文化祭の始まり黒猫にダンス
調理室の割り振られている時間が限られているため、ユーリア達は手早くお菓子を作っていく。
クラスの女子がほとんどが未経験のためユーリアが仕切っていく。
テーブルごとに作るものを決めスケールで分量を測るように伝える。
「粉振るう。バター湯煎で溶かす。振るった粉を少しずつ入れる。」
ユーリアが手本を見せて皆見様見真似でどんどんと作っていく。
クッキーにパウンドケーキ、チュロスにクレープ生地にコッペパンだ。揚げた芋もある。中の具材の果物や野菜については明日教室で作る予定だ。
食事を取るスペースは確保できなかった為テイクアウト方式の店にする事にしたのだ。
売上の一部が打ち上げの費用として学校側からもらえる為なるべく稼げるほうがいいので、結局この方式をとる事になった。
教室の3分の2で魔獣狩、残りのスペースでカフェだ。
味見と称し先ほどからヴィムはパクパククッキーを食べ、美味いとユーリアを褒めていた。
同じく味見としてバクバクチュロスを食べているティナがその様子を見てニヤニヤと笑っている。
「ティナ?」
「なんへもないよ」
不審に思ったユーリアは首を掲げて話かけたが、モゴモゴと口をさせたティナになんでもないと言われてしまった。
順調に準備が整った。
*
文化祭当日。
文化祭の日程は全部で5日間。後夜祭以外は一般客も入れる事になっている。
初日はクラスの出し物のアピールタイムが大半の時間を占める。そして、中日は学年問わずの各コースの有志たちが集まり学園の庭で日頃の学業の成果を披露する事となっている。
そして最終日は後夜祭となっており、生徒だけで楽しむ事となっている。
講堂に集められた生徒達は学園長先生のお話と諸注意を聞き、アピールタイムの順番を決めるくじ引きだ。
ユーリア達のクラスは最後から2番目となった。
魔術具作成の体験やお料理体験、武術指南やカフェ、お化け屋敷など様々な出し物の発表がされていく中、ユーリア達の出番となった。
「それでは、武術クラスの1年生のアピールタイムです。どうぞ」
ナレーションが終わると会場は暗闇に包まれた。
ステージ真ん中がほんのりと二つ光を浴びている。パッと常夜灯が止まり、ステージの真ん中に2つの影がいるのがわかった。
さらに魔術具により照らし出され中央に立っていたのが、長い黒髪をツインテールで結び、猫耳、肩部分がレースの膝上寸の黒ワンピースに、黒い太ももまであるソックスを履いたもの。
同じ格好で黒く長い髪をポニーテールに結んでいるものが二人、背中を合わせるようにして手を繋ぎながらこちらを見ていた。
ティナの感情のこもったナレーションが始まる。
「暗闇の先には魔獣達の住処があった」
急にステージ左側に女の子が移動すると右側から光るボールを持った冒険者風の男の子が二人出てきた。
「魔女から受け取った魔法の宝玉で害悪を成す魔獣達を倒すのだ!」
ステージ全体に光が戻り、動かない魔獣を模った的や動く的が設置されている。
男の子達はボールを投げて的に当てる。
そして、最後に残ったのは先ほどの女の子達だった。ポニーテールの女の子が型のいい男の子の方に襲いかかっていき、ボールを当てられその場に倒れた。
そして、もう一人の女の子は猫のような動きで素早く空中を移動してボールを避けていく。
「さて、残る宝玉は一つ、魔獣を討伐することはできるのか?」
女の子は細身の男の子に襲いかかりボールがぶつけられ、その衝撃で少し後ろに転がり落ちた。
するとステージ上では右側だけに光が灯され、女の子にボールの当たったところが光っている。
残された男の子達は安堵の表情でガッツポーズをして見せ、何故か向かい側の舞台袖を見て一瞬驚愕の顔をした。
ステージ全体が暗くなるとまた中央に光が灯される。
そこに現れたのは一人のバーテンダー風の男性がいた。
怪しげに光るティーカップにポットから紅茶を注ぎそれを差し出し、微笑む。
辺りに火や雷を宿したクリスタルが浮遊し始め幻想的な雰囲気が出ている。
「冒険の後は幻惑カフェのお茶を一杯いかがでしょうか?」
ステージ全体が明るくなると、ポニーテールの女の子と男の子3人が並んでお辞儀をする。
「制限時間は5分。宝玉はお一人3つまでです。ちなみに魔力の使用は禁止です。
グループの点数はランキング形式で教室横に張り出します。併設しておりますカフェ派テイクアウト方式とはなっておりますが、珍しい物を飲めるチャンスですので、ぜひお越し下さい」
4人は幕がおりるまで手を振り続けた。
盛大な拍手が巻き起こる。
そして、幕が降りると周囲はざわついている。
「猫耳二人レベル高いな……ツインテールはどこに消えた……」
「あの猫耳一年生なのか、誰だ?空中を移動してたぞ」
「光るボールってなんだ。魔力使用禁止という事は魔術具という事か……」
「あのカフェ店員イケメンじゃなかった。ドキドキしちゃった!」
「絶対一回は行かなきゃ…………」
ザワザワと会場がしている中、ステージ袖の控え室に入ったユーリア達は一息ついた。
結果反響は大きかったと思うが、ハプニングだらけのアピールタイムだったのだ。
ツインテール兼カフェ店員がユーリア、ポニーテールはアネット、冒険者A.Bはヤンとベネディクトだ。
「ユーリア、本気出しすぎだろ、俺ボール当たる気がしなかったぞ」
愚痴を零すのはベネディクトだ。想定していた個数を終え、予備の一個を取り出して投げたのだ。
「役に集中しすぎた。ごめん。ティナのアドリブで我に帰った」
ユーリアは謝る。ヤンはそれを見て笑う。
「空中を移動するとは思わなかったな」
「本当よ……でも足場を氷で作るなんてすごいわ。崩れてく氷がキラキラ光って綺麗だった」
「ええ、そうね。幻想的な演出をイメージしていたからちょうどよかったわね」
アネットも喜んでくれている。
「だが、ユーリアなんで舞台袖で普通に着替えしてるんだよ!」
ベネディクトとヤンは二人とも何故か怒っている。
「別に二人はユーリアの水着姿見てるんだし、問題ないじゃない。キャミソールに短パン着ていたんだから問題ないわ」
「「問題なくない!」」
ティナの言葉にベネディクトもヤンもツッコミを入れる。
「俺たちよりも設営に関わってる先輩達からは丸見えだっただろう」
「やましい目で見るほうがどうかと思いますけれども……」
「右に同じ」
「いや、思春期の男供を甘く見るな。この阿呆」
いつの間にかに会話に入ってきたルーカスにユーリアは拳骨を喰らう。
頭を抑えてあると、顎に手を当てて考え込みニヤニヤとするティナがいた。
「確かに、胸を潰す下着を使った時はエロかったかも……いいもの見れましたね。先生」
「いいものは見れたって違う。もう少し男の視線というものを考えなさい。お前達も年頃の娘なのだから、慎みを持たなくてはならない」
「やはり、他の男に見られるのは嫌ですよね……にいづま……」
ルーカスはティナの言葉を遮り頬を摘む。
アネットは首を傾げ「にいづま?」と言葉を繰り返している。
「アネット……いや、お前たちさっさと制服に着替えて席に戻れ!」
ルーカスはそれだけ言葉を残し控え室から出て行く。
先に男性陣が着替えて部屋から出ていくと部屋をノックする音が聞こえる。
「はい!」
ティナが控室の扉を開けるとそこにいたのはイーヴァルだった。
「ユーリアちゃん達ごめん頼まれて! 次僕たち大トリだったんだけど、ユーリアちゃんたちあまりに凄すぎたからさ……少しテイスト変えたいんだ」
「敵に塩を送れと……」
ティナがイーヴァルを見ると、イーヴァルは自分のクラスの優待券を3人分渡す。
「デザートただプラス優先的に教室に入れるようにしてあげる」
ユーリアの心はすぐに折れ、挙手をする。
「はい、やります」
その様子にティナもアネットも苦笑し、3人とも手伝う事となった。
*
「では、最後は武術クラスの4年生のアピールタイムです」
暗転したステージから幕が上がり。十数名の執事服を着た男性が手を胸に当て立っていた。
「お帰りなさいませ。お嬢様。ご主人様」
声やお辞儀をするタイミングまで揃えられた姿は圧巻だ。
そこで一歩前にイーヴァルが進む。
「私どものクラスでは、我々執事がお嬢様方をお迎えいたします」
真面目な顔で一言言ったかと思えば笑みで顔を崩し女の子たちに手を振り始める。
シェルトがマイクを取り返す。
「誠心誠意おもてなしいたしますので、どうぞ、足をお運びください」
一旦シェルトとイーヴァル、もう一人の青年がはけるとドレスを着て仮面をつけた3人をエスコートして出てきた。
「そして、カフェを訪れた方の中から抽選でダンスにご招待いたします。ドレスアップ我々執事が腕によりをかけて、行います。もちろん私ども執事がお嬢様方にお教えしますので、初心者の方でも大丈夫です」
音楽が鳴り始めダンスを踊る。
ユーリアがイーヴァルとティナはシェルトと、アネットは青年とダンスを踊る。
講堂内からは黄色い声と妬みの声が上がっているが、次第にその声は聞こえなくなり、ただただ3組の踊りを眺めるだけとなった。
ダンスが終わり余韻が残るなか、男性たちは胸に手を女性はドレスの裾を持ち上げ、お辞儀をする。
「どうぞお気軽にお越し下さい」
「お帰りをお待ちしております。お嬢様」
武術クラスの青年たちがまた声を揃え頭を下げたところで幕が降りる。ユーリアはお嬢様らしい手の振りと微笑みで舞台を終えた。
アピールタイムを終えた面々は控え室でしばしの休憩だ。
「皆、ありがとうね。楽器を使えるのがほとんど女性でダンスまで人が回らなかったんだ……成功してよかったよ」
「私の名前絶対に出さないで下さいね。これ以上妬まれたくないです。面倒です」
ユーリアがイーヴァルと組んだ事で心配した点はそこだった。
「大丈夫だ。自ら名乗らなければ……こちら側の控え室は誰も来ない」
シェルトが言うと、もう一人の青年が話しかけてくる。
「イーヴァルと舞台の上で踊ったとかバレたら恐ろしいことになるよな。仮面付けたのは正解じゃないか?でもピンクの髪のお嬢ちゃんはすぐ身元がバレるからそっからどうなるかだな……でも、あんたみたいな綺麗なの一年にいたか?」
青年がユーリアの顔を覗き込む。
「ガストン辞めておけ、コイツに近寄ると内申点が落されるぞ……」
ガストンと呼ばれる青年は驚く。
「内申点が下がるってどう言う事だよ……」
「とりあえず、先輩たちドレス脱ぎたいから出てって……もう休憩終わりー」
ティナが扉を開けると4年の体術クラスの面々が控え室の前で待機していた。
「ねね。そこの可愛い子たち誰? すんげー気になるんだけど、良かったら文化祭回ろうよー」
「悪いな。もう先約済みだから、お前らの出番なし」
男性陣3人が守ってくれる。
そこに現れたのは、ルーカスだ。
「お前ら、コイツらは手を出したら、内申点下がるからな……全くイーヴァル勝手に他のクラスの子を巻き込まな……ほら、お前たちは着替えに行け! 自分の控え室に行け!」
「俺らこのままクラス行くから問題ないのに……」
「じゃあ、そのまま席に戻れ!」
ルーカスが拳骨を構えると皆散っていった。
「ガストンもこの事は他言無用だぞ……」
「はい、シェルトお前やっぱ頭いいなー」
ガストンたちはルーカスに追いやられ控え室を出ていった。
「ユーリア、お前正体隠したいんだよな?」
ルーカスに問われる。
「んー。まあ、厄介にならなきゃいい」
ルーカスもティナもため息をつくと、ルーカスは言った。
「じゃあ、姿を隠しなさいと何度言えばわかるんだ。アホが!」
ルーカスは言うだけ言うと控え室から出て行った。
「ま、でもユーリアだって今回はバレてないでしょう……。黒猫だって一年生の武術クラスの誰かで終わってるだろうし……。それよりユーリア黒猫姿で宣伝して貰うかもしれないからよろしくね……」
「ティナ。聞いていない」
ユーリアがむすっと顔をさせれば、ティナは人差し指を左右に振りチッチッチッチー!という。
「今回、女性客のほとんどはイーヴァル先輩のところにとられるわ。なら、男性客を入れればいいのよ……」
「それ、カフェでもこの格好?」
「まさか私も……」
「もちろんよ……」
黒い笑みを浮かべたティナは何かを企てているのであった。




