだように見えた。
「じゃあ僕たちはそろそろ戻ろうか……ティナちゃん達はどこか回るところ決めてるの?」
「いえ、まだですけど」
「じゃあ僕たちのクラスの様子見に行く?」
「混んでなかったら、行きます!」
ティナも執事カフェに興味があるようでウキウキでむかった。
「ありゃー。結構混んでるね……優待券使うのも申し訳ないし今日のところは引き返すか」
「そっか残念だけど……」
「ではまた」
ユーリア達はイーヴァル達と別れ教室に帰ろうとした。
すると、後ろから声がかかる。
「ユーリアちゃんまだいてくれて良かったよ。手違いでダンスできる男子以上に当選の紙出てたみたいでさ……。リード側も出来たりしないかな?」
「出来なくないけど、楽器のほうかわろうか? 踊るなら男の人との方が女の子はいいでしょ?」
「んー。じゃあ本人に聞いてみようか」
教室に入るとすでにドレスアップされた女性が4人いた。
「一応くじで誰と踊らるか決めたんだけど2枚僕の名前が入ってたみたい」
「あれ、カーリさん?」
ユーリアが見たのは最初カフェに来てくれた女の子だ。
「カフェの店員さん?」
「イーヴァル先輩弦楽器で踊れる男性は?」
「彼なら大丈夫だけど……」
「了解」
ユーリアはカーリの前に片膝をつき、話しかける。
「カーリ様たまたま、このクラスの出し物を見にきたのですが、ダンスなんて楽しそうですね。私は執事ではございませんが、私と彼らどちらがお相手がいいですか?」
ユーリアはイーヴァルと楽器を構える男性を順に指差す。
カーリは、頬を赤く染めると膝をつくユーリアの手を取った。
「あなたがいいです」
「承知しました。お嬢様。では少し心許ないかもしれませんが、一曲踊って下さいませんか?」
「はい!」
ユーリアが彼女の相手をする事になり、丸く収まった。
ユーリアは彼女をエスコートする。
「音楽に身を任せて、ステップとかは深く考えずに楽しく踊りましょう。カーリ様」
目を潤ませて返事をする彼女にユーリアも頷き、手を添える。
音楽が始まると身を委ねられ、楽しい時間を過ごした。
「それではお嬢様、ダンスが終わりましたので一杯お茶を飲んでいただけますか? 私の好みの味なのですか……」
ユーリアはハーブの入ったお茶を出す。
「この香り……」
ユーリアはカーリの言葉に人差し指で彼女のところ口元を押さえると一言つげる。
「この香りの事は二人の秘密ですよ……」
ユーリアは先ほど渡した香水に含まれている、ベルガモット系の匂いのするように茶葉をブランドしたのだ。
「はい」
カーリは笑顔で頷いてくれた。
彼女らが帰るとクラスの皆にピンチを救ってくれてありがとうと感謝され、待たせていたティナ達と共に教室に戻った。
1日目が無事終了し調理室で明日の仕込みを終えて、明日に向けて気合を入れるのであった。




