二学期の始まりと文化祭準備
「今年の夏のチーム対抗戦ないって噂あるんだってよ」
二学期早々に声をかけられたのはヤンだった。
シュペルノヴェイルから帰郷後は一人で生きていく覚悟を決めたユーリアは、バイトに勤しみ、昼間はメイドカフェ夜は治療院の夜勤のバイトをしてお金を稼いでいた。
ティナ達もいつも通り接してくれて、シュペルノヴェイルやイルムヒルムで起こった事は一切触れてこなかった。
「対抗戦?」
ユーリアがヤンに聞き返すと、どうやら今年の夏休みはイルムヒルムへの救援要請があり、武芸コースの面々が準備不足のため夏のチーム対抗戦は行われない事になっているらしい。
「俺、楽しみにしてたのにさー!」
根っからの体育会系であるヤンは先輩達が戦う姿を見てみたかったらしい。
ティナも首を大きく縦に振っている。
「先輩達の大魔法見てみたかったなー。私たちがやってた対抗戦とは規模が違うらしいから、それこそイーサク並みの作戦なんて普通だったらしいよ。まあ、出力は考えてだろうけど……」
「あら、そうなのですね。先輩達の戦いは見てみたかったです」
故郷から戻ってきていたアネットも残念そうだ。
「僕はスカウトされた時の参考に各チームの実力を知っておきたかったのに残念だよ」
自信たっぷりのステンも久々に会うと懐かしく感じられる。
久々に会った友人達が揃った二学期が始まった。
チャイムが鳴りルーカスが教室に入ってくる。
「ほら、席につけ、久々の再会で懐かしく思うのは分かるが、さっさとしろ!」
ルーカスに皆急かされ、それぞれの座席へと座る。
「無事全員二学期を迎えることができて何よりだ。知っていると思うが今年の夏の対抗戦は夏休みにあった遠征により中止となった。今年は冬のみ開催する」
生徒達からは落胆の声が聞こえる。皆楽しみにしていたようだ。
「だが、すぐに文化祭がやってくる。クラスで出す出し物を考えておくように……出し物にきた客の得票数で採点され、今回は夏の対抗戦で使わない食堂の半額券が1ヶ月分クラスで貰えるそうだぞ……」
ルーカスの言葉に生徒達は皆食いつく。
ホームルームが終わり座学が始まるまでの時間は専らその話だ。
「ユーリア魔獣使えねえの? 模擬戦とかどうよ?」
ヤンの提案に皆呆れる。
狭い教室でどうやって暴れるというのか……
「却下。狭い」
「ヤンの、バーカ。筋肉脳筋」
ティナにまでダメ出しされてヤンは、落ち込みベネディクトに励ますように肩をたたかれている。
「ふふふ。私はいい案あるもんねー。今週末のホームルームで提案するから皆驚きなさいよ!」
ティナが自身ありげに言葉を残し、授業が始まった。
ティナとバイトが同じ日に何をやるか聞いてみたが、答えてくれなかった。
1週間後までお預けである。
*
そして、1週間後のホームルーム。
「それでは、皆考えてきたか? 案を出せ!」
訓練場を貸し切って魔獣を使った模擬戦や、お化け屋敷、カフェや生徒にペイント弾を当てるゲーム。
いろいろと案が出たが、ティナが笑顔で挙手をすると言い切った。
「先生、メイドカフェがいいと思います!」
「ティナ、それはお前のバイト先だけで十分だ。あの女好きと同等の事をオレのクラスでさせる気はない」
ルーカスがティナの提案を却下し、ペイント弾のゲームが面白そうだとこぼせば、ティナの攻撃が始まる。
「恋人、新婚……」
ティナが呪文のように唱えるとルーカスはそれを止める。
「ダメだ。なんと言われようともせめて成人する年までは認めん」
ティナは顔をムスッとさせると腕を組み、顔を膨らませる。
ユーリアは挙手をする。
「なんだティナの援護か?」
ユーリアは首を横に振る。
「先生、魔獣屋敷ペイント弾混ぜる。教室暗く。体術コース魔獣役、魔術コース教室に炎や雷小規模で時々照らす。錬金コース魔獣役につける蛍光の魔術具と、足元を照らすランプ作る。武術クラスっぽい」
ルーカスは顎に手をやり、頷き始める。
「魔獣に何個ペイント弾当てられたかでランキング形式で名前張り出す。リピート客も出る」
「まあ、体術クラス向けの出し物にはなりそうだが、悪くない。他のクラスの者も入る要素のある部分を考えなくてはな……」
クラスの大半も面白そうと反応する。今回の出し物がユーリアの案に決まりそうになるとティナが手を上げた。
「先生。確か文化祭の初日に各クラスのアピールタイムがあるんですよね……ユーリアが魔獣のコスプレすればいいと思います! そうすればいっぱい人が来ますよ」
「それだと男しか来なくないか?」
ティナの提案にヤンが突っ込む。ユーリアが再度考え、言葉に出す。
「んー。魔獣を倒した後に何かあげる? 当日錬金コース暇。幻想的なカフェ。例えば……」
ユーリアは氷の粒を空中に出しキラキラとさせる。クリスタルをイメージしている。
後はオーロラを教室に出した。
「ユーリア……氷の粒くらいなら出来そうだけど、最後のカーテン見たいな光は難しいかな……」
ドニが言うと、ルーカスが話をまとめた。
「よし、じゃあ、魔獣討伐のランキングと幻想的なカフェでいいな。全ての案が入っているしいいだろ……ユーリア。アピールタイムで十分客を引きつけろ。それでいい。細かいことは皆に任せた」
ルーカスは早々に考える事を放棄すると、内装や衣装、担当することなどを決めていった。
*
放課後ティナと一緒にバイト先でアピールタイムに着る服について練っていた。
「ねえ、ユーリア猫耳と尻尾は外せないでしょ……後は衣装か……露出は多目がいいわよね……」
ティナが紙に絵を描き始めると、一つ先輩のソルが話しかけてくる。
「文化祭の出し物?」
「そうなんです。ユーリアのアピールタイムに着せる服を考えてたんですけど、可愛い猫で露出度高めな服ってどうすればいいですか?」
ソルは生産クラスの服飾コースを専攻しており、デザインなどは得意なのだ。
「そうね……。ユーリアに着せるならこんなのはどうかな……」
ソルはさらさらと紙に書き始め、原案が出来上がっていく。
「どうかしら……?」
ティナはうんうんと頷き2人でどんどん話が進んでいった。ユーリアは話においてかれ、衣装はバイトが始まる前にこっそりソルも混ざって作ってくれるようだ。
ユーリアは2人に自分の衣装は任せて、文化祭初日のアピールタイムでの演出を考える事にした。
*
文化祭の2週間前の魔術具の授業では当日に飾る魔術具の選定が行われていた。
「ねえ、ユーリアさっきから何を考えているの?これから新しい魔術具作るの?」
通常はもう既に作った物の中から選んで当日どのようにレイアウトを考えるのだが、一人ペンを持ち考えにふけっていたのだ。
「ペイント弾。体塗料だらけ。かわいそう……」
「ほう……。薄く纏った白魔石の鎧に魔石入りのボールを当てて鎧を光らせるのか……面白いのではないですか?」
トピアスがユーリアの魔術具の素案を書いた紙を後ろから覗き込んでくる。
「ユーリアさんは今なんの授業中かわかっていますか? 自分の展示品についてもう決められているのですか?」
ユーリアはゴソゴソと紙をあさり2枚トピアスに見せた。
「これが展示案で取扱説明書。もうこっち終わった」
トピアスは「優秀なのは分かりますが……」とこぼし、ユーリアの魔術具の素案を取る。
「こちらは放課後、ご相談に乗ります」
トピアスはそう言うと、紙を持って自席へと戻っていった。
何やら自分も紙を出して、書き込んでいる。
「ユーリア、あまりトピアス先生の研究心をくすぐるな。こちらの身にもなってくれ……」
授業の補佐をしていたシェルトに睨まれるが、授業を忘れて魔術具の魔力回路を設計始めているトピアスに言って欲しい。
「ユーリア、今のって当日使えるようになるの? 僕たちはとりあえず当面は天井に灯すクリスタル型のランプと足元の灯りの作成で良かったんだよね……」
リュリュが心配そうにこちらを見てくる。
「んー。トピアス先生本気。たぶん次の授業、原案作ってくる」
「さっき覗いていたが、なかなかの発想じゃないか……あれを作れるというなら、楽しそうだ」
カイは魔術具の作成に意欲的だった。リュリュの不安そうな顔にシェルトが告げる。
「他の学年も文化祭まではクラスの出し物の小道具を担当しているから、授業にもそれを取り入れていく。だから授業の進行の妨げにはならない。その辺は安心しろリュリュ」
「シェルト先輩、あれって完璧に一年生が作れる魔術具の範疇を超えていますよね……」
その懸念をシェルトは否定する。
「恐らく、原理も含めて次回トピアス先生から説明があるだろう。それでなくても1人飛び抜けた発想の持ち主がいるからこの学年は授業の進行工程がおかしいのだ」
ラウラもリュリュも頷いている。普通はオリジナルの魔術具の作成は基礎を固めた3年生くらいから始まるものらしい。
そして、その日の放課後トピアスに呼ばれたユーリアはシェルトも付き添いで、トピアスが考えた素案に対して改良点を見つけ、次の授業には原案が出来上がっていた。
「今年の1年生は本当に優秀で頼もしいですね。文化祭私も遊びに行きますね」
やりきったトピアスは満面の笑みで無理難題を突きつけられた一年生達に魔術具の作成をさせていくのであった。
ユーリア達錬金クラスは授業で作った試作品を手にその日の帰りのホームルームの後にルーカスを含めた皆に披露して、同意を得て当日までに後何個か作る事となった。
*
文化祭の5日前の放課後、ユーリアは生産クラスの棟にティナと共に訪れていた。
それまでの放課後は多忙で、衣装を女子達と作り、授業だけでは追いつかなかった魔術具の作成をしていた。
なんとか数も揃い、今日は明日使う材料の調達に直接足を運んだのだ。
「ユーリア、こちらよ」
手を振り棟の入り口で待っていたのはベティーナだ。
バイト先で文化祭の話をしたら、店で買うより経費が安く済むからと仕入れ先を紹介してくれる話になったのだ。
「こちらはプルム先輩よ。生徒会の副会長をしているの。今日は一緒に案内してくださるわ」
ベティーナの隣に立つのは少し肌が日に焼けている女性だ。
「生産クラスの農業コースを選択している。学年は5年生だ。よろしく!」
差し出された手をユーリアとティナは順に握っていく。
「ふむふむ、この茶髪が噂のユーリアか……。それにピンクの方がティナだろ……。君たちの話はベティーナから聞いていたよ。一度顔が見たくてね……」
「クスクス。プルム先輩ったら忙しいっていうのにわざわざ時間を取ってこちらにいらしたの。
私1人で案内できるというのに……」
「ベティーナ、いいじゃないの。この忙しい時だからこそ、息抜きは大切でしょう?」
プルムはティナの手を取り、グイグイと生産棟へ入っていく。
「プルム先輩はいつもこうなのよ」
スタスタと歩いていくプルムを見ながら、ベティーナはこぼす。
「やりたい事をやりたい人でね。生徒会の中でも1番決断力があるというか……」
「我が強いんですね……」
ベティーナはユーリアの言葉に笑い、頷く。
「会長ってものすごく聡明な方なのだけれども、プルム先輩の前ではいつもたじたじなの」
はぁと、ため息をつき、頬に手を当てベティーナは困り顔になる。
「残された私たちで制御できるか不安なのよね……」
ベティーナの呟きに、ユーリアは前を歩くプルムを見つめた。
「ほれ、ここが畜産コース! ヴィムいる?」
家畜小屋の中から1人の型のいい男が出てきた。
「プルム先輩。あー。カーコまた後でな」
1匹の牛に声をかけてこちらにやってきた。
半袖の作業着からは鍛えられた腕が見えている。
「ティナとユーリア。今回の文化祭でお菓子作るのにバターを購入希望よ」
ユーリアはプルムがグイグイと背中を押し、ヴィムの前へと押しやられる。
「了解です。話は聞いてましたよ。カーコのバターはうまい。是非とも宣伝も兼ねて使ってください!」
ヴィムは手袋を外し、握手を求めてきたので、ユーリアも応じる。
「うん。看板作る」
ヴィムはニカッと歯を出し、笑うとベティーナを見た。
「ベティーナさんから言われた気がするけど、なんでプルム先輩が来てるんだか……。生産クラスの生徒会は1人なんだから統制しなきゃでしょうに……」
プルムはヴィムの腕に肘打ちすると、ニコニコとする。
「まあ、いいじゃないか……。私は忙しいし、せっかくだからこの棟を案内して! ティナは服飾に興味があるんだよね……。ベティーナはそっちを案内して! 小麦は私が用意させるよ! じゃあ!」
プルムは4人を置いて、さっさとその場を去ってしまった。クスクスと笑うベティーナもティナをつれていく。
「ユーリアの事はヴィムに任せるわ。ティナ行きましょうか。ユーリアをひと通り案内したら服飾実習室の方まで連れてきて……では」
取り残されたヴィムはため息をつくと、ユーリアを先程いた小屋の中へと案内する。
「ほら、ここがこの学園で飼ってる動物のいる小屋だ。食用になるやつもいれば、カーコみたいに乳を加工品にしているやつもいる」
ユーリアはカーコに触れる。
「魔力を感じない……」
ヴィムは首を傾げ、ユーリアを見る。
「なんだ、魔獣しか知らないのか……こいつらは魔力をもたないさ。人間と一緒。あっちに卵取るようの魔獣の鳥もいるにはいるが、ここにいるののだいたいは魔力をもたないさ。下手に暴走されたら危ないからな……」
ユーリアの周りには魔獣しかいないので、実際に目で見てみると不思議である。
「この世界にも普通の牛さんがいるなんて……いっぱいいいお乳出すんだよー!」
ユーリアの手をペロリと舐めた牛の姿を見て、ヴィムが焦った。
「おいおい、カーコ舐めちゃダメだ。慣れていない人にそういう事しちゃ……」
ユーリアは笑うと再度牛の頭を撫でてやり、大丈夫と一言言った。
ヴィムはその言葉に驚いた後、優しく微笑んだ。
「お前、動物好きなんだな……家畜に触れるのすら嫌がるのに、普通に頭撫でてたもんな」
「動物全般大好き! 撫でた時の目が可愛い!」
ヴィムはユーリアと一緒に牛の頭を撫でる。
「そうか、俺も一緒。愛情注いだ分返してくれるからな……コイツらは……」
「分かる。人はよく分からない」
2人で頷き合って笑う。
「それじゃあ、今度は農業コースの方行ってみよう。今は何が実ってるかなー」
ヴィムに連れられ棟内を回って最後に服飾コースの実習室へと入った。
待ち構えていた2人がニヤニヤとしながらユーリア達を見てくる。
「2人の想像のような展開違う」
ヴィムはユーリアの言葉にキョトンとしながらも、4日後に調理室までバターや材料を一式届けてくれる事になった。
*
「ユーリア、ヴィムはどうだった? 2つ上の先輩でちょうどいい年周りだと思うのだけれども……」
帰り道にベティーナに問われるが、ユーリアは首を横に振る。
「いい友人にはなれると思いますが、今はまだ恋愛の方はちょっと……」
ティナはユーリアの肩をトントンと叩くとニヤニヤとする。
「好感触だったんじゃない。動物好きの好青年。向こうも悪くない感じだったし、ユーリアの文化祭での姿を見たら、きっと……」
「ユーリアの黒猫姿、私も楽しみにしてるわね」
ユーリアの衣装作りにハマり始めて、何故か最後の仕上げを実習室で行っていたソルに2人は衣装を見せてもらっていたのだ。
ユーリア本人は見ていないが、渾身の出来だとソルが言っていたらしい。
「はー、アピールタイムでは変装して尚且つ名前は出さないですからね……」
「分かってるわよ。私も名前をバラすつもりはないわ」
ニヤニヤとする2人を尻目にユーリアは自宅へ帰るのであった。
文化祭の前の休日には教室の飾り付けを仕上げ、部屋に暗幕を貼る。
前日には、ヴィムに届けてもらったバターと小麦粉でお菓子作りだ。




